10/16高浜・大飯仮処分審尋で裁判官に地震動過小評価を説得して-大阪府立大学名誉教授 長沢啓行-【若狭ネット】第157号(図表省略)

11/13福井地裁の異議審の最中に長沢先生のレクチャーを30分ほど聴けるというのでPDFから文字おこしをしてみた。図表はPDFを眺めながら読んでみたい。

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【若狭ネット】第157号(2015/10/16)よりテキストのみ図表省略
http://wakasa-net.sakura.ne.jp/pre/news/157.pdf

高浜・大飯仮処分審尋で裁判官に地震動過小評価を説得して

            大阪府立大学名誉教授 長沢啓行

 

 初めての仮処分審尋での「裁判官説得」

高浜3・4 号の運転差止仮処分命令への関西電力による異議申立を受けての異議審と,大飯3・4 号の運転差止仮処分申立への審尋が,10 月8 日,福井地裁で行われました.この日は,前回(9 月3 日) の関西電力による裁判官への主張説明を受けて,原告弁護団が裁判官に反論・主張説明する審尋でした.原告弁護団と専門家が協力して,前半100 分で「基準地震動の過小評価」を説明し,後半60 分で「耐震安全性の問題点」を説明するという長丁場になりました.私は,前半100 分のうち60 分を頂いて,「基準地震動の過小評価」について平易かつ具体的に説明し,目の前に座っていた裁判官4名を説得する役割を担いました.
私に先だって海渡弁護士が10 分間,3・11 の惨禍について写真を交えて改めてわかりやすく説明し,「福島事故には司法にも責任があり,裁判所はその判断を間違った場合には,どのような事故が発生しうるのかを,適切に理解した上で,判断をするべきである」と裁判官に問いかけました.これを受けて,私も「裁判官の皆様には,基準地震動という難しい内容ですが,どれほど大きな地震動が高浜・大飯原発を襲うことになるのか,良くご認識頂きたいと思います.その上で,東京電力が15.7m もの巨大津波が来ると試算しながら,これを無視し,経済的自由を優先させ,人格権を侵害した,あの過ちを二度と繰り返さないよう,真摯なご英断をお願い致します.」と語りかけてから,説明に入りました.
裁判官は説明資料とディスプレイ画面を見ながら,私と目線を時々合わせながら,メモを取り,うなずきながら聞き入っていました.私も,できるだけ4 名の裁判官の顔を見て目線を合わせながら説得しましたので,「聞いてもらっている!」「話の中身を理解してもらっている!」という実感を得ながら,62 分の説得を終え,次の言葉で締めくくりました:
「前原子力規制委員長代理の島崎邦彦氏による任期切れ退職後の学会発表(後述する「断層モデルにおける地震規模過小評価」への批判)は,自分自身が行ってきた行政処分と矛盾し,地震動評価に大きな疑問を抱かせる.原子力規制委員長代理の職にあったとき,なぜ,この姿勢を取ることができなかったのか.同じ学者として,また,同じ行政職トップ経験者として残念でならない.行政が最新の知見を無視し,保守的安全評価を怠っているとき,行政に加わる隠然たる圧力に屈するのではなく,内部から『それは重大な瑕疵だ!』と指摘する責任と勇気こそが求められているのではないだろうか.フクシマ事故以降は特に,責任ある地位にある者とその瑕疵を厳正に裁くべき司法の責任は重い.」

 一切反論しない関西電力,その狙いは?

私の説明が終わると,裁判長が関西電力に対して「今の説明について何か質問すべきことはありますか」と促すと,関西電力は「特にありません」と即答しました.私の説明は,関西電力による前回の説明内容に真っ向から反論し,批判するものでした.にもかかわらず,何の質問もないというのです.普通なら,これは私の主張の正しさを全面的に認め屈服したものと受け取られても仕方がないところですが,高浜3・4 号の11 月核燃料装荷・再稼働を狙う関西電力は論争して審尋を長引かせることを嫌ったようです.察するに,「裁判所は仮処分決定を撤回するだろうから,反論せずに早く終わらせよう」という魂胆のように見えました.しかし,そうはいきません.
10 分間の休憩(この間に裁判官4 名が別室で協議)後,裁判長から出された私への最初の質問は「倍半分のバラツキを強調しておられましたが,平均像ではなく2 倍の余裕を持つべきだということですか?」という主旨でした.私は,「一般の産業施設であれば壊れたら取替えるという観点から平均像で設計するのもあり得ますが,人命に関わる施設,とりわけ原子力発電所のような場合には平均像で設計・管理してはなりません.耐専スペクトルで言えば,2 倍以上の偶然変動があるので,少なくとも2 倍の余裕を持たせるべきです.」と述べると,裁判官は分かりましたと言っていました.さらに、「2 倍を超える可能性はないのですか?2 倍以上の余裕を持つ必要性はどの程度あるのですか?」と聞かれましたので,「2 倍を超えるバラツキについてはもちろんあり得ます.」と答え,「その上限については、原理的に起こりうるかどうか,また、実際に起きているデータがどの程度かで判断します.」と述べ,「内陸地殻内地震ではプレート境界地震ほど大きな地震動は起こらないと思われますが,内陸地殻内地震でも2000~3000 ガルの地震動は原理的にも,実際にも,起こりえます.」と回答しました.これにも、裁判長はうなずいていました.
関西電力は、続く原告弁護団の説明に対しても一切質問せず,「今回で審尋を終わらせたい」との姿勢がありありで,敢えて反論しない方針のようでした.要するに,できるだけボロを出さないよう,自らの見解表明は最小限に留め,原告との見解の「対立」を印象づけて,高度な判断は司法になじまないとの土俵に誘い込もうとしているようでした
裁判長は,原告弁護団によるすべての説明が終了した後,「今回で双方による口頭説明は終了するが,論点が多く,争点がかみ合っていない.裁判所として再確認すべき点があり,1 週間以内に書面で質問を双方に提出する」,「双方に追加主張の機会を与えるために11 月13 日の審尋を予定通り開く」と表明し,「次回で終えるかどうかは未定です」とも付け加えました.また,「双方から出ている準備書面,意見書,証拠を検討する時間がほしい」,「これまでの論点の中で主張を明確にしてほしい.今後はこれまでとは異なる新たな論点追加は期待しない」と注文をつけていました.

