11/17仏同時テロ 背景に横行するイスラム差別 軍事劣勢に存在感誇示【東京新聞・特報】

仏同時テロ 背景に横行するイスラム差別 軍事劣勢に存在感誇示

2015年11月17日【東京新聞・こちら特報部】

多数の死傷者が出たフランス・パリの同時多発テロは、世界に大きな衝撃を与えた。オランド大統領は、過激派組織「イスラム国」(IS)の犯行と断定。シリアのIS拠点空爆を再開した。風刺週刊紙などが標的となった連続テロから約10カ月。なぜ、再びパリが狙われたのか。日本は大丈夫なのか。テロの脅威が広がる中、報復の連鎖につながらないのか。識者に聞いた。 (池田悌一、榊原崇仁)

「フランスはシリア空爆以前もマリに軍事介入するなどしており、イスラム過激派がいつテロを仕掛けてもおかしくない状況が続いていた」。日本エネルギー経済研究所の保坂修司研究理事はそう指摘する。
劇場に押し入った容疑者の一人は「シリアのためだ」と叫んでいたという。フランスは有志国連合の一員として、今年九月、シリア国内のIS拠点の空爆に踏み切っている。テロはこれに対する報復という見方は強い。
東京大の池内恵准教授(イスラム政治思想)は、「ジハード(聖戦)の思想を持つ勢力はイスラム教が支配する社会を正しいと考え、『西洋』を敵対勢力とみなす。米国のように離れておらず、目前の敵の中心地と目されてきたのがフランスだ。他国を狙うよりも目立つ。ターゲットとしての価値が高い。欧州の中でもアラブ系のイスラム教徒が多く、自由に行動しやすい環境もある」と話す。
一方で、フランス国内でイスラム教徒が置かれた立場が影響した可能性も指摘されている。フランスは人口の約8・8%に当たる約五百八十万人もの移民が生活する「移民大国」で、アラブ系の移民が多い。
青森中央学院大の大泉光一教授(危機管理論)は「就職、教育などでイスラム教徒に対する差別、偏見が横行しており、鬱屈した感情が蓄積されていたのではないか」と推測する。
ISを名乗る団体が、ネット上に犯行声明を出したが、犯人しか知り得ないような新しい事実は含まれていなかった。保板氏は「ISが具体的に指示し、武器や資金面で支援したという証拠は確認されていない。フランスなど欧州で育った若者らによるホームグロウン(自国育ち)テロの可能性が高いのでは。そういったグループがISとコンタクトを取り、行動に移したと考えられる」とみる。
テロ対策に詳しい板橋功・公共政策調査会研究センター長は、「モロッコやアルジェリアなど北アフリカ系移民の二世、三世が、アルカイダやISの情報をインターネットを通して得て、思想を過激化させている。シリアやアフガンから帰還した元戦闘員が少なからずいる」という。
短時間で復数箇所を襲撃し、百人以上を殺害している。板橋氏は「戦闘経験を積んだ者か、相当な訓練を受けた者が計画的に犯行及んだのではないか」とみる。ただ対策は容易ではない。「治安当局が疑わしい人物をマークしようにも何千人、何万人と予備軍がいる現状ではとても人手が足りない」
劇場を襲撃した実行犯の一人は、パリ近郊に住むフランス人で、過激思想に傾倒する人物として仏当局が把握していたとされる。大泉氏は「それでもテロが起きた。各国でテロ対策をしていたにもかかわらずだ。今までの対策では防ぎきれないということ」と話す。
敬愛大の水口章教授(中東研究)は、「ロックバンドのコンサートやバーなど、非イスラム的な場所がテロの対象になっている。軍事的に劣勢に立たされているISが、存在感を誇示するため世界的観光地を狙ったのだろう」と解説する。
現場に残されていたシリア国籍のパスポートの所有者は、十月、移民に交じってギリシャに入国していたことが分かっている。ISによるかく乱作戦の可能性もある。水口氏は「実行犯が難民を装って入国したと断定されれば、極右国民戦線(FN)などの難民排除の声はさらに強まるだろう。過激な思想を待たない難民や移民の受け入れまでやめるようなことになれば、情勢は悪化し、さらにテロを呼ぶ循環に陥ってしまう」と危ぶむ。
「ISは中東で局地戦を行ってきたが、今回のテロで戦線が拡大されたといえる。イスラム過激派のネットワークは広がっており、東南アジアにも組織は存在する」
日本に危険が及ぶことはないのか。
後藤健二さんと湯川遥菜さんの人質事件では、ISを名乗るグループが、あらゆる場所で日本人を殺害するという趣旨の映像声明を出した。ISの英字機関紙「ダビク」は、巻頭の二ページでこの事件を取り上げ、「日本人は今や戦闘員らの標的だ」と主張した。板橋氏は「各地にいるISのシンパがこれを読み、『日本もターゲット』と認織するようになっている」と指摘する。
「日本では今後、来年の伊勢志摩サミットや関連の国際会合が相次いで開かれ、二O二O年東京五輪も控える。世界に報道される機会が増えるわけで、『一旗揚げよう』とテロが計画されることは十分考えられる」と警告する。
トルコのアンタルヤで開かれている二十カ国・地域(G20)首脳会合では、テロ対策について協議。オバマ米大統領は、IS打倒に向けた行動を訴えた。米国やフランスは、シリアなどのIS拠点に対する攻撃を強めるとみられる。
だが、ISに対する軍事作戦がテロの抑止につながる保証はない。
大泉氏は「IS勢力を徹底的に殲滅-せんめつ-するには相当の犠牲が伴う。各国にそれだけの覚悟があるのか。空爆の効果は限定的。結局は地上戦しかない」と分析する。
一方、日本の対応については「日本はテロに対する意識が希薄。『嫌なことには目を背けよう』とする国民性がテロ対策の大きな妨げになっている。ナイフを振り回す犯人役を刺股で逮捕するような訓練も行っているが、テロに求められる対応とレベルが違いすぎる。犠牲者が出る前に国民の意識を変えることが必要だ」と説く。
保坂氏は「日本は、イスラム過激派の洗脳を解くリハビリ支援などに各国と取り組み、テロの芽を摘む努力をすべきだ。ISによる日本人人質事件のときのように、一般のイスラム教徒まで誹謗中傷するようなことをしてはいけない。『日本はイスラム差別国家だ』としてテロリストの攻撃対象に浮上しかねない」
立教大の西谷修特任教授(比較文明学)は、9・11後の米国などの中東政策を批判する。「結局、暴力によって非文明国を懐滅させても構わないという風潮がまん延した。軍事攻撃により中東の生活インフラは破壊され、最低限度の暮らしさえできなくなったことで難民が増大した」と指摘し、こう訴える。「中東に安定をもたらすのは空爆ではない。テロリストを生まない土壌をつくることが大切だ。そのためには国家間の対話により秩序づくりをした上で、生活を立て直すための支援をすべきだ」

((((デスクメモ))))
「ソフトターゲット」。何とも嫌な言葉だ。政府や軍の重要施設ではなく、不特定多数が出入りする民間施設や繁華街など警備が手薄な場所を指す。劇場、スタジアム、レストラン・。都市のどこもが標的になり得る。新たな戦争の時代が到来したのか。私たちに何ができるのか。ここは冷静に考えたい。(国)

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カテゴリー: 集団的自衛権, 戦争法案, 中日東京新聞・特報 パーマリンク