4/17チェック改憲 闘う先生 今も不起立 都条例 日の丸・君が代強制10年【中日新聞・特報】

チェック改憲 闘う先生 今も不起立 

 都条例 日の丸・君が代強制10年

2013年4月17日
【中日新聞・特報】

 当時は騒ぎだった。石原都政下、東京都教育委員会は二〇〇三年十月二十三日付で、国旗掲揚と国歌斉唱を教職員に義務付けることを通達した。それは都教委の説く「公務員は全体の奉仕者」(憲法一五条)という主張に対する「思想、良心の自由」(同一九条)の闘いになった。いま改憲が取り沙汰されているが、東京では十年前から攻防が繰り広げられている。世間の注目こそ薄れたものの、教職員たちの抵抗は続いている。 (上田千秋、小坂井文彦)

(写真)
先月の卒業式での不起立に伴う処分の説明(右)と再発防止研修の発令通知書
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右 「再発防止研修の庄迫感はすごかった」と話す大能清子さん
中 再発防止研修に抗議する人たち(柵の左側)と都教委の職員ら 今月5日、東京都文京区で(被処分者の会提供)
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左 「無批判に君が代は歌えない」と話す田問中聡史さん

「10・23通達」をめぐる主な動き

2003年10月
 都教委が「国旗掲揚および国歌斉唱に当たり、校長の職務命令に従わない場合は服務上の霞任を間われる」と定める
04年1月
 10・23通達に従う義務のないことの確認を求め、教職員側が東京地裁に提訴
  3月
 卒業式で起立斉唱しなかったなどとして、都教委が教職員約200人を懲戒処分
06年9月
 東京地裁が教職員側企画勝訴の判決。通達や起立斉唱の強要を選議と判断
11年1月
 東京高裁が適遼などを合憲と判断。一審判決を取り消す
  5月
 最高裁が別の訴訟で、起立斉唱命令について初の合憲判断
12年1月
 最高裁が別の訴訟で、起立斉唱命令に従わない場合の懲戒処分は、原則として戒告が相当と判断

研修 屈辱の再教育

●安倍政権誕生・・・再び厳しい処分

 「研修は苦痛だった。『立たないのは公務員としてあるまじき行為』と職務命令に従うように繰り返し言われた」
 先月あった東京都立の高校と中学、特別支援学校の卒業式で、国歌斉唱の際に起立せず、処分を受けた教員は六人。うち退職者を除く五人が今月五日、東京都文京区の研修センターで、都教委の講師らに囲まれた「再発防止研修」を受けた。ちなみに都教委側は不起立を「事故」と呼ぶ。
 この研修は二OO三年の「10・23通達」以降、不起立教員に課せられているが、昨年から内容が強化された。昨年一月、処分をめぐる訴訟で、最高裁が「累積、加重であっても、減給以上の処分には慎重な考慮が必要」という判断を示したためだ。
 従来は不起立一回で戒告、二、三回一で減給、四回で停職が処分の相場だった。だが、判決後は処分を重くしづらくなり、代わって重い研修が課せられるようになった。

