【11/26東京新聞・特報】憎しみの連鎖断ち切れ レリスさんの言葉から考える/パリテロ IS空爆で解決せず/シリアや難民の声 聞こう/「憎むは人の業にあらず」

私がレリスさんの言葉を知ったのは先週だった。↓

「憎しみは与えない」 テロリストへ妻亡くした男性投稿
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2015112002000288.html
2015/11/20【中日新聞・夕刊】

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憎しみの連鎖断ち切れ レリスさんの言葉から考える

パリテロ IS空爆で解決せず

 シリアや難民の声 聞こう 「憎むは人の業にあらず」

2015年11月26日【東京新聞・特報】

「君たちに憎しみを与えない。君たちの負けだ」。パリのテロ事件で妻を亡くしたフランス人ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさんはこう発信した。過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆が続くが、このメッセージの方が打撃を与えるのではないか。ISに命を奪われたジャーナリスト後藤健二さんの平和のメッセージも思い出したい。憎しみの連鎖を断ち切るために-。 (鈴木伸幸、白名正和)

地中海に展開するフランス原子力空母「シャルル・ドゴール」からIS拠点空爆のため、戦闘機が出撃していく。ネット上の世論調査では、フランス人の百%が空爆に賛成し、しかも58%は強く支持している。
パリ出身でフランスの国家功労勲章第受章した共立女子大のジャニック・マーニュ教授も「直接の友人に犠牲者はいないが、友人の友人や兄の友人も殺された。あまりのショックに空爆に賛同する気持ちは理解できる」と話した。
レリスさんのメッセージに共感しても、テ口組織を壊滅するための攻撃は必要ということかもしれない。
レリスさんは仏ラジオで、「息子に憎しみや暴力、恨みを抱えたまま育ってほしくない。武器は与えたいが、銃ではなく、紙やぺン、音楽という武器だ」とも語っているが、シリアでは爆弾が用いられている。暴力に暴力で対杭しても解決しないことは、米中枢同時テロ後のアフガニスタンやイラクでの軍事行動とその後の混乱が証明している。マーニュ氏は「テ口実行犯はフランスやベルギーで育った。差別や貧困を放し続けたことが問題。冷静に考えなければならない」と付け加える。
空爆を疑問視する専門家は少なくない。ハーバード大のステファン・ワルト教授は「ISが求めるモノを与えるな」と題したコラムを専門誌フォーリン・ポリシーに寄稿した。
「無実の百三十人の犠牲者はとんでもない悲劇だが、それで私たちの社会が揺らぎはしない。問題は怒りや不安による混乱。それこそ思うつぼだ」と指摘した。「空爆でISは弱体化するだろうが力で抑え付けても、また別のテロリスト集団が生まれてくるだけだ」
英紙ガーディアン(電子版)は「ISが恐れるのは空爆ではない」との見出しで、ISの人質になったフランス人ジャーナリスト、ニコラ・エナン氏の記事を掲載している。
約十カ月間、拘束され、解放されるまでにIS幹部十数人と接触した。後藤健こさんらの殺害を予告する映像に登場した覆面男「ジハーディ・ジョン」から「薄毛」と呼ばれていたという。
エナン氏は「彼らはネット上などのニュースに非常に関心を持っている」と説明し、「パリの同時テロで混乱に陥っている様子に大喜びしているはずだ」と推測する。
「IS幹部は子どもっぽく、思考回路は単純だった。『イスラム教徒対非イスラム教徒(十字軍)』という構図をつくり、欧州のイスラム教徒をたき付けるのが策で、テロもその一環だ」

軍事行動よりも、欧米による寛容の精神こそを嫌がるという。「一番困るのはドイツが移民を歓迎する報道だろう。異教徒、異民族への寛容は対極の考え方だ」と分析する。「空爆は想定内。彼らが恐れるのは対立の構図をつくれない私たちの連帯だ」と指摘した。

