8/26駆け付け警護訓練開始 戦場救護は/装備 現実に対応できず/防衛省 遅い検討 想定甘く【東京新聞・特報】

駆け付け警護訓練開始 戦場救護は

 装備 現実に対応できず

  防衛省 遅い検討 想定甘く

2016年8月26日【東京新聞・こちら特報部】

 

「駆け付け警護」を新たな任務とし、十一月に南スーダンに派遣される陸上自衛隊の訓練が二十五日、始まった。新任務により、実際に戦闘に携わる可能性が高まったが、それは隊員の死傷に直結する。防衛省では昨年来、第一線救護に関する有識者の検討会を開いているが、出遅れは明白。陸自の元教官も不十分性を指摘する。救護も国民の理解も十分でないまま、隊員らは戦場に送られつつある。 (沢田千秋、橋本誠)

 

元陸自教官「高い確率で隊員死ぬ」

両手両足を失い、義足と義手を着けた米兵の写真。砲弾や爆弾を道路脇などに仕掛け、携帯電話などで起爆させるIED(即製爆破装置)の負傷者だ。

「この人は車両で移動中、IEDにより手足が吹き飛び、防弾チョッキの陰になった部分のみ残った」

二十一日、東京都千代田区内で開かれた一般社団法人TACMEDA(アジア事態対処医療)協議会の救命講習会で、陸自富士学校の元教官だった照井資規理事長(四三)はそう解説した。「二十五メートル四方に五千から一万個の破片が降る。イラクでもアフガニスタンでも、武装勢力が多用した。これが現代の戦争だ」

駆け付け警護を含む安保関連法の運用が始まり、自衛隊の部隊も戦場が現実になる。だが、照井氏はそこでの戦闘外傷への対応は立ち遅れていると話す。

例えば、直径六ミリ弱のライフル弾が貫通した場合、最大で十八センチの範囲が吹き飛ばされる。照井氏は大腿部に大穴が開いた模型に陸自の支給品と同型の止血帯を掛けけて、こう語った。

「二分以内に止血しないと死亡する。いちいち服を切って、どこから出血しているか調べる暇はない」

だが、止血帯による激痛には約二十分しか耐えられないため、すぐに包帯での止血が必要になる。現在、陸自で支給されている一本ではふさぎきれない。「これで止血になると思いますか。足りるわりがない」

止血帯を緩めて出血しなければ脚を残せるが、出血した場合は別の止血帯で傷口の近くを縛り、後で切断することになる。「手で触って骨が残っているところを探す。ほんの少しでも長く残すことで義足が付き、その後の人生が変わる」

米軍では、平時でも止血帯二本を含む十二品目を支給。戦闘時は胸を撃たれた際に使う針なども加え、二十品目を携行する。予算が乏しい国でも戦闘外傷の対応教育にカを入れ、兵士の命を守ろうとしている。

これに対し、陸自は国内では止血帯一本、包帯一本など三品目。照井氏は「たった一カ所の貫通銃創にも対応できない」と憤る。

南スーダンへの派遣部隊には、はさみや手袋などを加えた八品目が支給されているが、「派遣前は訓練することが多く、丁寧に教えている暇はない。使い方に習熟しないまま、行っているのでは」と危ぶむ。

IEDの脅威で、各国は対策に追われている。手足を失った場合、米軍などは止血帯を掛けた後、車両に積んでいる胴体用の包帯で切断面を覆う。IEDの爆発で兵士の手足に着けた救急品が失われたことで、近年は防弾チョッキの内側などに装着する国が多い。

だが、南スーダンへの派遣部隊の個人用装備品について、統合幕僚監部の報道官は「太ももに着けている隊員が多い」と説明した。

現場の外科措置 法は未整備

  「責任のしわ寄せ自衛官ヘ」

    昨年から有識者会議

防衛省も、前線で自衛官が死傷するというリアリズムを意識はしている。

同省は安保関連法の法制化と並行して、昨年四月から、医師や救命救急の専門家ら九人を集め「防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会」を開き、今年六月までに計六回の議論を重ねている。次回に報告書がとりまとめられる見込みだ。

