「下流老人」藤田孝典さんインタビュー 離婚、認知症、孤立……(1)銀行員を襲った老後の貧困 (2) 銀行員を襲った老後の貧困【毎日新聞】

ある日突然貧困に陥ることがあるのだ。
上牧行動主催者夫人の昨日のブログで、競馬で150万円当った方の話にあった。
http://takatukigomi.sblo.jp/article/171321506.html

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離婚、認知症、孤立……銀行員を襲った老後の貧困

「下流老人」藤田孝典さんインタビュー(1)

ふつうの会社員がある日介護で「下流」に転落する

2016年1月4日 編集部【毎日新聞】
http://mainichi.jp/premier/business/articles/20151228/biz/00m/010/019000c

年収400万円の会社員も、一歩間違えば生活保護レベルの生活に転落−−困窮者支援のNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さん(33)が昨年出版し、20万部超のベストセラーになった「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」(朝日新書)。病気や介護離職などをきっかけに、一気に貧困状態に転落しかねない現代社会の危うさと制度の不備を詳細に描き、大きな反響を呼んだ。「貧困」への転落がなぜかくも簡単に起きるのか、実例と対策を藤田さんに聞いた。【戸嶋誠司】

−−ずっと埼玉県内で困窮者支援をしてこられました。

◆藤田孝典さん 学生時代の2002年にボランティアとして始めました。04年に社会福祉士の資格を取り、本格的に活動しています。

普通の会社員が簡単に貧困になる時代

−−00年代前半からずっと現場を見ていて、一番の変化は何ですか?

◆普通の人が簡単に貧困になる時代になりました。それ以前は、長く建設現場で働いていた人が50代、60代になり、足腰を悪くして働けなくなった、貧困に陥ったというケースが多かったんです。ある特定の業種の人が比較的貧困になりやすかった。ほかにIT業界、警備員の仕事など、長時間職場の人ですね。

藤田さんの著書「下流老人」

それが、08年のリーマン・ショックでガラッと変わった。会社勤めだった普通の人が生活に困って相談に来ます。若者から年配の人まで、銀行員、会社員、公務員だった人もいます。そこが大きな変化です。

−−公務員だった人も? 勝ち組じゃないのですか。

◆地方公務員も上場企業の会社員も関係ありません。年収や地位があっても、今は二つのファクターで容易に貧困に陥ります。介護、離婚、病気というファクターと、それに伴う離職ですね。

−−印象に残っている事例を教えてください。

◆数年前、埼玉県上尾市の50代の男性から相談を受けました。市内の一戸建てを訪問したら、外観はすごくきれいなのに中はボロボロで畳の底が抜けていて。1階の畳の部屋でおばあちゃんが苦しそうに寝ていました。

おばあちゃんは80代前半、認知症でほとんど寝たきりの状態。世話をしているのは50代後半の独身の息子さんです。数年前まで地方公務員として働いていたそうですが、介護で辞めて、その後はアルバイトで生活してきました。電話で「仕事もなくつらいので、正直死にたいんです」って相談されました。

預貯金もない50代独身息子と認知症の母親

悪くなった最初の2年ほどは、男性も働きながら世話をしていたんですが、仕事を続けられないということで辞めて、母親の世話をしながらコンビニで働いたり、アルバイトをしたりして。最初は預貯金があったし、退職金も出て、母親の国民年金も月額4万円ぐらいはあったのでなんとかなってた。

でも、その後8年間で貯金が底をつき、母親の認知症が重くなってアルバイトもできなくなった。自暴自棄で家の中はグチャグチャ。預貯金をなくした50代の独身息子と80代の母親の2人が、4LDKのボロボロの家の中でただただ身を寄せ合っていたわけです。

簡易宿泊所で暮らす高齢の男性。夕食はカップうどんだった=川崎市川崎区で、国本愛撮影

−−息子さんは公的な支援を要請しなかったんですか?