 かみ合わないままの「両論併記」はあり得ない!

裁判長は,「双方の見解のいくつかについて近づける努力をしようとしたが,互いにかみ合わず,無理であることがわかった.」という主旨のことを述べていましたので,双方の意見を両論併記にして裁判所としていずれの見解に立つのかを判断しない(=「原子力規制委員会による審査に重大な過誤や瑕疵があるかどうかの判断」に逃げる)可能性もあるのではないかと少し危惧を覚えました.しかし,関西電力は原告弁護団から徹底的に批判されながら,全く反論しませんので,論点がかみ合わないのは,論争を避けている関西電力の責任です.批判されて反論しないのであれば,「原告弁護団による批判は正しく反論の余地はない」と認めたに等しく,関西電力は潔く敗北を認めるべきです.「両論併記」は互いに反論し合って争点がかみ合ってこそ「両論」になるのであって,現時点では「原告弁護団の主張」と「批判に沈黙し屈服した関西電力の主張」とがあるだけで,「両論」にはなっていません.

 高浜3・4 号の11 月再稼働の芽を断つ

11 月13 日に予定された予備の審尋が開かれない可能性もあったことから,今回,審尋継続が表明されたのは大きな成果であり,関西電力が描いていた「高浜3・4 号の11 月核燃料装荷・再稼働(MOX 燃料装荷・プルサーマル発電を目論む)」は事実上不可能になり,年内再稼働も遠のいたことは高く評価できるのではないでしょうか.11 月13日の次回審尋以降の展開は全く読めませんが,今回の成果を踏まえて,微力ながら,引き続き原告弁護団を全力で支援していきたいと思います.
以下では,10 月8 日の審尋で私が裁判官に説明した内容について,その概要を皆さんに紹介したいと思います.

 地震動を見直せば高浜・大飯原発は動かせない

審尋では,最初に応答スペクトルについて説明し,結論を先に述べました.
地震動による揺れの大きさは施設の固有周期によって異なりますので,横軸に施設の固有周期をとって,縦軸に揺れの大きさを表したものが「応答スペクトル」です.高浜・大飯原発では重要機器の固有周期は0.03~0.5 秒の短周期側に集中しており,この地震動が強いと壊れる可能性が高いと説明しました.さらに,固い岩盤では短周期地震動が余り減衰せずに強いまま伝わるため,堅い岩盤に設置されている原発は短周期地震動に弱く,とりわけ,直下地震に弱いと主張しました.電力会社は「岩盤に設置されている原発では伝わる地震動が弱い」と宣伝していますので,裁判官にとっては意外だったかも知れません.
(2頁分図表)
続いて,図1 を示し,国内の地震観測記録を反映した原子力安全基盤機構JNES による独自の断層モデルによれば,M6.5 の横ずれ断層で1,340 ガルの地震動が起こると解析されており,これを採用すれば,高浜34 号の973 ガルのクリフエッジを超え,炉心溶融事故が避けられないことを示しました.また,「FO-A~FO-B~熊川断層」の耐専スペクトルは平均的な応答スペクトルにすぎず,偶然変動によるバラツキをも考慮すれば少なくとも2 倍の余裕を持たせ,1,300 ガル以上へ引上げるべきであり,これによってもクリフエッジは超えられることを示しました.
大飯3・4 についても同様に,図2 を示して,JNESによる1,340 ガルの地震動が1,260 ガルのクリフエッジを超えること,大飯原発では適用外になっている耐専スペクトルを適用すれば1,200 ガル以上になり,少なくとも2 倍の偶然変動によるバラツキを考慮すれば2,400 ガル以上になるため,これによってもクリフエッジが超えられることを示しました.
このあと,各論に移り,それぞれについて詳細に根拠を述べ,「バラツキを考慮しない」関西電力の主張を具体的に根底から批判しました.

