15/11/14「最悪」想像する力を 原発事故テーマに『亡国記』執筆 北野慶さん(作家)【東京新聞・土曜訪問】/2015/08/23【北海道新聞】

東京新聞の土曜訪問のバックナンバーを読んでいたら、ぜひこの『亡国記』を読んでみたくなった。隆祥館書店さんに明日注文しておこう。明日は『ガラパゴス』『どうらく息子』も買わなくてはいけない。

『亡国記』 北野慶 (著)
出版社: 現代書館
ISBN-10: 4768457665
ISBN-13: 978-4768457665
発売日: 2015/8/3

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「最悪」想像する力を 原発事故テーマに『亡国記』執筆 北野慶さん(作家)

2015年11月14日【東京新聞・土曜訪問】
http://www.tokyo-np.co.jp/article/culture/doyou/CK2015111402000231.html

tky1511kitanosan写真

ページをめくると、息もつかせぬ逃亡劇が展開する。だが、これは犯罪小説ではない。そしてパニック小説やサバイバル小説というには、あまりにリアルなのだ。

二〇一七年に南海トラフ地震が発生し、静岡県にある原発が爆発する。そんな設定で書かれた『亡国記』(現代書館)を著した北野慶(けい)さん(60)。編集者や韓国語の翻訳者をしてきたが、小説は北海道大学を卒業後、一冊出版した程度だった。「学生運動に挫折した体験を乗り越えようと書いた小説で、歌人の道浦母都子(みちうらもとこ)さんにほめられたけれど、全然売れなかった」と笑う。

その北野さんが再び小説を書いたのは「あのとき、首都圏が消滅する危険が迫っていた。今や、そのことをみんな忘れている」と痛感したからだ。そんな自分自身も、福島原発事故前は「チェルノブイリの時は社会主義国の老朽原発の話だと思っていた」。そんな自戒も込めた警告の書を、今年-2015年-八月に出版した。

「福島があの程度で済んだのは、とてつもない偶然。宝くじの一等賞当せんくらいの幸運が重なったといわれる。だったら、思い切り想像力を働かせて、最悪のシナリオをつくり、疑似体験で、読者に危機感を持って考えてもらえたらと。原発に関心のない人にこそ読んでほしいと思った」

出版に先立って出した電子書籍版には「一気に読んだ」「身につまされた」と感想が寄せられた。確かにページをめくると、当時の状況や気持ちを一気に思い出す。「緊急地震速報です! 強い揺れに警戒してください!」という電子音。テレビに映る官房長官の「ただちに健康に影響はない」との会見、「大丈夫です」という専門家の言葉…。

執筆期間はわずか一カ月。「原発をやめない日本に怒った神様が降りてきて書かせてくれたのかなと。筋を考えずにパソコンに文字を打ち始めると、勝手に世界が広がった」という。

ストーリーは、福島の事故後に京都に移住した動物園の飼育係深田大輝と、小学一年の娘陽向(ひなた)の逃避行が中心となる。福島事故から六年後、原発が次々と再稼働した日本で、静岡県の「島岡原発」の原子炉が爆発する。原発反対の抗議活動のために近くにいた妻の翠(みどり)は即死。百キロ圏内の人間は死滅し、本州と四国は高濃度汚染で人の住めない土地となる。

リアルさは細部の描写に宿る。首相と閣僚は真っ先に北海道へと逃げる。マスコミ幹部も続く。自家用機を持つ大企業の経営者や資産家は海外へ脱出。「臨時首都」の札幌で、閣僚は北海道庁に臨時政府をつくるが、「必ずや首都東京に帰還する」と決意表明じみた言葉を並べ立てるだけだ。

「原発事故は日本という国を消滅させる。それがどういうことか、バーチャルに体験してほしいと思った」と北野さんは話す。

小説では、事故後の大混乱に乗じ、本州と四国は米軍が、九州は中国軍、北海道はロシア軍が占領する。一千万人が難民化。ロシア政府はシベリアの石油や天然ガス田の開発の労働力として、日本人を強制移住させる。唯一、被害のなかった沖縄県は「沖縄共和国」として独立する。