◆息子さんは公務員だったため世間体を気にして、誰にも相談していなかったようです。介護保険について聞いたら「母が他人の介護をいやがるから」と相談も申請もしていませんでした。「持ち家があるから生活保護も受けられないだろう」と思いこんでいました。私が自宅を訪ねた日は「もう何日もまともに食べていない。現金はあと800円ぐらいで、これがなくなったら終わり」と。

そこで、急いで介護保険と生活保護の申請をしました。幸いどちらも申請が認められて、今はヘルパーさんに来てもらっています。共倒れという最悪の事態は避けられました。

−−決して特殊な事例ではなくなっていると。

◆まったく特殊ではありません。リーマン・ショック以降、普通のサラリーマンの人がこうした相談に来るケースが増えているんです。しかも、その人たちには特徴があります。まず最初に謝るんです。「申し訳ない、自分のことを自分でできなくなっちゃって申し訳ないんだが、(暮らしを立て直す)いい方法はありませんか」と聞いてくる。貧しさはすべて自分の責任だ、と思っているんです。

ここ20年の不況を経ても、社会の価値観は変わっていなくて、貧困は特殊で、怠けていた人がなると思い込まされています。だからみなさん、「申し訳ありません」と自分を責めながら相談に来ます。貯金しとかなかった自分が悪い、家族と不仲になった自分が悪い、と。

病気や失職はだれにでも起こる

しかも日本の特徴として、とことん困窮してから相談に来る事例がほとんどです。末期のがんだけどお金がないからロキソニンでごまかしながら働いていますとか、収入がないから、病院にもかかれませんとか。

生活保護も含めて、無料でかかれる病院もあるんですよ。そこに早く気づいてくれれば何とでもなったのに、というケースも多い。

−−介護や本人の病気、失職はだれにでも起こりますね。

◆そうです。特に近年、中高年の介護離職のリスクがすごく高まっています。介護のために離職して、収入をなくして生活困窮に至るケースが多い。結局、介護離職って自分の年金まで食べちゃうことなんです。その期間働かないということは、報酬比例の将来の年金を減らすことになる。親を介護するために仕事を辞めて収入を減らして、そのうえ年金まで削られちゃって。だから、離職せずに働き続けることが最低限のリスク回避策なんです。

−−離職しないで介護保険制度をうまく使いたいところです。

◆介護保険制度も生活保護制度も申請主義です。申請したら助けてあげますよという仕組み。制度へのアクセス方法を知らない人には使いにくい制度です。また、いまだに「介護は身内がやるもの」という意識が強い。でも、制度本来の目的通り、社会保障としてきちんと機能させておかないと、その結果困窮者が増え、かえって財政にも打撃を与えます。

◇略歴

藤田孝典(ふじた・たかのり)/NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」など。

<藤田孝典さんインタビューは計3回です。次回は1月6日に掲載します>

 

「下流老人」藤田孝典さんインタビュー(2)

離婚、認知症、孤立……銀行員を襲った老後の貧困

2016年1月6日 編集部【毎日新聞】
http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160104/biz/00m/010/012000c

失われた20年を経た日本は、一度転落するとやり直しのきかない「滑り台社会」になったと言われる。ごくふつうの暮らしをしていた会社員が、突然「下流」に滑り落ちるきっかけとは何か。20万部を突破した「下流老人」(朝日新書)の著者で、ソーシャルワーカーの藤田孝典さん(33)へのインタビュー2回目は、本人の病気と離婚から生じた孤立が、貧困に直結したケースを紹介する。【戸嶋誠司】

−−離婚が下流化へのきっかけになるのですか?

◆藤田孝典さん 熟年離婚でそうなるケースが増えています。元銀行員の男性とその奥さんのケースを紹介しましょう。

某都市銀行に勤めていた男性が63歳で関連会社の仕事を辞めました。退職金は銀行時代も含めてドンと3000万円ぐらい出て、65歳からもらえる年金は月額24万円も。さいたま市にローンを払い終えた持ち家があり、預金も合わせると現金は4000万円ほどあった。ふつうなら悠々自適です。

ところがストレスの影響かなにか、退職してすぐに認知症を発症しました。男性は奥さんに暴言、暴力をふるうようになり、奥さんが耐えきれなくなって離婚したんです。それがきっかけで転落が始まりました。

藤田さんの著書「下流老人」

奥さんは専業主婦ですから年金はゼロ。家計は夫の年金24万円に頼る予定でしたが、一緒に暮らせなくなった。どうしたかというと、持ち家を売って折半し、年金も分割したのです。夫が15万〜16万円、妻が8万円とか。2人がそれぞれアパートで暮らし始め、あっという間に下流老人になってしまいました。