 震源を特定せず策定する地震動

基準地震動は「震源を特定せず策定する地震動」と「震源を特定して策定する地震動」の二つで構成されるため,これらを分けて説明しました.
2015 年9 月現在,原子力規制委員会の審査会合で了承された高浜34 号の基準地震動Ss-1~7 は図1 の波線と表1 の通りであり,大飯34 号の基準地震動Ss-1~19 は図2 と表2 の通りです.
「震源を特定せず策定する地震動」は,地表からいくら精査しても見つからない(あるいは,見つけにくい)伏在断層による地震動を評価するもので,いつどこで起きても不思議ではない中規模以下の地震が対象です.古くは「M6.5 の直下地震」が全国一律に採用されていましたが,2006 年指針改定で地震観測記録に基づく加藤ら(2004)[11] の「上限レベル」の応答スペクトルに変更され,原子力規制委員会による2013 年以降の新規制基準の下では,震源を特定しにくい16 の国内地震観測記録についてサイトごとに採用するかどうかを検討することになっています.その結果,高浜3・4 号と大飯3・4 では,いずれも,表1 と表2 に示される「2000 年鳥取県西部地震・賀祥ダムの記録」と「2004 年北海道留萌支庁南部地震を考慮した地震動」の二つが採用されています.
このように説明した後,二つの大きな問題点を指摘しました.
一つ目は,16 の地震観測記録は,1995 年阪神・淡路大震災を機に地震観測網が張り巡らされて以降,1996~2013 年の20 年足らずの間に取れたものにすぎず,データが揃うには今後何十年もかかるということです.しかも,サイトごとの地域性に見合った場所で地震が起きるとは限らず,地震が起きても震源域内に地震計があるとは限りません.「地震観測記録が新たにとれれば採用する」という悠長な姿勢では,「震源を特定せず策定する地震動」を保守的に考慮したとは到底言えません,と強調しました.
二つ目に,地震観測記録の不足を補うための最新の知見が得られており,信頼性の高い地震動解析手法が開発されており,これらを採用しないのは問題だと主張しました.具体的には,(1) 地域地盤環境研究所による2004 年北海道留萌支庁南部地震の再現モデル[2] と(2) 原子力安全基盤機構JNES[5] によるM6.5 の横ずれ断層による1,340 ガルの地震動解析結果を挙げました.
(1) の地域地盤環境研究所による解析では,実際の地震観測記録に良く合う図3 の再現モデルを使って,断層最短距離15km 以内の仮想地表観測点での地震動を解析しており,地震計の設置不足を補う解析と言えます.この地震ではHKD020 地点(図3 の△)の地表地震計で1,127 ガル(EW 方向),536 ガル(NS 方向) の地震動が観測されていますが,図3 のように他の仮想観測点では約1,300ガル(EW),約1,700 ガル(NS) になります.この再現モデルでアスペリティ下端中央から破壊が始まった場合には,図4 のように約2,000 ガル(EW),約1,050 ガル(NS) の地震動が起こることが明らかにされています.これらを基準地震動と同じ「解放基盤表面はぎとり波」に換算すると,620 ガルのSs-7(高浜)とSs-19(大飯)が1.8 倍(EW 方向の倍率)の1,100 ガルになります.これは高浜34 号の973 ガルのクリフエッジを超えています.このような実際の地震観測記録に基づく再現解析は現実の地震動を再現できることから,地震計の設置数の限界をカバーするものとして積極的に取り入れるべきです,と強く主張しました.
(2頁分図表)
(2) の原子力安全基盤機構JNES による解析では,国内の地震観測記録に合わせて独自の断層モデル図7: 横ずれ断層(M6.5) の地震動評価結果[5](断層上端2km,アスペリティの上端2km,実効応力大(19.1MPa),高周波遮断特性平均+ (fmax = 11:9Hz) のケース)図8: 横ずれ断層モデル(M6.5) による地震動評価結果[5]( (断層上端2km(3km),アスペリティの上端2km(3km),実効応力大(19.1MPa),高周波遮断特性平均+(fmax = 11:9Hz) のケース)を構築し,高浜・大飯原発の解放基盤表面(S 波速度V s = 2; 240m/s)より堅い地震基盤表面(V s =2; 600m/s,図5 参照)に231 個の観測点を置き,地震観測記録の不足を地震動解析で補っています.その結果,M6.5 の横ずれ断層による地震が起こると,図6 のように震源近傍で1,340 ガルの地震動が生じることを示したのです[5].図7 の震源近傍での応答スペクトルを包絡する曲線が図8 であり,図1 および図2 の赤波線と同じものです.この1,340 ガルの地震動の応答スペクトルは,原発にとって重要な機器の固有周期帯(0.030.5 秒)の大半でクリフエッジを超えています.つまり,この地震動に襲われると,高浜・大飯原発では炉心溶融事故が避けられないと言えるのです.
原子力安全基盤機構JNES は2014 年3 月1 日に原子力規制委員会・原子力規制庁へ統合されましたので,JNES の報告書は原子力規制庁自身の報告書であり,解析結果でもあります.それは,「関西電力が設定し原子力規制委員会の承認した基準地震動は余りに過小すぎ,M6.5 の小さな地震でクリフエッジを超える大きな地震動が発生する」という重大な事実を述べ,警告しているのです.
この問題について,私たちは原子力規制委員会・原子力規制庁と昨年7 月と今年1 月の2 度話し合いました[21, 22].規制庁は当初,「厳しいパラメータ設定をしている」と主張していましたが,JNESの解析結果が留萌支庁南部地震の地震観測記録にも良く合っていることをデータで示すと,すぐに,「厳しいというのは言い過ぎだった」と撤回し,最終的には「専門家を入れて断層モデルの妥当性について検討すべきだ」と認めたのです.私は,この事実を裁判官に正確に伝えるとともに,「今年1月から10 月に至るまで規制庁はこの検討を全くしていない.これは規制庁によるサボタージュであり,重大な瑕疵にあたる」と訴えました.裁判官らは私と目を合わせながら,うなずいていました.

