4/6ベビーカーが挟まっているのに走らせる地下鉄の記事【東京新聞】

【東京新聞・筆洗】

2016年4月6日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/

母親が銃弾に倒れる。その手を離れた乳母車が赤ん坊を乗せたまま、階段を一段一段落ちていく。エイゼンシュタイン監督の「戦艦ポチョムキン」(一九二五年)である▼

帝政ロシア期の反乱を描いた映画の中で最も有名な場面はコサック兵が市民を虐殺する「オデッサの階段」である。強い印象が残るのは乳母車。為(な)す術(すべ)もなく落ちていく哀れな乳母車に見る者は強い恐怖と痛みを覚える▼

そのベビーカーに赤ちゃんは乗っていなかったと聞いて、安心する。それでも「もしも」と考えただけで総毛立つ東京メトロの事故である。半蔵門線九段下駅。電車がベビーカーを挟んだまま約百メートル走行した。気付いた乗客が非常通報ボタンを押したが、車掌は電車を止めることをためらい、そのまま走らせたという

「運行を優先させてしまった」。その説明は日本語としては正しい。されど「優先」という言葉からは人に対する「優しさ」という文字が消えてないか▼

電車の運行か、事故が起こるかもしれないという危険性か。二つを比べる「天秤(てんびん)」が故障している。電車の運行上、人の命やそれが失われる危険よりも「優先」される状況はあるまい▼

あの映画で怖いのは落ちゆく乳母車に誰も手を差し伸べなかったことである。車掌も客も注意の目と耳と、いつでも差し出せる掌を用意したい。「車」の「掌」は人の手のひらである。

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地下鉄ドアに潜む危険 閉まる間合いをつかめず ベビーカー事故

2016年4月6日 朝刊【東京新聞・社会】
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201604/CK2016040602000144.html

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東京メトロ半蔵門線九段下駅(東京都千代田区)でベビーカーが挟まれたまま電車が走行した事故は、電車の扉が閉まるタイミングが分かりにくかったことが原因だった可能性が出てきた。過密ダイヤで動く首都圏の鉄道網。利用客の駆け込み乗車が事故につながる可能性もあり、専門家は「利用客は乗車時、危機感を持つ必要がある」と警鐘を鳴らす。(木原育子)

事故に遭ったのは、夫婦とみられる男女と子ども二人。東京メトロが九段下駅ホームの防犯カメラを分析したところ、男女は二台の空のベビーカーを押していた。

まず妻とみられる女性と子ども二人が乗車し、ホーム側から夫とみられる男性がベビーカー一台を車内の女性に受け渡した。次に、男性がもう一台のベビーカーを自力で押して乗車しようとした際、ドアが閉まって左前輪が挟まれた。

同社によると、男性ら四人が駆け込む様子はなく、電車の到着を待ち、客が降りた後にベビーカーを乗せ始めた。

JRなどでは「ドアが閉まります。ご注意ください」などのアナウンスが流れるが、東京メトロでは、発車を告げる口頭の呼び掛けは原則的にしていない。「利用客に不快感を与えないため」(広報担当者)で、代わりにブザーと駅にちなんだメロディーで知らせている。

九段下駅ではメロディーではなく、ブザーで注意喚起をしており、同社はブザーの長さを「七秒以内」と決めている。しかし、国土交通省が二〇一〇年に全国の主な鉄道事業者の利用客を対象に行った調査では、ベルやメロディーの場合、ドアが閉まるタイミングについて「分かりづらい」などとする回答が55%を占めた。

技術評論家の桜井淳(きよし)さん(69)は「一つ間違えば、駆け込み乗車なども大事故につながるという危機感を、利用者側があらためて持つべきだ」と指摘する。

同じ国交省調査では、駆け込み乗車や、ドアが閉まらないように物などを挟んだことが一カ月以内にある、との回答は43%に上った。駆け込み乗車については、東京メトロの広報担当者は「駅構内に啓発ポスターなどを張っているが、抜本的な対策は取っていない」としており、利用客の意識が不可欠だ。

桜井さんは「扉が閉まる時にメロディーを流すことは、利用者に不快感を与えたくないという鉄道事業者側の配慮だが、その心地良さが、人間の緊迫感や緊張感をそぎ落とす一面もある。東京メトロに再発防止策を徹底してもらいたい」と話している。

◆メトロ 非常ブレーキ徹底

東京メトロ半蔵門線九段下駅で電車がベビーカーを挟んだまま走行した事故を受け、同社は五日、ホームの非常停止ボタンが押された場合は必ず非常ブレーキをかけるよう全車掌に徹底するなど、四項目の再発防止策を明らかにした。

石井啓一国土交通相は原因究明と再発防止策の取りまとめを指示しており、同社は今後、さらに防止策を検討する。

残る三項目は(1)車両ドアの検知精度向上(2)ホームドアの導入促進(3)監視業務の重要性を再認識させる乗務員への教育。

同社によると、ドアのセンサーが十五ミリ以上の隙間ができたのを検知すると発車できない。都内の車両基地で報道陣に公開された検知システムの動作試験では、十五ミリの板を挟むと反応したが、十ミリの部分では反応しなかった。事故の際にベビーカーの脚でできた隙間は十五ミリ未満だった。

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