12/19事故レベル 今後提示せず 福島汚染水 再び説明会 規制委 放出に躍起 トリチウム除去できず【東京新聞・特報】

2014年12月19日【東京新聞・こちら特報部】

衆院選の最中、福島県沿岸部では原発事故に伴う処理済み汚染水の海への放出をめぐり、東京電力と経済産業省が再び漁業者らに説明会を開いた。漁業者の抵抗は根強いが、原子力規制委員会の田中俊一委員長も放出の必要性を強調する。事故から四年弱。三回の国政選挙を経て、記憶の風化と事故を「過去のもの」にしたい政権の動きが強まる。だが、事故収束が遠いという現実は変わっていない。 (上田千秋、榊原崇仁)

漁業者「復興が遠のく」

 福島汚染水 再び説明会

  「大丈夫なら東京へ持っていけ」

小名浜港に係留されている漁船。原発事故以降、福島県の漁業は大幅な縮小を迫られた=18日、いわき市で

「他に手がなくても、これ以上、風評が広がると(福島の)漁業の復興はまずまず遠のいてしまう」
福島県いわき市南部の小名浜港。低気圧の影響で寒風が吹き荒れた十八日午前、試験操業を終えて港に戻ったばかりの男性(五七)は憂うつな表情を浮かべた。
現在、福島の沿岸漁業は原発事故で自粛を強いられている。魚種を決め、週一回ほどの試験操業が二O一二年六月から続けられているが、水揚げ量は事故前の約一割だ。東電から休業補償を得ている一方で、漁業再建のめどはまだたっていない。
そうした中、市は福島第一原発の汚染水対策で、原子炉建屋周囲の井戸から地下水をくみ、浄化して海に放出することを検討。九月に県内の漁業者らを対象に説明会を聞いたが、強い反発に遭った。
だが、今月に入って東電や経産省は説明会を再び始め、いわき市でも十日に開かれた。東電は「放射性物質を取り除き、排出基準を下回ったものしか流さない」と強調。漁業者からは「他に方法がない以上、仕方がない。事故収束を第一に考えるべきだ」という声があったものの、「認められるわけがない。消費者が不安を感じ、福島産のイメージがさらに悪くなる」という意見が大勢を占めた。
いわき市漁業協同組合の吉田和則理事は「事故直後に汚染水を海に流してから、東電に対する信用は消えている。不信感は簡単には払拭できない」と話す。
「『本当に大丈夫というなら、東京へ持っていって流せばいい』と主張する組合員もいる」。ただ、会場では「説明内容が同じこともあり、淡々とした人が多かった」(漁業者の一人)という。
同県北部の相馬双葉漁協(相馬市)の担当者も「東電から言われて『はい、そうですか』というわけにはいかない。もっと詳しく説明してもらわないと判断のしょうがない」と言う。
来年三月で、事故から四年。この間、三回の国政選挙があった。今回の衆院選の公示日には、安倍首相、民主党の海江田万里代表(当時)とも県内で第一声を上げたが、被災地の現状には深くは触れなかった。
とりわけ、首相は十月の参院本会議でも「全体として(汚染水の)状況はコントロールされている」と従来の見解を繰り返した。
ただ、汚染氷問題は事故収束の難関の一つ。十二日に福島第一原発を視察した規制委の田中委員長は「汚染水をため続げることはできない」と放出への強い意志を示した。
世間の関心も次第に薄まりつつある。冒頭の漁業者は「まだ、修復が終わっていない建物も多い。経済優先なのは分かるけど、もう少し、私たちの生活に目を向けてもらえないものか」とつぶやいた。

事故レベル 今後提示せず

 規制委 放出に躍起

  トリチウム除去できず

福島原発事故に伴う汚染水問題の現状はどうなっているのか。
第一原発の敷地内には現在、地上タンクが約千基設置され、約三十五万トンの汚染水が保管される。東電は放射性物質を取り除く切り札として「多核種除去設備(ALPS)」を三基設置した。しかし、昨年三月の試運転開始以降、十回以上の運転停止を繰り返しており、当初、今年四月を見込んでいた本格運転は、いまだに始まっていない。
一方、原子炉建屋には毎日約四百トンの地下水が原発の山側から流入し、汚染水は増え続けている。新たにタンクを設置しようにも、敷地には限界がある。このため、汚染水を増やさない対策が必要になる。
東電は五月から山側の井戸から水をくみ、放射性物質が基準値内であることを確認、海に放出する「地下水バイパス」を始めた。
ただ、これだりでは不十分なため、建屋周囲の地下水水位を調整する井戸(サブドレン)からも地下水をくみ上げ、除染したうえで海洋放出する考えだ。
さらに地下水が建屋に流れ込まないようにする抜本的な対策として計画されたのが、建屋周囲の土壌を凍結させる凍土遮水壁だ。周囲約一・五キロに約千五百五十本の凍結管を打ち込む。東電は六月に着手した。
だが、これほどの凍土遮水壁は前例がなく、京都大原子炉実験所の小出裕章助教は「コストがかかるとしても、コンクリートによる遮水壁をつくった方が確実性は高い。失敗が目に見えていることはやるべきではない」と指摘する。
 凍土遮水壁をつくるとしても、海側の建設ルート上には地下トンネルが横切っている。建設前にこれを埋める必要があるが、トンネルにたまる汚染水の抜き取りに手間取っている。
 小出助教は「十万トンの水を運べる巨大タンカーがある。これを活用し、東電の他の原発敷地内に運び込むことも考えるべきだ。ALPSの稼働がうまくいかない理由の一つに、放射線量が高い過酷な現場では保守管理が行き届かないという点がある。それならば、他の原発敷地内にALPSを設けるべきだ」と説く。
規制委は、福島第一原発敷地内にあるALPSで汚染水を処理し基準値内の汚染水を海に流すことを想定している。ただ、ALPSではトリチウムという放射性物質を除去できず、水で薄めて放出する。放射線医学総合研究所の元主任研究官、崎山比阜子氏は「トリチウムのリスクは見過ごせない」と懸念する。
 トリチウムが出すベータ線はエネルギーが弱いとされるが、水と同様、どこにでも入る性質がある。崎山氏は「DNAにも入って、傷をつけていく。魚を通じて人間の体内に入った場合にどうなるか、慎重に考えるべきだ」と説明する。
現在まで漁業者らは汚染水の海洋放出に抵抗しているが、社会から事故の記憶が薄れれば、抵抗も次第に困難になってくる。
現に規制委は今月十日の定例会合で、福島第一原発で今後、汚染水漏れなどが起きても、国際的な事故評価尺度(INES)に基づくレベル提示をしないことを決めた。「INESのレベルは平常時の原発で事故が起た時に示すもの。既に事故が起きた原発に当てはめると誤解を生む」(担当者)という理屈だ。
こうした事故の「意織的な風化」も進んでいる。福島大の後藤忍准教授(環境計画)は「被災地では『もう、とやかく言うな』という空気が広がっている。でも、政府の横暴を見過ごせば、生活を守る権利はないがしろにされる。被災地以外の人たちも一緒に考えてもらいたい」と訴えた。

((デスクメモ))
痛みは雑だって忘れたい。でも、そこで教訓を得られなければ、ただの「うつけ」だ。敗戦での教訓をめぐり、ドイツと日本の差が語られる。福島事故は「第二の敗戦」と呼ばれたが、その敗戦はまだ進行中だ。先の敗戦を忘れたい権力者は、次の敗戦も忘れさせようとしている。問われているのは私たちだ。(牧)

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