 震源を特定して策定する地震動

次に,「震源を特定して策定する地震動」の説明に移りました.これは,地表を精査してわかる活断層に基づいて地下の震源断層を推定し,そこで地震が起きたときの地震動評価を行うものです.高浜・大飯原発のいずれも,図9 の「FO-A~FO-B~熊川断層」(63.4km,M7.8)が基準地震動を規定する震源断層になっています.私は,「耐専スペクトルによる方法」と「断層モデルによる方法」のいずれによっても地震動が過小評価されていること,少なくとも2 倍のバラツキを考慮すれば,いずれにおいてもクリフエッジを超える地震動が起こりうることをデータで具体的に示しました.

 耐専スペクトルは見直し中で「大きなバラツキ」

まず,耐専スペクトルですが,これは図10 のように,44 地震107 地震観測記録を地震基盤表面はぎとり波(Vs=3,000m/s)の応答スペクトルに直し,地震規模と等価震源距離別にいくつかのグループに分けてグループ毎に平均像となる応答スペクトルを求めたものです.国内地震観測記録に基づくものとは言え,ここには,震源近傍での大きな地震観測記録を含む最近20 年間の最新データが反映されておらず,原子力規制庁によれば,日本電気協会で現在見直し作業中とのことです.これが改定されれば,最新データを反映させる限りにおいて,近距離地震ではより大きな地震動評価に見直されることは必至ですが,原子力規制委員会は20 年前に作られた古い耐専スペクトルをそのまま使っています.また,耐専スペクトルは図10 のように地震動の平均像を与えるものであり,地震動を過小評価しないためには地域性や偶然変動のバラツキ,少なくとも2 倍のバラツキを考慮する必要があります.
(図表)
たとえば,高浜3・4 号の基準地震動は,「FO-A~FO-B~熊川断層」(63.4km,M7.8,図9 参照)に対する耐専スペクトルが,図11 のように旧Ss-1(550 ガル)を超えたため,新Ss-1(700 ガル)へ引上げられました.最近20 年間の地震観測記録で耐専スペクトルを見直せば,平均像としての耐専スペクトルがもっと大きくなる可能性があり,少なくとも2 倍のバラツキを考慮すれば,1,300 ガル以上になり,973 ガルのクリフエッジを超えてしまいます.
(図表)
大飯3・4 号では,同じ「FO-A~FO-B~熊川断層」に対して耐専スペクトルは適用範囲外とされ,算出されていません.その結果,Ss-1 は古いままです.関西電力は,その理由を「極近距離との乖離が大きいため」と説明しています[12].確かに,図12 に示すとおり,等価震源距離Xeq は,高浜34 号の18.6km に対し,大飯3・4 号では11.0km と小さく,極近距離より乖離しているように見えます.しかし,大飯3・4 号の基準地震動Ss-18 として採用されている「鳥取県西部地震(M7.3)・賀祥ダムの記録」は,等価震源距離が6km と非常に小さく,極近距離からの乖離が大きいにもかかわらず,原子力安全委員会の意見交換会では図14 を検討して「耐専スペクトルはまあまあ使える」と判断されているのです[19].つまり,「極近距離からの乖離が大きい」というのは理由にならず,本来なら同等の地震観測記録と照合して,その適用可能性を説明すべきです.
(図表)
さらに,関西電力は,極近距離からそれほど乖離していない「FO-A~FO-B 断層」(M7.4,Xeq =10.5km,図12 参照)についても,大飯3・4 号に対し,同じ理由で耐専スペクトルを適用していません.
関西電力がこれらのケースについて耐専スペクトルを適用したくない理由は,「極近距離の線から乖離している」からではなく「地震動が大きくなりすぎる」からだと思われます.現に,関西電力が自ら示した図13 で読み取れば,「FO-AFO-B 断層(M7.4,Xeq = 10:5 km)」で800 ガル以上,「FO-A~FO-B~熊川断層(M7.8,Xeq = 11:0km)」で1200 ガル以上になります.いずれの場合も,700ガルの基準地震動Ss-1H を大きく超え,後者では大飯3・4 号のクリフエッジ1,260 ガルを超える可能性すらあります.
20 年前に作られた今の耐専スペクトルは,国内地震観測記録が少なかったため,震源特性の異なる海洋プレート間地震と内陸地殻内地震が混在したままの「平均像」です.内陸地殻内地震用にはそれに則した補正係数を用いることになっていますが,海洋プレート間地震との震源特性等の違いを補正しても,図20 のように大きなバラツキがあります.これは,東京電力が原子力安全委員会の指示により耐専スペクトルの適用可能性を2009 年段階で検討したものであり,震源近傍633km の地震観測記録に対する耐専スペクトル(内陸補正有)からの残差を表しています[19].この図から,実際の地震観測値は残差平均より「倍半分」(やや太い青実線の範囲)以上のバラツキがあり,内陸補正をした耐専スペクトルからも「倍半分」(「観測/耐専」の値で0.5~2 の範囲)以上のバラツキがあることがわかります.
実は,このような地震動のバラツキは地震という自然現象につきものなのです.私は,この点がキーになると考え,図15 を使って,裁判官に注意を促しながら,より詳しく説明しました.
