「護憲」をあきらめるのはまだ早い 参院選投票結果が語るもの【吉竹幸則】

先日お世話になった方から「今回の選挙結果について少し勇気の出る分析があります」と、この吉竹幸則さん(元朝日新聞記者)の文書を頂戴。

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「護憲」をあきらめるのはまだ早い

  参院選投票結果が語るもの

  ■吉竹幸則

今回の参院選で改憲勢力が3分の2になった。既成マスコミは「与党圧勝」を伝え、改憲発議は不可避とのあきらめムードも1部に広がっている。でも、そうではない。昨年の違憲安保法制阻止で国会を取り巻いた市民運動の成果は確実に上がっている。3年踏ん張れれば、……。その間、どう闘うかである。

今回の投票結果を見て、一番改憲に焦りを強めているのは安倍晋三首相本人だという。自民党筋から流れて来た話だ。安倍氏が何故、焦っているのか。今回の獲得議席数を詳しく見れば、簡単に分かることだ。

確かに今回の選挙で改憲勢力は3分の2を占めた。でもよく見れば、民主政権崩壊の影響を受けた3年前の参院選自民圧勝の貯金である。獲得議席数で見ると、自民の前田は65。今回は56と9議席に減らしている。公明は、11から14。一方、民進(前回は民主)は17から32に増えた。共産は前回の8が今回は6。  6年前の選挙より倍増したが、野党協力で侯補者を減らした影響もあるだろう。

この選挙結果が3年後もそのまま続くと仮定すると、改憲勢力は再び3分の2を割り、発議は困難になる。改憲が悲願の安倍氏にとって残された期間は「この3年」と言うことになる。

本丸の9条は国民の抵抗感が強い。他の改憲から手を付けるかのではないかとこれまでも言われて来た。しかし、3年後からはさらに難しいとなれば、9条改憲が本丸と位置付ける安倍氏は9条以外の小手先の改憲で満足するかどうか。今後さらに強硬に出るかも知れない。

ただ、安倍氏が焦って強引に9条に手を付ければ、ボロも出る。護憲派には格好の攻めどころになるはずだ。衆院解散が何時あるかは分からない。しかし、次期参院選までの3年間が、護憲派政党や市民グループにとって、最大の踏ん張りどころ、正念場なのだ。

選挙結果をもう少し詳しく見てみよう。党勢を計るには、地元の選挙事情で左右される選挙区投票結果より、比例区で見るのが一番だ。3年前の比例区自民得票率は34.68%が、今回は35. 9 1 %と微増。公明は14.22%が13. 5 2 %。一方、野党共闘の主要勢力の民進は、13.40%(当時民主)から20.98%と大幅に票を伸ばして突出。共産は9. 68%が10. 74%、社民2. 36%が2. 74%、生活1. 77%が1. 91%である。

今回の事前の朝日新聞グループの世論調査で、は、「自民、公明の与党と、民進などの野党とどちらの議席が増えた方がよいと思いますか」に「与党の議席が増えた方がいい」が41%、「野党が増えた方がいい」は42%と均衡。「自民、公明党など憲法改正を進めたい政党が勝って、改正を発議して提案するのに必要な3分の2の議席を確保した方が、よいと思いますか」には、「思う」が35%に対し、「思わない」が47%で、上回っている。

この3年間、民進が支持率を増やせるような何らかの政治的成果を挙げたと感じる人はほとんどいないだろう。民進の得票・議席の増加は実力、党独自の努力ではない。安保法制限止で国会前に集まった人に代表される「改憲」に慎重な無党派層の風を受けた結果である。旧社会党の流れを汲み、改憲に慎重な無党派層の嵐を今でも受けられる民進は、やはり「腐っても鯛」であることを実証したのも今回の参院選である。

自らの侯補者を降ろしてでも、1人区で野党共関を主導した「志位共産」に、私も敬意を表する。今回の一人区は確かに11勝21敗と負け越しにはなったが、前回の2勝29敗(前回は31選挙区)に比べ、はるかに改善した。志位氏の功績である。

ただ、これまでも言われたことだが、共産には「得票率10%の壁」がある。今回の選挙でもその壁を大幅に打ち破ることは出来なかった。なら、今後の選挙で、平和憲法を守り抜くには、それぞれ利害がぶつかる政党主導ではなく、市民グーループが主導権を握り、共通マニフェストを作って野党共闘の枠組みを維持し、それをさらに進化させられるか杏かがカギとなる。

一つ目の課題は、昨年の違憲安保法制成立時に国会包囲で見せつけた市民のエネルギーを維持し、今後もその力を機会あるごとに安倍政権に見せつけられるかどうか、である。

市民グループが自然発生的に起こした活動は、これまで、下火に見えた護憲勢力の地下水脈が今でも脈々と流れていることを知実に示した。結集軸さえ見つかれば多くの人は集まる……。バラバラだった「平和憲法を守りたい」とする人々の心を一つにし、自信を植え付けた。次回参院選の3年後まで、結集軸をより太くし、安倍政権に見せつけ続けることが、9条改憲発議を与党側に思いとどまらせることにつながる。

