9/3山口県が埋め立て免許延長許可/上関 消えぬ原発計画/「3.11あっても止まらない」/反対住民と中国電の訴訟和解/34年 闘い続ける漁師/「命と共存できない」【東京新聞・特報】

祝島は山口県なので他人ごとではないんだ。

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山口県が埋め立て免許延長許可

 上関 消えぬ原発計画

  「3.11あっても止まらない」

 反対住民と中国電の訴訟和解

  34年 闘い続ける漁師

「命と共存できない」

2016年9月3日【東京新聞・こちら特報部】

国内には、東京電力福島第一原発の事故後、工事がストップした「新原発」がいくつかある。その一つ、中国電力上関原発(山口県上関町)を巡って先月、二つの動きがあった。建設に必要な海の埋め立て免許の延長許可と、中国電力と反対派住民の民事訴訟の和解成立だ。こうした動きを、推進派は「一歩、前進した」と捉えるが、上関原発工事が動きだすのか-。 (安藤恭子、池田悌一)

本州の柳井港から定期船で一時間余、祝島に着く。四キロ先の本州に、緑の中に白い土地が見えた。上関原発の建設予定地(約百六十万平方メートル)で、十四万平方メートルは海を埋め立てる。

港には「原発絶対反対」と記した看板を掲げる小屋があった。八十代の漁師は「昔の番屋。酒飲んでけんかして、何時間も話し合ったもんよ。高齢で、海上抗議はもう無理じゃ」と苦笑した。タコを運んでいた女性は「島民が体を張ってきたから原発ができていない今がある」。

エネルギーに頼らない生活を目指し、豚の餌にする野菜くずや生ごみをリヤカーで回収する氏本長一さん(六六)は、十年前に島にUターンした。「数十年の原発の補償金をあてにして百年、二百年先の島の未来を委ねるなんて考えられない。原発などなくてもやっていけると、自分の手で証明したい」と汗をぬぐった。

だが、状況は芳しくない。「3・11があって、もう原発なんて造れない、と信じた時期もあったが、不安は増す一方だ」と海上運送業の清水敏保さん(六一)はため息をついた。「上関原発を建てさせない祝島島民の会」会長を務める。

八月三日、山口県は中国電が申請した海の埋め立て免許の延長を許可した。埋め立て工事は福島の事故後に中断した。免許の期限はニO一二年十月だったが、許可によって一九年七月まで延長され、工事の再開が可能になった。

県は許可に当たり、「原発本体の着工見通しがつくまで工事をしない」ことを中国電に求めた。中国新聞の世論調査では、「どちらかといえば」を含めて建設反対が64%。工事は直ちに再開されないだろうが、清水さんは「今回の許可は、建設を後押しすることになる」と危ぶむ。

村岡嗣政知事は許可の理由に、資源エネルギー庁が「上関原発の重要電源開発地点指定は引き続き有効」と示した文書の存在を挙げた。政府がさらに前向きな姿勢を示せば、工事は急速に進むかもしれない。

「福島の事故前の計画に基づく免許はいったん廃し、あらためて判断すべきだった」(清水さん)

島の人口はOO年の七百人以上から四百十人に減った。高齢化率は74%。島民の八割は反対派だが、清水さんは「支え合って生きる烏の風土は今も誇りだが、電力会社が金をばらまき、友人や親族に至る人間関係を壊してきた。いつ工事が始まるか知れない。運動も三十四年がたつ。まるで生殺しだ」と憤る。

広島大の横山信二教授(行政法)は「八年前の埋め立て許可後に福島事故が起き、原発を取り巻く社会情勢は大きく変化した。公有水面埋立法が環境保全への配慮を義務付けているのに、県は原発事故が起きた場合の環境への影響を一切考慮していない」と指摘する。「延長で対応せず、いったん許可を取り消した上で、あらためて許可を出すか否か検討すべきだった」

先月はもう一つ動きがあった。損害賠償請求訴訟における中国電と反対派住民の和解成立だ。

埋め立て工事妨害で損害が出たとして、中国電が住民四人に約四千八百万円(約三千九百万円に減額)の賠償を求めた訴訟の和解成立は、八月三十日。中国電は請求を放棄し、住民側は工事再開の際に予定地への立ち入りや作業船の妨害行為などをしないことが条件だ。