地震とは,プレート運動によって震源断層面ないしその周辺に蓄積された歪みエネルギーが断層運動によって一挙に解放される現象です.この歪みの大きさや場所の分布は一様ではなく,図15 のように,断層運動による破壊開始点,破壊伝播の速度・方向,ずれの大きさ・方向(図15 の矢印)も一様ではなく,複雑な様相を帯びています.断層運動によって生じる個々の地震波も一様ではなく,破壊場所によって違います.このように断層破壊過程は平均的には一定の法則に従うとは言え,実際の破壊過程には,かなりの程度,偶然性が伴い,地震ごとに地震動が大きくばらつくことになるのです.このような震源における特性には地域性があり,横ずれ断層,逆断層,正断層によっても異なりますが,地震データ不足のため仮説に留まっており,科学的な結論を得るには至っていません.地震波の伝わり方も距離とともに地震波が一様に減衰するのではなく,増幅される場合もあり,複雑な伝播経路特性を持つ場合があります.こうして得られる地震観測記録には,地中観測点が地震基盤と同様の固い岩盤であっても,地震によって,また,地中観測点によって大きなバラツキが生じるのです.そのため,堅い地震基盤で評価される耐専スペクトルのように観測点のサイト特性が除去されていても,震源特性,伝播経路特性,偶然変動によるバラツキが混在しているのです.
このバラツキを地域性で説明するためには,十分な地震観測記録に加えて,震源特性や伝播経路特性に関するデータが不可欠です.たとえば,図16 の(a) のように,確率変数Y のデータが分布し,ばらついているとします.ここから,震源特性や伝播経路特性などの地域特性の違いによってデータを分類し,(b) のように確率変数Y1, Y2, Y3 の3図19: 川内原発の敷地地盤で得られた観測記録の応答スペクトルとNoda et al.(2002) の方法により求められた応答スペクトルの比(主文[20] 別紙図⃝4 p.294:図18 水平方向の応答スペクトル比を赤線で追記)図20: 国内外の内陸地殻内地震による震源近傍の観測記録(M6.08.1, Xeq = 6 33km, 水平51 記録, 上下14 記録) の耐専スペクトル(内陸補正有)との残差(バラツキ)[19](細線:各地震観測記録に対する残渣,太い赤実線:残差の平均,やや太い青実線:平均からの「倍半分」の差,0.5 秒付近では水平動で6 倍程度,上下動で4 倍程度の残差がある)種類の分布に分離できたとします.そうすると,確率変数Y1 Y3 はそれぞれに異なる地域性を持ったデータの母集団になり,(a) の場合よりバラツキは小さくなりますが,(b) の各分布のように偶然変動のバラツキは残ります.この偶然変動は,サイコロを振って出る目を予測できないように,人が制御することはできません.地域性を考慮して得た平均像からのバラツキに対して標準偏差の何倍かの余裕を持たせて保守性を確保するのが,工学的立場になります.今の耐専スペクトルでは,このような地域性に基づいたデータの分類は不可能であり,平均像からのバラツキは「震源特性,伝播経路特性,偶然変動の混在したもの」として扱うしかありません.
他方,川内原発では,数は少ないですが地震観測記録が得られています.九州電力が再稼働申請のために原子力規制委員会へ提出した資料が図17および図18 であり,川内原発の敷地内で観測された5 地震の観測記録を応答スペクトルに直し,耐専スペクトル(内陸補正なし)との比の平均を描いたものです.図18 の破線で示される内陸補正係数が全国平均の内陸地殻内地震に対する耐専スペクトルの補正係数であり,川内原発の地震観測記録の平均応答スペクトル比(川内原発に対する補正係数)は短周期側で破線を越えており,1 に近い値すらとっています.つまり,内陸地殻内地震の全国平均より大きな地震動が敷地で観測されていることを示しており,ここに地域性が現れていると言えます.
ここで重要なのは,川内原発から数十km の範囲で発生した地震に対する川内原発敷地内観測記録の平均応答スペクトル比(図18 水平方向の実曲線)が全国平均を超えているということに加えて,この平均応答スペクトル比(図19 では赤線)より上側へのバラツキが短周期側(周期0.020.5秒) でほぼ2 倍になっているということです.このバラツキは「全国各地で起きる地震や地震観測点における地域性の違い」ではなく,「川内原発周辺の地域性の違い」が少しは含まれるとは言え,偶然変動がかなりの部分を占めていると言えます.
したがって,川内原発においては,耐専スペクトルで地震動評価を行う場合,上側に2 倍のバラツキを考慮して保守的な地震動評価を行うべきだということになります.ただし,川内原発敷地で観測された図17 の地震はM6 クラスの小規模地震(地表に地震断層が出現しない未飽和断層による地震)であり,M7 クラスの中規模以上の地震は含まれていないこと,また,10km 未満の近距離地震や震源近傍地震は観測されていないことなどを考慮すれば,これでも過小評価に陥る可能性は残ります.だから,「少なくとも2 倍」なのです.
高浜3・4 号や大飯3・4 号では,このような敷地内地震観測記録が存在しないため,地域性を抽出することも偶然変動の大きさを評価することもできません.川内原発と同様の地域性があるとすれば,全国平均より大きな地震動が原発を襲うと言えるし,耐専スペクトルを少なくとも2 倍にして川内原発で見られる2 倍の偶然変動を考慮した保守的な評価を行うべきだということになります.そうすると,高浜3・4 号では耐専スペクトルを1,300 ガル以上へ,大飯3・4 号では2,400 ガル以上へ引上げる必要があるということになるのです.
ちなみに,関西電力などが耐専スペクトルで補正係数を用いていないのは,2007 年新潟県中越沖地震の教訓より「震源特性を1.5 倍にする必要性がある」(図25 参照)ことに鑑み,「耐専スペクトルに補正係数(全国平均では図18 の破線のように短周期側で0.6 程度になる)を用いないことで1.5倍相当の余裕をもたせる」ためです.これは震源特性における地域性の違いを考慮するものであり,偶然変動による少なくとも2 倍のバラツキを考慮すべきだという上記の議論とは全く別のものです.

