3・11後のサイエンス:汚染水「浄化完了」の意味=青野由利

毎日新聞 2013年09月26日 東京朝刊
http://mainichi.jp/feature/news/20130926ddm013070015000c.html

 「福島第1原発の水管理には、少なくとも今後10年はかかるでしょう」。今月半ば、汚染水対策に追われる現場を視察したデール・クラインさんは記者会見でこう述べた。米原子力規制委員会(NRC)の元委員長で、東京電力の第三者機関「原子力改革監視委員会」の委員長を務める原子力工学の専門家だ。

 会見には、1979年のスリーマイル島(TMI)原発事故の廃炉作業を指揮したレイク・バレットさんも顔をそろえた。「TMIに比べて、複雑でやっかいな状況」「TMIでは汚染水を浄化したあと蒸発させたが、福島は水の量が多く、塩分を含んでいる。海洋放出しかないと思う」

 そんな困難な実情を聞いていただけに、19日に安倍晋三首相が紹介した東電の広瀬直己社長の言葉に驚いた。汚染水対策の期限を求める首相に、「2014年度中に浄化を完了する」と応じたという。あと1年半で「浄化完了」とは、いったいどういう計算に基づいているのだろう。

 東電広報に聞くと、当初は「完了の具体的な姿はこれから」との回答だったが、その後、「試算があった」と訂正された。中身は以下の通りだ。

 まず、汚染水処理能力の増強として、▽トラブルで停止中の多核種除去装置「ALPS(アルプス)」3系統(1系統当たり1日250トンを処理)を9月末から順次稼働▽同様の除去装置3系統を増設し14年9月末から稼働▽政府が資金投入して新設する高性能の除去装置(1日500トンを処理)を同9月末から稼働。汚染水の抑制策として、建屋に流れ込む前の地下水を海に導く「地下水バイパス」と、井戸からの地下水くみ上げにより同10月には流入量を1日当たり400トンから250トンに減らす。

 バイパスをめぐる漁業者との協議まで含め、これらがすべてうまく運べば、タンクにたまっている約30万トンと、14年度末までに発生する汚染水を除去装置にかけ終わるという試算だ。

 ただし、地下水の流入はこの時点でも続いている。汚染水は日々生みだされるが、これをベルトコンベヤー式に浄化し、トリチウム以外のものを除去するシステムが回るようになる、というイメージだ。汚染水処理が終わるわけではなく、トリチウム水はたまり続ける。普通の人が「浄化完了」から受ける明るい印象とは、ずいぶん違う。

 汚染水問題に詳しいバレットさんは、記者会見で「技術的課題に対応するだけでなく、どう対応しているか、わかりやすく説明することが大事」と強調した。東電に向けた助言だが、「国が前面に立つ」と表明している以上、首相や政府にも同じことがいえる。

 特に、これから地下水やトリチウム水の「海洋放出」が受け入れられるかどうか、という重要な課題に直面する。これを「浄化完了」といった聞こえのいい言葉だけで乗り切れるとは思えない。汚染水対策には外部の専門家からもさまざまな提案が出されている。これらを吟味し、よりよい方策を取り入れるためにも、1年半で何をするつもりか、具体的な説明が必要だ。

 「技術的課題以上にやっかいなのは社会的課題。私のアドバイスは、当事者を巻き込み、科学的に人々が理解できる形で議論をすることです」。バレットさんの助言は東電だけに向けたものではないはずだ。(専門編集委員)=次回は10月24日です

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