海外脱出して難民となった主人公の父娘は、ロンドンで「ジャップが! 国を滅ぼし、世界中に放射能をまき散らしながら、いい気なもんだ」と吐き捨てられる。カナダでは難民排斥集会で「ジャップ、ゴーホーム!」と連呼される。

そんな描写を読むと、現在、EU諸国で深刻化する難民問題を、人ごとと思う余裕はなくなる。

福島の事故の時、北野さんは家族と関西へ避難した。当時高校生の長女(21)が、政府会見を放映するテレビを見ながら「うざい」とつぶやいた。「僕はまだ政府を信じるところがあったけれど、娘は本質的におかしさに気付いていた」。既成概念に麻痺(まひ)していない子どもの鋭さを実感した。

現在、韓国での出版話も進んでいるという。「一人でも多くの人に読んでほしい」と北野さんは言う。「この物語は、想像力を働かせれば誰でも思い付く。でも多くの大人は、無意識に考えまいとしてるんじゃないでしょうか」 (出田阿生)

 

「亡国記」を書いた 北野慶(きたの・けい)さん

2015/08/23【北海道新聞】
http://dd.hokkaido-np.co.jp/cont/books_visited/2-0028426.html

北野慶
現代書館 1836円

原発と震災 近未来に警告

5年前なら「ありえない!」と一顧だにされなかったかもしれない。だが、「3・11」を経験した今は、たった1カ所の原発で起きた重大事故が日本国自体を崩壊させるという物語が現実味を帯びて迫る。400字詰め原稿用紙約650枚の労作は、「近未来シミュレーション小説」とでも呼びたい読後感だ。

「(東京電力)福島第1原発事故が起きても原発をやめられない日本人に怒った神様が、時間を持て余しているやつを捕まえて、『大変なことになるぞ』と(警告するために)書かせてくれた気がする」と創作の道のりを振り返る。

2017年4月、静岡県沖で起きたマグニチュード8.6の地震により、同県内の原子力発電所の圧力容器が破壊され、核爆発を起こした。放射能被害から身を守るため、主人公の父と娘の地球規模の逃避行が始まる。京都からソウル、大連、北京、さらにリトアニア、ポーランド、カナダを経て、最後はオーストラリアに落ち着く。

日本列島は放射能に汚染され、無政府状態に。北海道はロシア、本州はアメリカ、九州は中国の軍がそれぞれ進駐する。やがて日本人は、北海道からはシベリアへ、九州からは北朝鮮へと運ばれる。海外に逃れた日本人は難民扱いされる。

この小説は初め、別の題でインターネット上に発表した。読者から「一気に読んだ」「考えさせられた」の好意的な評価を得、さらに「続編を読みたい」との要望を受け書き足した。

「(11年の)3・11で人生観がひっくり返された」と言う。当時は埼玉県在住。それまでは「国内に五十数基の原発があるのを考えることなく暮らしてきた人間」だった。3・11以降は東京都内の反原発デモにも参加した。だが12年12月の総選挙で脱原発に消極的な自民党が大勝。「すごい挫折感で1カ月ぐらいうつ状態になった」。13年4月に福島からより遠い岡山市に移った。

1954年栃木県生まれ。北大文学部哲学科を卒業後、都内の出版社勤務を経て韓国語翻訳者に。元妻との間に21歳の一人娘がいる。主人公家族が著者の家族とも重なるが、「100パーセントフィクション」と言う。

「1人でも多くの人に読んでほしいと思い、分かりやすい言葉を使って書いた。原発が『それでも必要』と言う人にも」と願う。長年、向精神薬依存症に苦しみ、今年は先に「のむな、危険!」(新評論)も出版した。

編集委員 鈴木博志

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