 断層モデルによる地震動過小評価

ここまでの説明で約40 分を使いましたが,主要な論点はほぼ言い尽くせた感じです.後は,断層モデルによる手法が地震動をいかに過小評価しているかを具体的に示すことです.
そのため,私は裁判官に図21 を示しました.この図は高浜3・4 号と大飯3・4 号における「FO-A~FO-B~熊川断層」に対する断層モデルによる地震動評価結果を並べて表わしたものです.
図21 の左側には,高浜34 号における「FO-A~FO-B~熊川断層」(Ss-5 のみ上林川断層)の断層モデルによる地震動評価結果(基本ケースに加え短周期1.5 倍ケースなど不確実さを考慮した全ケースを含む)と耐専スペクトル(内陸補正無)を重ねて表示しています.原発にとって重要な短周期領域0.030.5sec で,断層モデルによる地震動評価結果は耐専スペクトルの1/2 程度またはそれ以下にすぎません.これは明らかに過小評価だと言えます.
姑息にも,関西電力は9 月3 日の審尋では,断層モデルによる地震動評価結果と耐専スペクトルを別々に示し,重ねた図を示してはいません.断層モデルによる過小評価が露呈し,強調されるのを避けたかったからでしょう.このことは裁判官にも強調しておきました.
関西電力は9 月3 日の審尋で,裁判長からこの差について質問され,「耐専スペクトルは震源断層を点震源とみなし,断層モデルは震源断層をそのまま評価するからだ」と回答していました.そこで,私は,あの回答は,関西電力が9 月3 日の審尋で「耐専スペクトルは原子力発電所の地震動評価に適した信頼性の高い手法」だと説明していたことと矛盾すると指摘し,また,耐専スペクトルでは震源断層の広がりやアスペリティなどを考慮した等価震源距離を用いており,単なる「点震源」図22: 中央防災会議東南海,南海地震等に関する専門調査会で検討された国内活断層に対する各種地震規模推定式とその評価結果[3]とは違う,真っ赤な嘘だ,と批判しました.
断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルの1/2 程度になっているのは,耐専スペクトルに原因があるのではなく,断層モデルのほうに原因があるのです
耐専スペクトルは国内の地震データに基づいているのに対し,今の断層モデルは北米中心の地震データ(日本国内より平均断層幅が大きい)に基づいており,この断層モデルを日本国内の震源断層にそのまま適用すると,地震規模や応力降下量が過小評価されてしまうからです.
2006 年の中央防災会議第26 回「東南海,南海地震等に関する専門調査会」では,国内の主要活断層に対し,将来起こりうる地震の規模を推定するため各種推定式を適用して図22 の結果を得ています[3].地震規模はモーメントマグニチュードMWで示されていますが,どの活断層においても,武村(断層面積),武村(断層長さ),Shimazaki,Fujii-Matsu’ura,Irikura et al.(入倉式) の順で地震規模が小さくなり,断層モデルのレシピで使われている入倉式で最も小さな地震規模になっています.同専門調査会では推定結果がこのように非常にばらついていたため,独自に回帰式を作成し,水色の♢で示される関係式を導いています.当然のことですが,国内地震データに回帰させているため,同専門調査会の推定結果は武村(断層長さ) やShimazakiらの結果とほぼ同じです.
「FO-A~FO-B~熊川断層」は,地震学界で広く用いられている松田式で平均像を求めるとM7.8(M0 = 7:01 1019Nm)になり,これを断層モデルのレシピに適用すると,応力降下量は断層平均で5.8MPa,アスペリティ平均で26.5MPa になります.ところが,関西電力は入倉式で地震規模をM7.7(M0 = 5:031019Nm)と小さく設定し,応力降下量についても,100km 以上の長大な断層の場合に適用すべきFujii-Matsu’ura(2000)[4] を用いて,断層平均3.1MPa,アスペリティ平均14.1MPaと小さく設定しています.
このため,断層モデルによる地震動評価結果が耐専スペクトルの1/2 程度に小さくなっているのです
この点で注目すべきは,前原子力規制委員会委員長代理の島崎邦彦氏による学会発表での入倉式への批判です[17].これは断層モデルのレシピ(入倉式)による地震規模が松田式による値より過小設定になると批判し警告したものです.それを応力降下量に関する批判にまで徹底させれば,ここでの指摘と完全に一致します.
大飯3・4 号では,「FO-A~FO-B~熊川断層」の耐専スペクトルは等価震源距離が11.0km と近いため適用外とされており,700 ガルの基準地震動Ss-1 はそのままで,もっぱら断層モデルによる評価が行われています.その結果を図21 の右側に示しましたが,左側の高浜3・4 号の結果と比べるとほぼ2 倍になっています.
先に,大飯3・4 号における「FO-A~FO-B~熊川断層」(M7.8,Xeq = 11:0km)の耐専スペクトルは,図13 から1,200 ガル以上に達することを示しました.断層との距離が小さくなって,断層モデルによる地震動評価結果が2 倍になるのであれば,耐専スペクトルによる地震動評価が700 ガル弱からほぼ2 倍の1,200 ガル以上になって当然です.等価震源距離が極近距離から乖離しているように見えますが,「適用外」とされなければならないほど,耐専スペクトルが地震動を「過大評価」するとは言えません.2000 年鳥取県西部地震における賀祥ダムのほうがもっと乖離しているのですから.