清水さんは「スラップ(どう喝)訴訟」だったと振り返る。「提訴を取り下げると思っていたが、六年九カ月も続いた。コンクリートの投入工事が始まり、ワイヤでつり上げられた住民や羽交い締めされて負傷した人もいる。妨害ではなく正当な行為だった」

「負けられない訴訟」と争ってきたが、裁判費用や出廷の負担は重かった。「勝利的和解」と受け止めているが、問題の根幹は結局、県の姿勢だ。免許の延長を不許可にさえすれば工事は止まり、反対活動をする必要はない。

今後、活動は一定程度、制約されるが、和解条項には「中国電などの権利や利益を侵害しない限り、自己の表現行動に制約を受けない」という文言もある。だから、被告だった漁師の橋本久男さん(六四)は「命と原発は共存できない」と反対の意思表示を続ける。

行動は実体験に基づく。島民の多くはかつて出稼ぎ各地の原発で働いた。橋本さんは一九八一年、放射能漏れ事故を起こした日本原子力発電敦賀原発(福井県)で、炉心近くの配管を修繕していた。胸ポケットの線量計のアラーム音が鳴り響いた恐怖を忘れられない。精密検査では白血球の異常減少が確認された。

八二年、上関原発誘致が浮上し、いち早く反対した。ニOO九年に工事が始まると、連日、漁船に乗り、数十人で抗議を続けた。橋本さんは他の漁師たちと共に十億円余の漁業補償の受け取りも拒み続ける。

損害賠償制求訴訟にも屈しなかった。山口地裁に毎回、二百人超が集まるなど支援者がいて心強くもあった。「表向きは住民理解の必要性を言いながら、反対する住民を訴えるスラップ訴訟は、電力会社にもイメージが悪かったのだろう。世論も支えになった」

上関原発を巡ってはどう動くのか。

中国電の清水希茂社長は四月の就任直後に上関町を訪問し、地元記者の囲み取材に、「日本で唯一の新規立地点。原子力を活用する国のエネルギー計画の中で、大きな役面を担っている」と意欲を見せている。

九州大の吉岡斉教授(原子力政策)は県による免許延長許可について、「(原発関連の)交付金に目がくらみ、許可を出したのだろう」と批判した上で、こう推察する。「原発新設は中国電力の経営上のメリットなのか疑問だが、計画を中止すれば、国内で原発を新設できないという流れができてしまう。政府の思惑に反するため、形だけでも計画を残そうとしているのではないか。現実に建設されるとは思えない」

二十日から県臨調会が始まる。与党会派に対し、民進.連合の会の戸倉多香子議員は「安倍首相は『原発の新増設は想定していない』と明言しているのに、県の対応は矛盾する。議会で追及する」と反発する。ただ、しがらみが多いからか、野党議員の多くは「追及するかまだ決めていない」「延長許可への賛否は言えない」と言葉を濁す。

一方で、祝島には反対する新住民もいる。高橋伸明さん(四五)は二年前、家族で和歌山県から移住した。「自分のケツを自分で拭けないのが原発でしょ。島に住むことで、上関原発を終わりにするカになりたいと思った」と話した。

●上関原発計画の経過

2008年10月 二井関成知事(当時)が予定地の海面埋め立て許可
09年10月 中国電が埋め立て工事に着手
11月 反対派の抗議活動で埋め立て工事中断
12月 中国電が工事妨害による損害賠償を求めて反対派住民4人を提訴
11年2月 中国電が1年3カ月ぶりに埋め立て工事再開
3月 福島第一原発事故を受け、再び工事中断
6月 二井知事が埋め立て免許の延長を認めない方針を表明12年10月 中国電が免許の3年延長を県に申請。山本繁太郎知恵(当時)は「現時点では許可できない」と判断を先送りし、補足説明を求める
16年6月 中国電が埋め立て免許の延長について7回目の補足説明

(写真)祝島の堤防に立ち、上関原発建設予定地を指さす清水敏保さん=1日、山口県上関町祝島で
橋本鉄男さん
中国電力上関原発の建般予定地(手前)。奥は祝島

(((デスクメモ)))
上関原発の建設予定地は瀬戸内海を挟み、四国電力伊方原発(愛媛県)の北北西、約四十キロに位置する。構想が浮上してから三十年以上、親と一緒に高校生の時から建設に反対してきたという祝島の漁師(50)は取材に、こう吐露した。「島民が死んでいなくなるまで、延々と続くのか」(文)  2016・9・3

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