認知症を発症して離婚、孤立

男性は認知症があって働けませんから、相談に来たときはすでにアパートの部屋はグジャグジャで、家賃も滞納していて、早く出ていってくれって大家さんから言われている状態。大家さんとの間に入って、うちのNPOのシェルターに入ってもらい、保護しました。

−−元の奥さんと連絡を取りましたか。

◆いえ、取れませんでした。娘さんを通じて事情を伝えると「もう顔も見たくない、会いたくない」と言われました。介護保険の申請をしたのですが、その時点で別にがんが見つかった。結局、この男性は亡くなりました。最期は衰弱も激しくて、早く助けを求めていればこうならなかったのに、という事例でした。

路上生活者への炊き出し=名古屋市内で

アパートの部屋を片付けに行ったらすごかった。山ほど健康食品があり、何だかよくわからない宗教のお布施の預かり証が出てきて。そこに50万円万とか70万円とか書いてあるんです。どこかの宗教法人にお金を出していたんですね。飲み屋にも借金があった。スナックの領収書もいっぱい。おそらく、話に付き合ってくれる人みんなから何かを買って、お金を払っていたんだと思います。

−−認知症で孤立して、誰にも頼れなかったんですね。

◆そうですね。1人で暮らしていながらほとんど金銭管理ができなくて、あっという間にお金がなくなったんでしょう。周りに頼れる人もいなくて、金銭管理をしてくれる人もいなかった。その男性は最期に「もっと早く藤田さんと出会ってたらよかったよ」と言っていました。

ちょっとしたきっかけで貧困状態に

−−病気になったり、家族の介護が降りかかってきたり、離婚したり、仕事を失ったりして孤立した瞬間、貧困が目の前に迫ってくるんですね。

◆介護や病気、失職は誰にでも起こり得ることです。その時、必要以上に自分で負担を背負い込むと追い詰められます。特に、仕事仕事でがんばってきた猛烈会社員ほど、何かが起きた時にがんばろうとして誰かに助けを求めず、孤立しがちです。早くSOSを出せば打つ手はいろいろあります。

そのために、地域の活動に参加したり、サークルのような疑似家族的な場所を作って参加しておいた方がいいです。周囲とつながりがあれば、「最近調子が悪そうだね」「元気かい?」と気にかけてもらえるし、助けを求めやすい。

−−こういう人は気をつけた方がいいというアドバイスを。

◆パーソナリティー的には、性格的に頑固な人はヤバいです。頑固だったり、意固地だったり、プライドが高かったりすると、柔軟にものごとをとらえられず、選択肢を減らします。生活保護を受けるぐらいなら、介護を受けるぐらいなら死んだ方がまし、という考え方の人にはなかなか支援を届けにくいですから。私たちは「受援力が低い人」と呼んでいます。

−−そのような関係性はすぐには作れない。40代から準備が必要ですね。

◆今の時代、仕事も健康も含めて何があるか分かりません。何が起きてもおかしくないし、何かが起きてから準備をしても遅いんです。そこでもう一つ準備しておいてほしいことがあります。それは、老後どのぐらい年金をもらえるのかを、ちゃんと調べておくこと。その年金額に合わせて、定年に向けての準備をしてください。いわゆる「生活のダウンサイジング」です。ずっと提唱しています。

自分が年金をいくらもらえるのかを知らない人、意外と多いんです。でも、ここはとても大切です。というのも、高齢者の8割は「年金しか収入がない」からです。老後の暮らしを年金に頼るしかない。ならば、もっと権利意識を持ってもらいたいのです。年金の支給額も下がっていますし、中高年の方は年金問題を高齢者の問題と思わず、自分の問題として注意深く見てほしいですね。

さらに、今のうちにリスクを分散しておいてほしい。家族でも預貯金でも、資産でも持ち家でもいいと思うんです。給与以外の収入を確保したり、仕事を続けたりして、リスク低減策を取っておくことが、貧困を回避するのに役立ちます。

そして、いざ危機が迫ったときに、頼れる社会保障制度を知っておいてください。

◇略歴

藤田孝典(ふじた・たかのり)/NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」など。

<藤田孝典さんインタビューは計3回です。最終回は1月8日に掲載します>

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