 推本による断層モデルのレシピの検証

ここでは詳細を省きますが,地震調査研究推進本部(推本)による鳥取県西部地震の観測記録を用いた断層モデルのレシピの検証[9] についても裁判官に説明しました.というのは,これは地中地震観測記録と断層モデルのレシピによる地震動評価結果を直接比較したものであり,再現モデルによる評価結果[19] もあったからです.地震観測記録を良く再現できる再現モデル[19] では,地震モーメントが9:61018Nm,二つのアスペリティ平均応力降下量が28.0MPa と14.0MPa に対し,推本が設定した断層モデルのレシピによるケース1 の地震モーメントは7:01018Nm と3 割小さく,アスペリティ平均応力降下量はいずれも10.6MPa と半分以下にすぎません.再現モデルを考慮して修正したケース2 では,地震モーメントが9:61018Nmと再現モデルに等しく,二つのアスペリティ平均応力降下量も16.0MPa と11.3MPa と少し近づいています.これらのモデルによる地震動評価結果について推本は,図23 を示し,「時刻歴波形については、ケース1ではいずれの地点も加速度波形,速度波形ともに観測記録と整合していない.ケース2では加速度波形についてはあまり整合していないが,速度波形については位相がかなり合っている.」と結論づけています(伯太は断層と直交方向に位置し,「FO-A~FO-B 断層と熊川断層」に対する高浜・大飯原発の位置関係に近い).また,「最大地震動のうち,最大加速度についてはケース1・2とも概ね倍半分の範囲に入っているが,計算地点によっては約3倍,1/3 になる場合もある.最大速度については,ケース1は最大加速度と同様なばらつきが見られるのに対し,ケース2ではすべての地点・成分において倍半分の範囲に入る.」としています.要するに,倍半分以下であれば整合しているという程度の適合性にすぎないのです.断層モデルのレシピではそれすらも達成することが困難であることが正直に述べられています.
さらに注目すべきは,再現モデルによる解析[19]では図24 のように推本のケース1・2より再現性が高くなっていますが,ここでは,破壊伝播が同心円状ではなく,破壊伝播が回り込むような伝播を模擬しています.図24 の3 段目には同心円状破壊伝播に直した場合の解析結果も示されていますが,速度波形を全く再現できていません.これは裁判官にとっても驚きだったと思います.

