10/15ノーベル賞 弱者の視点/貧困・圧政・・・救う功績に光【東京新聞・核心】

ノーベル賞 弱者の視点

貧困・圧政・・・救う功績に光

【東京新聞・核心】2015年10月15日

12日の経済学賞で全6部門の発表が終わった今年のノーベル貨は、学術的な功績だけでなく、現代社会の問題をとらえ、解決の道しるべを示す研究や作品に光が当てられた。「人類のために最大の貢献をした人に与える」という趣旨の下、各賞はそれぞれ個別に選考しているが、今回の授賞は、化学者アルフレド・ノーベルがを創設した遺志にも共鳴する。(ロンドン・小嶋麻友美)

★格差

「経済格差は今や深刻な脅威だ。金持ちがルールをつくり、残りの者がそれに従わねばならない世界になることを心配している」
経済学賞に選ばれたアンガス・ディートン米プリンストン大教授(六九)は発表直後の公式電話インタビューや記者会見で、広がる貧困や格差への懸念を訴えた。欧州に押し寄せる難民問題についても「数百年間、裕福な国で格差が拡大し、他の多くの世界を置いてきぼりにした結果」と指摘した。
ディートン教授は、家計や消費行動を分析し、貧困や健康、家庭内の男女格差などにどう影響するかに着眼してきた。「21世紀の資本」で有名になった仏経済学者トマ・ピケティ氏に先行し、ニO二二年の著書「大脱出」では、二百五十年間の格差拡大と貧困の歴史をひもといた。

★地道

医学生理学に決まった大村智・北里大特別栄誉教授(八O)ら三人の研究から実用化された治療薬は、アフリカや中南米、アジアでのマラリアなどの風土病を劇的に封じ込めた。スウェーデン・カロリンスカ研究所のノーベル賞委員会は「年間数億人に効果をもたらした」とたたえている。
文学賞が贈られるのは第二次世界大戦やチェルノブイリ原発事故、旧ソ連社会主義体制下で人々の証言を集め、文学に構成してきたベラルーシのジャーナリスト、スベトラーナ・アレクシェービッチ氏(六七)。作品の主役は常に、抑圧される弱き人々の声だ。平和賞の「チュニジア国民対話カルテット」の活動は、民主化を目指し、社会のさまざまな層をつなぐ民間の地道な取り組みだった。

★善意

社会の弱者への視点が多く見られる今年の授賞は、ダイナマイトを発明したノーベルが賞を創設した遺志を思い起こさせる。
ノーベルは一八八八年、死亡した兄と取り違えて報じられた仏紙で「死の商人、死す」「より短時間で、より大勢の人間を殺害する方法を発見し、富を築いた」と書かれたことに衝撃を受けたとされる。
自身の評価を直視したノ ーベルは、より良い人類の未来に貢献するため、財産の大半をノーベル賞の創設に充てる遺言を残した。弱者に目を配り、社会問題の解決を示す研究や作品を選んだ戦後七十年のノーベル賞は、「原点回帰」を志向するものと言えよう。

「GDP至上主義」に一石

 経済学賞・ディ一トン教授

ディートン教援は、個人の消費行動の研究者として知られ、貧困や格差問題まで研究テーマを広げた。国内総生産(GDP)などのマクロ統計から個人の幸福度を測るには限界があるとするディートン氏の指摘は、日本でも経済政策のあり方や格差解消対策に影響を与えそうだ。
授賞理由は「消費、貧困、福祉に関する分析」。一九八0年代に、所得や商品の価格が個人の消費行動にどのような変化を与えるかを分析する独自モデルを考案。個人の消費データなどをに生活の豊かさを分析し、国の生活水準を比較しながら途上国の貧困問題にまで分析を広げた。
日本では第三次安倍改造内閣がGDP六百兆円を目標に掲げたばかり。だが、ディートン氏は日本でも発売されている著書「大脱出」(みすず書房)の中で、GDPには自治体が計上する黒字も含まれているなどとして「幸福を測るにはふさわしくない指標だ」と指摘する。京都大の根井雅弘教授(現代経済思想)は「安倍政権はディートン氏とは逆のことを考えており、GDP至上主義から抜け切れていない」と話している。  (大森準)

主なノーベル賞 受賞決定者と業績  ※写真はAFP・時事

大村 智氏(医学生理学賞)
微生物が作り出す化合物「エバーメクチン」を発見。
熱帯地方の感染症の治療薬に実用化され、年間3億人以上を失明の危険から救った。

スベトラーナ・アレクシエービッチ氏(文学賞)
チェルノブイリ原発事故に遭い、苦しむ住民や関係者や、第2次世界大戦に従軍したソ連女性らの証言の集積を作品化し、社会の深層を描いた。

チュニジア国民対話カルテット(平和賞)
「アラブの春」後の政治的混乱が続く中、国民対話を促すことを通じて新たな政治プロセスを構築。不安定な国が多い中東にあって、チュニジアの民主化に貢献した。

アンガス・ディートン氏(経済学賞)
経済格差の背後にあるメカニズムを解明。収入増加で生活の満足感が上がるのは年収七万五千ドル(約九百万円)までとの調査結果を発表。「お金で幸せまでは買えない」と結論づけた。

(写真)cyu151015kakushi_nobelprize
「チュニジア国民対話カルテット」の代表者=ロイター・共同
(右から)大村智氏、アレクシエービッチ氏=時事、ディートン氏=EPA・時事

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