検討会は駆け付け警護を想定してのものなのか。防衛省報道室は「防衛大綱および中期防衛力整備計画に沿い、事態対処時の第一線救護能力の向上を図るために、専門的観点の意見聴取を目的に開催した。駆け付け警護を前提としたものではない」と否定する。

しかし、元陵自レンジャー隊員の井筒高雄氏は「検討会は他国軍の救命措置を研究したいための予算立ての口実だが、当然、自衛隊の海外での有事を想定している」と指摘する。

検討会のテーマは、一人の戦死者も出さない「ゼロカジュアリティ」で、特に参考にしたのは米軍の戦傷救護の方法だ。米軍はベトナム戦争やイラク、アフガニスタン戦争を教訓に、衛生兵が戦場で、気道確保や輸液、針を刺して空気を抜く胸腔穿刺ができるようガイドラインを策定。戦死率の低減に成功した。

検討会も米軍に準じ、第一線の自衛官が外科的措置や鎮痛剤投与を「確実に行えるようにする必要がある」と提言している。

しかし、現行の医師法、医薬品医療機器法(旧薬事法)は、医師や薬剤師以外の外科的処置や薬剤師投与を認めていない。防衛省報道室は「検討会では、法制度の枠組みにとらわれず、多角的視点から検討してもらった。関連の法改正の要否は政府として検討すべきもので、現時点では言及を差し控える」としている。

とはいえ、南スーダンでの駆け付け警護は十一月の派遣部隊から実施される。救護のための法改正も訓練もできていない状態で、自衛官は前線に送られる。

井筒氏は「死者が出て、初めて政府は国民を納得させ、法改正に着手する算段ではないか。犠牲者を出して問題点を浮き彫りにするのは、米軍のやり方と同じ」と批判し、検討会の想定の甘さにも触れる。

「専守防衛下では、国内各地の病院への搬送システムは構築されている。しかし、今後の有事の舞台は海外。他国軍にある装甲車版の救急車もなければ、隊員が携行する救急キットも種類が少なく、議論そのものが現実味に乏しい」

医師の色平哲郎氏は次のように危ぶむ。「検討会が想定しているのは、戦後七十一年を経て、多くの日本人が経験していない未知の領域。戦地で『胸が・・・』と訴えられて、被弾などの鋭的損傷か心筋梗塞か、誰に判断できるのか。処置を取り間違えば、死に至る。現状のままでは、自衛官個々の戦友意識で判断、処置をさせ、責任は自衛官本人に取らせる態勢で戦地に送り出すことになる。しわ寄せは必ず現湯に向かう」

検討会で戦場を想定した十分な議論ができていない原因はどこにあるのか。

駆け付け警護を可能にした改正PKO法を含む安保関連法の審議で、政府は自衛隊派遣のPKO五原則の一つ「当事者間の停戦合意が成立していること」を強調。これが一因だが、現実とは整合していない。

前出の照井氏は南スーダンで今後、起きうる最悪の事態をこう予測した。

「IEDで車を吹き飛ばされた場合、生き残った隊員は車外に出ようとする。この際、敵の狙撃の標的となる。普通の軍隊なら助かる負傷でも、現状の備えでは止血もできず、高い確率で隊員が死亡する。一命を取り留めても、その後の生活に大きな支障を来す隊員たちが出かねない」

(((デスクメモ)))
アジア太平洋戦争での日本人の軍人、軍属らの死者は二百三十万人。多くが飢餓や栄養失調状態での病死だった。軍部エリートの無謀が彼らの命を奪い、その責任は「靖国の英霊」という美辞であいまいにされた。ずさんな救護態勢と靖国に心酔する防衛相。歴史は繰り返されるのか。(牧) 2016・8・26

写真
(上)模型を使い、胴体用の包帯で四肢切断の応急処置を説明する照井資規さん=東京都千代田区で
(下)砲弾を使ったIED(促成爆破装置)の模型(照井氏提供)
南スーダン・ジュパで、装甲車から付近を警戒する陸上自衛隊の隊員=今年3月(共同)

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