 2,000 ガル程度の地震動は実際に起きている

以上で,断層モデルによる地震動過小評価の説明を終え,最後に,2,000 ガル程度の地震動は図25 の新潟中越沖地震や図26 の岩手・宮城内陸地震のように実際に起きていること,原発における耐震設計は後追いにすぎなかったことを具体的に示しました.
特に,原子力安全委員会が設置され,耐震設計審査指針が策定された1981 年7 月時点ですでに22 基の原発が稼働していたことは,最初から後追い行政であったことを示す重大な事実です.1995年の阪神・淡路大震災を受けて地震調査研究推進本部が設置され,2001 年から耐震設計審査指針の見直し作業が行われている最中に,2005 年の宮城県沖地震M7.2 で女川原発の基準地震動が超えられました.2006 年に指針が大改定された後も2007年の能登半島地震M6.9 で志賀原発の基準地震動が超えられ,2007 年新潟県中越沖地震M6.9 で柏崎刈羽原発の基準地震動が超えられ,20011 年東北地方太平洋沖地震では福島第一原発と女川原発の基準地震動が超えられるなど,「基準地震動を保守的に設定している」はずの原子力安全規制は全く後追いにすぎませんでした
2007 年新潟県中越沖地震(M6.8) では図25 のように1699 ガル(解放基盤表面はぎとり波),2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2) では,表3 のように地中で1,078 ガル(3 成分合成),解放基盤表面はぎとり波相当で図26 のようにNS 方向2,000 ガル([8]p.31)の地震動が相次いで観測されています.これらはいずれも高浜3・4 号と大飯3・4 号のクリフエッジを超えているのです.
2007 年新潟県中越沖地震以降,震源特性として図26: 岩手・宮城内陸地震M7.2 で観測された地中地震観測記録の応答スペクトル[7] を2 倍にした「はぎとり波」相当の応答スペクトル[8](一関西IWTH25 観測点の「はぎとり波」はNS 方向で2,000 ガルになり,短周期側で大きく盛り上がっている)約1.5 倍の不確実さを考慮し,深部地下構造や3次元地盤構造を詳細に調べることが常識になりました.そのため,耐専スペクトルでは,内陸補正を行わないことで震源特性の不確実さを考慮することになったのです.これに対応して,断層モデルでも,不確実さの考慮として応力降下量(および短周期レベル)を「1.5 倍または20MPa の大きい方」に設定することとし,「特に応力降下量が20MPa 以下のサイトは適切性について再点検が必要」と警告しています[6].ここでも,原子力安全規制は後追いでしかありませんでした.そして,2011 年3月には決定的で致命的な「先行規制の遅れ・失敗」を経験してしまったのです.このような経験を二度と繰り返してはならないと思います.
2008 年岩手・宮城内陸地震は「震源を特定せず策定する地震動」の16 地震のうちの一つに挙げられましたが,一関西(いちのせきにし) における表3 の極めて大きな地震観測記録(地表で4,022 ガル,地中で1,078 ガル)が採用された原発は未だにありません.一関西の地中地震計は深さ260m,S波速度1,810m/s の固い岩盤に設置されており,若狭の原発の解放基盤表面位置のせん断波(S 波) 速度と同等と言えます.地中観測記録の応答スペクトルを2 倍にした解放基盤表面はぎとり波相当の応答スペクトルは図26(1G = 980 ガル)の通りであり,NS 方向で2,000 ガルにもなります.泊原発の審査(2015 年3 月)でようやくこの地震観測記録が検討されましたが,図26 の一関西以外の観測点での1/4 以下の小さな観測記録が採用されようとしています.その理由は「IWTH25(一関西)については,トランポリン効果ロッキング振動の要因や大加速度が発生した要因を特定するため,地盤構造等の調査,調査結果を踏まえたはぎとり解析,および震源特性を踏まえた検討が必要である.それらの検討には相応の期間が必要であり,現時点で信頼性の高い基盤地震動の評価は困難である.」[8] というものです.しかし,地表記録はともかく,解放基盤表面相当の固い岩盤に設置された地中地震計による地中記録にはトランポリン効果やロッキング振動による影響は見られません.2008 年6 月14 日の強震動観測から7 年以上が経つのに,一向に調査・解析が進んでいません.「調査・解析を進めないことが利益になるからサボタージュしている」としか思えないのです.震源近傍でせっかく取れた貴重な地震観測記録がこのような形で生かされないままお蔵入りにされるのであれば,「地震観測記録が新たに取れれば,震源を特定せず策定する地震動の考慮対象に組み入れる」と原子力規制委員会・原子力規制庁がいくら強調しても,説得力はありません.「大きすぎる地震動は考慮しない」という方針を採っているとしか思えないからです
高浜3・4 号と大飯3・4 号の基準地震動はもとよりクリフエッジをもはるかに超える地震動が実際に起きています.このような地震動が実際にこれらの原発を襲うことになれば,炉心溶融事故を避けることはできないでしょう.福島第一原発事故を経験してもなお「後追い規制」を続けることは,もはや許されない.私はそう思います.

参考文献

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[2] (財)地域地盤環境研究所(2011):震源を特定せず策定する地震動に関する計算業務報告書(2011.3)
[3] 中央防災会議(2006):第26 回「東南海,南海地震等に関する専門調査会」参考資料,中部圏・近畿圏の内陸地震の震度分布の検討資料集,図2.3.2(2006.12.7)
[4] Fujii Y. and Matsu’ura M. (2000) : Regional Difference in ScalingLaws for Large Earthquakes and its Tectonic Implication, Pureappl. Geophys. 157, 2283-2302
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[8] 北海道電力(2015):泊発電所震源を特定せず策定する地震動について(コメント回答),第210 回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合,資料1 (2015.3.20)
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[22] 若狭ネット編集局(2015):「川内 高浜 大飯原発の基準地震動と川内原発の火山に関する2015 年1 月16 日原子力規制委員会・原子力規制庁との交渉」関連資料
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