■「まるで犯人」 

今回、四回目の不起立で処分された板橋特別支援学校教諭の田中聡史さん(44)は「はるかに厳しくなった。研修が嫌で起立した人たちもいたようだ」と話す。不起立を続けてきたが、校長がもめ事を嫌がり見ぬふりをしたこともあり、初の処分はご年四月の入学式の不起立。この年は七月に一度、研修センターで主に地方公務員法の研修を受けただけだった。 しかし、一二年は違った。三回連続の不起立に対するセンターでの研修は三回。校内で校長が指導する研修が十二回、都教委指導主事が訪問しての研修が三回あった。 田中さんは今年四月の入学式で不起立が五回連続となった。「教師になる時、人権尊重を中心に教えると誓った。ここで教育への強制を見過ごせば、いずれ生徒にも影響が出てしまう」 今回、戒告を受けた小岩高教論の大能(おおの)清子さん(53)は10・23通達から最初の0四年三月の卒業式以来、二回目の不起立。「特別支援学校と異なり、高校は担任だけが式に出る。久しぶりに担任になり、式に出た」研修では「まるで犯人扱いだった」という。研修の講義を復習のためにまとめる「振り返りシート」を書かされたが、答え合わせの際に都教委側は「生徒の盤国心を背てる」「国旗、国歌を尊重する」を正解として押し付けようとした。 研修では憲法も出てきたが、覚えるべき条文として示されたのは「公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」だけ。大能さんらがよりどころとする「思想及び良心の自由」は、昨年一月の最高裁判決に関する設問の模範解答にあった「国歌斉唱は職員の思想・良心の自由を侵害せず、一九条違反ではない」という部分だけだった。 「本当は波風を立てたくない。でも、間違った職務命令には従えない。戦前の皇民化教育を象徴する君が代の斉唱は、教え子を再び戦場に送らないという教員の誓いに反すると信じている。だから、逃げ出せません」

 

■「危険な方向」

 改憲論者の石原慎太郎前知事(現衆院議員)の下で出された「10・23通達」をめぐる都教委と抵抗する教職員たちの十年の攻防は、改憲をめぐる前哨戦にもみえる。
 都教委が通達を出した皆景には当時「日の丸・君が代は軍国主義の象徴」として起立を拒む教職員が少なくなかったことがある。それだけに当初は、教職員側の反発も弱くはなかった。
 主に司法を舞台に論戦が繰り広げられた。0四年一月、約二百人が都と都教委を相手に、起立斉唱の議務がないことなどの確認を求めて東京地裁に提訴し、教職員側が全面勝訴した。だがこの判決は二年一月に東京高裁で逆転敗訴する。
 最高裁の判断も異なる訴訟で割れている。とはいえ「思想、良心の自由」を完全に支持した判決はなく、
都教委の「やり過ぎ」をいさめるか否かの遣いにとどまる。ただ、こうした東京での試みはその後、濃淡はあれ、全国的に広がった。
 都教委によると、10・23通達に反したとして戒告以上の処分を受けた教職員は、先月までで延べ四百四十七人に上る。都教職員研修センターの担当者は「研修時間が増えたのは、新たに学習指導要領に基づいた内容を加えたため。研修はあくまで職務命令違反の再発防止が目的。教職員の思想信条を問うつもりはない」と繰り返した。
 都教委が思想、良心の本質論議を避ける姿勢は一貫している。問題は今年、田中さんが「減給十分の一を一カ月」という処分を受けたことだ。なぜ都教委は再び、最高裁判決を無視した強硬姿勢に転じたのだろうか。
 そこには、昨年暮れの政権再交代の影がちらつく。首相自ら現行の教科書検定制度を「愛国心、郷土愛について書き込んだ改正教育基本法の精神が生かされていない」と指摘。下村博文文部科学相は「見直しの検討」を表明した。十五日に政府の「教育再生実行会議」がまとめた提言では、自治体の首長に教膏長の任命・罷免権を持たせることを柱としている。
 なにより自民党の改憲草案には「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と記されている。
 教職員らの訴訟の際、原告団の弁護団副団長を務めた沢藤統一郎弁護士は「極めて危険な方向に国民を持っていこうとしているように思えてならない」と警戒する。
 「否定的な考えも許容される社会でなければ息苦しい。改憲は結局、国民の思想や良心を統合することが狙いではないのか」
 10・23通達が出た翌年の○四年春替に小学校に入学した児童は、既に高校生になった。そして、教職員の処分に対する世間の関心は薄れている。
 前出の大能さんはこう懸念した。「あの通達の後、都内の公立校では日の丸・君が代の意味をきちんと教えなくなった。やがて、都教委から「生徒に憲法について教えるないと言われないか本気で心配している」

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