3/3原発事故と向き合う歌人 福井の紺野万里さん/3冊目歌集を発刊【日刊県民福井]

2016年3月3日【日刊県民福井]

http://www.chunichi.co.jp/kenmin-fukui/article/kenmin-news/CK2016030302000232.html

原発事故と向き合う歌人 福井の紺野万里さん

短歌集を発刊した紺野万里さん=福井市で

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3冊目歌集を発刊

 福井市在住の歌人、紺野万里さん(68)が昨年末、三冊目の短歌集「雪とラトビア*蒼(あを)のかなたに」を発刊した。父親が広島で被爆したこと、東日本大震災後に東欧に招かれた経験を基に、原発事故を見つめ直した。歌集には「食べなくてもいい」という連作も。短歌に込めた思いとは。 (藤共生)

 二〇一三年、東欧ラトビアの「詩の日々祭」に招かれた。二度目の訪問。短歌の朗読をしてほしいという依頼だった。一度目の訪問で現地の人は和菓子をとても喜んでくれた。でも、二度目の訪問では、何をお土産にするか思い悩んだ。福島第一原発事故が頭にあったからだ。

 「食べなくてもいい」は、そんな心情をつづった七首の短歌連作だ。

 「再訪のみやげを選(よ)りぬあの夏の茶会の笑顔を思ひ出しつつ」「お抹茶をこはごは飲みしイエバさんは双子の母になりてゐるとふ」「愛らしき形に色に雪月花 やまとの意匠の干菓子贈らむ」「とつおいつ思案し選びたる菓子は『その後』の日本に拵(こしら)へしもの」「豆本も二冊もとめむ幼らが好きでさうして口にせぬもの」「日本のお土産ですと渡す菓子『見るだけでも』と言葉を添へて」「東欧に子どもを育てゐる人のことばは優しくかなしく靱(つよ)い」

 福島第一原発事故直後、パリ在住の作家から「部屋を準備するから」と援助の申し出があったという。ヨーロッパでは原発事故への危機感は強い。ラトビアは、一九八六年に原発事故のあったチェルノブイリ(ウクライナ)からは四百キロ余り。

 紺野さんは「だから、二度目の訪問では能天気な歌なんか朗読できないわけですね。彼らの前で、放射性物質を海に流し続ける国に住む私が歌を朗読するとはどういうことかをすごく考えました」と振り返る。

 紺野さんにはショックだったことがある。この歌を日本の批評会に出した時、ある歌人から「なんでなの?これ」と言われた。「被爆二世として、日本人として、私にとって原発事故は避けられない課題。でも、多くの人がきょとん(という反応)なんですよね」と肩を落とした。

 現代文明の恩恵を受けているものとしての加害の自覚が、歌の根底にはある。「福島の人たちの本当の気持ちは私には分からない。だから分かったような顔をして被害の歌は絶対詠めないんです」と力を込める。

 紺野さんのテーマは「いのち」。「この星に何億年も続いてきた『いのち』を脅かすものとして、核の問題は避けて通ることはできない。そして核の事故は国境を越えて影響を与えてしまう」。日本に、福井に住む人間として、どう原発事故と向き合っていくか。大きな課題を見つめている。

 ◇ 紺野さんの歌集はA5判、二千円(消費税別)。福井市の紀伊国屋書店などで販売している。

 こんの・まり 1947年生まれ。福井市出身、在住。県立大などの非常勤講師。父は45年、救援に向かった広島で被爆した。94年に未来短歌会に入会。2000年に原発をテーマにした作品で短歌研究新人賞を受賞。歌集に「過飽和・あを」「星状六花」など。

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