二つ目は、若い人へのアピールである。年代別に見ると、若い人ほど改憲派に投票し、年代が上がると護憲派の比率が増える。自公両党に投票した割合は20代が最も高かったが、今回の選挙で初めて選挙権を与えた18、19歳の投票行動について朝日の出口調査でも、改憲派の自民40%、公明10%、おおさか維新8%に対し、民進17%、共産8%などに留まっている。

しかし、若い人たちが、平和憲法成立の歴史的経過や戦後70年以上、少なくとも日本で直接の戦死者を出さなかった意義について、どこまで正確に認識して投票に行ったのか。そもそも自民の改憲案を読んだ人も少ないだろう。シールズの登場が安保法制組止で高年齢層に活気を与えたが、シールズに限らず市民グループが若い人に現行憲法を知ってもらうために、何をするか、出来るかである。

3つ目は、実は一番肝心かなめのことだが、野党共闘に中心になる民進への対応である。民進は、政権を取ったことで露呈した通り、寄り合い世帯。出身母体の損得勘定、政見、政策も議員ごとにバラバラである。隠れ改憲派も多数いる。

市民グループがせっかく民進の尻を持ちあげて3年後当選させても、隠れ改憲派に寝返りされ、やすやすと改憲に向かって進むことになれば、何のための野党共闘選挙かと言うことになりかねない。

護憲市民グループは、脱原発とセットで護憲を主張するところが大半だ。民進はその配慮も働いて、この選挙のマニフェストに何とか「2 0 3 0年代原発ゼロ」を盛り込んだ。しかし、産経新開は民進の有力支持団体、連合傘下の電力総連との溝を伝えている。

電力会社に働く労組員で構成する電力総連は、会社側と軌をーにして「電力安定供給に原発は不可欠」との立場だ。記事によると、参院選公示日直前の6月17日、「九州電力総連」の定時大会で、比例区で立候補した民進現職、電力総連顧問の小林正夫氏は、「民進党の小林ではなく、電力グループの代表として推してほしい」と訴えたというのだ。発言に先立ち、九州電力総連会長も「参説選は組織の力量を示す選挙。政党名は関係なく、個人名を書く選挙と割り切ってほしい」と呼びかけた、とされる。

確かに小林氏は個人名で27万票余りを集め、民進比例区候補の中でトップ当選を果たした。しかし、この票だけでは小林氏の当選はおぼつかない。民進は政党名で875万票も集めていて、その票によるところが大きい。「民進」と書いた人の多くが護憲・脱原発の民進マニフェストによるものだとしたら、小林氏は今後の議員活動においても、原発存続を主張することは本来、許されない。

電力総連に限らず、与党、野党の双方に息のかかった議員を送り込み、企業・組織の既得権を守ろうとするところはいくらでもある。今の民進はその温床として利用されている面も少なくない。

しかし、そんな民進候補なら市民グループの方から願い下げにすればいい。野党共闘の志援対象からさっとと手を引けば、民進は前回の17議席程度に逆戻りする。今回党勢表退に歯止めがかかり、反転攻勢には、市民グループの力が不可欠なのは、身に染みて知ったはずで、市民グループの要求を無下には断れない。「護憲・脱原発」を本当に目指す政党に再生させるには、荒療治は不可欠なのである。

電力総連に限らず、市民グループの主張と相いれない組織内候補の切り捨てを迫れば、民進はいくらかの票を減らすだろう。でも、小林氏は民進にいてこそ、電力会社労使にとって存在価値がある。自民に鞍替えを臭わせて揺さぶりをかけても、当選はおぼつかないだろうし、放置すればいいだけだ。

今回選挙の投票率は54.70% 前回に比べて2. 0 9ポイント上回ったものの、過去の参院選と比較すればまだまだ低い水準だ。無党派層には、議員ごとにバラバラで空中分解した政権時代に懲り、「せっかく票を入れても、どんな政策に実行されるか分からない」と民進に不信感がある。今部の選挙でも、与党の暴走を止めたいと思いながらも、実際に投票所に足を運ぶことをためらった人も多いはずだ。

もし、本当に「民進は一体」との信頼が今回の参説選であったなら、こんな人たちを投票所に足を運ばせることが出来たはず。投票率はあと2-3%上がったかも知れない。その場合、今回の選挙結果は大幅に変わった。暗ければ暗いほど、明けない夜はない。「3年後」を目指し、「平和憲法を守りたい」市民グループが、やるべきことを果敢に実行するのは、今なのだ。

(よしたけゆきのり・フリージャーナリスト・元朝日記者・秘密保護法違憲訴訟原告)

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