今年一月、ISに殺害された後藤さんも憎しみを戒めるメッセージを発信していた。 「目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり。それは祈りに近い。憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった」
後藤さんが二O一O年九月にツイッターに書き込んだ言葉だ。英BBCが「平和のメッセージ」と題して世界に伝え、ジェームズ・ロングマン記者は「彼らのゲームに乗ってはいけない」と訴えた。
法政大の水島宏明教授(メディア論)は「親を殺害され、大人になって報復する事態が中東では繰り返されている。その様子を取材した後藤さんは、憎しみの連鎖は何も生み出さないということを、伝えたかったはずだ」と話す。
その上で、「一年もたたないのに、後藤さんの死が過去の話になっていないか。思いを埋もれさせてはいけない。憎しみの連鎖の解消に処方箋や特効薬はないが、教育や理性の力で時間をかけて解決すべきだ」
「憎しみの連鎖を断ち切る」。一九七0年代にポル.ポト政権による大量虐殺の中を生き延びた元カンボジア難民の久郷ポンナレットさん(五一)=神奈川県平塚市=は、自らにこう課しているという。
プノンペン生まれ。十歳の時、農村に行かされ、ダム工事などに従事させられた。父親は運行され行方知れず。姉の一人は栄養失調で死亡した。ポル・ポト政権の崩壊後も内戦がやまず、地雷原を歩いてタイの難民キャンプに逃げ、日本に留学していた姉を頼り来日した。十人家族は今では四人しかいない
「家族を失えばつらく苦しい。憎しみが完全に消えたわけではない。でも、されたことと同じことはしない。亡くなった人は戻らないし、親は喜ぶどころか『そんな風に育てた覚えはない』というだろうから」 初めからそう考えられたわけではないという。きっかりはO五年にカンボジアで行った家族ら犠牲者の葬儀だ。「加害者側の住民と会った。憎しみはぬぐいきれなかったが、剃髪する時に手の温かさを感じ、同じひとだと気付いた」
「憎しみの速鎖を断ち切るには、耳を傾けることです」と説く。テロ事件などが起きると、「すぐに『話し合える相手ではない』となるが、本当にそうだろうか。互いに刺激し合い、意地を張り合っているようにしか見えない」。
今回のレリスさんのメッセージについて、「正しい選択だと思う。テロの直後に発信できたことを尊敬する」と話し、メッセージは大切なヒントを与えてくれていると感じる。
「自分の経験に例えるなら、私はパリ市民ではなく声も上げられず亡くなっていくシリアの子どもたち。もっとシリアや難民の声に耳を傾けるべきではないか」。分け隔てなく命の重みを考えるチャンスだと。今回のテロを機に、欧州連合(EU)への入域審査強化や、域内の国境審査の厳格化を求める声も出ているが、一橋大の福富満久教授(国際政治学)はむしろ、「難民への行政面や福祉面での手厚い保護が求められる」と話す。「テロは自由と平等、信頼という欧州の精神を内部崩壊させ、恐怖社会にするのが狙い。欧米が憎悪を募らせ寛容の精神を失えば、それこそISに屈したことになってしまう」と指摘した。

===レリスさんのメッセージ全訳===

「君たちに憎しみを与えない」

金曜日の夜、君たちはかけがえのない人の命を奪い去った。私の最愛の妻、そして息子の母を。でも、私は君たちに憎しみを与えない。君たちが誰かも知らないし、知りたくもない。君たちは死んだ魂だ。君たちは神の名で無分別に殺りくを行った。もし、その神がわれわれ人間を自らの姿に似せてつくったのだとしたら、妻の体に撃ち込まれた一つ一つの弾丸が、神の心に撃ち込まれていることだろう。
だから、私は決して、君たちに憎しみという贈り物を贈らない。君たちはそれを望むだろうが、怒りで応えることは、君たちと同じ無知に屈することになってしまう。君たちは、私が恐怖し、周囲の人を疑いのまなざしで見つめ、安全のために自由を犠牲にすることを望んだ。だが、君たちの負けだ。私はまだ、私のままだ。
今朝、(亡きがらの)妻に対面した。幾晩も幾日も待ち続けた末に。彼女は金曜日の夜に会った時と変わらず美しく、そして、恋に落ちた12年以上前と同様に美しかった。もちろん、私は悲しみにうちひしがれている。だから、君たちのわずかな勝利を認めよう。でも、それは長くは続かない。彼女は、いつも私たちと一緒に歩む。そして、君たちが決して行き着くことができない天国の高みで、私たちは再び出会うだろう。
私と息子は2人になった。でも私たちは世界のいかなる軍隊よりも強いんだ。私が君たちに費やす時間はもうない。昼寝から目覚めた(息子の)メルビルと会わなくてはならない。彼は毎日、おやつを食べ、私たちはいつものように遊ぶ。この幼い子の人生が幸せで、自由であることが君たちを辱めるだろう。君たちは彼の憎しみを受け取ることは決してないのだから。

(((デスクメモ)))
憎み、仕返しをすればまた憎しみが生まれる。亡くなった人は、復讐(ふくしゅう)など望まないはずだ。負の連鎖は、断ち切らなければならない。だが、自分が大切なひとの命を無慈悲に奪われれば、憎まずにいられないとも思う。だからこそ、レリスさんのメッセージは重く、尊い。何度も読み返したい。(文)

アントワーヌ・レリスさん=(本人のツィッターより)

レリスさんのフェイスブック

シリア北部アレッポで取材活動中の後藤健二さん=インデペンデント・プレス提供

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