9/8「官」が台頭 ゆがむ市場 まるで「統制経済」の再来? 浜矩子・同志社大教授に聞く【東京新聞・特報】日銀・GPIF 大企業の大株主に/売られる恐怖…経営者萎縮/監視まひ…企業倫理低下も/アベノミクス 異次元緩和の果て

先週の東京新聞の特報で一番気になった記事。
よくわからないけど年金が貰えなくなるくらい株を買いまくっているとかそのあたりしか知らないけれど、浜先生が解きほぐしてくれる。

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「官」が台頭 ゆがむ市場

 日銀・GPIF 大企業の大株主に

  浜矩子・同志社大教授に聞く

 アベノミクス 異次元緩和の果て

まるで「統制経済」の再来?

 売られる恐怖…経営者萎縮

  監視まひ…企業倫理低下も

2016年9月8日【東京新聞・こちら特報部】

日本の金融市場で異常事態が起きている。日本銀行や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)といった「官」が、大企業の大株主になっているのだ。「異次元の金融緩和」など安倍政権の政策の結果だが、株主による経営監視機能を弱めかねないなど、懸念が広がっている。首相の祖父、岸信介元首相が戦前に導いた統制経済への一里塚にも映る。この状況について、同志社大の浜矩子教授(国際金融論)に聞いた。 (木村留美、池田悌一)

日銀は七月の金融政策決定会合で、金融商品「上場投資信託(ETF)」の購入額を、年三兆三千億円から六兆円に倍増させることを決めた。ETFは、証券取引所に上場されている複数企業の株式を組み合わせた投資信託。日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)などに連動する。

この決定を受け、米通信社ブルームバーグは日銀が八月初旬現在、日経平均株価を構成する二百二十五銘柄の76% (百七十一銘柄)で、上位十位以内の株主になっているという試算を発表した。さらに来年末には電通や住友不動産、オリンパスなど五十五銘柄で筆頭株主になると見通した。

この試算について、浜教授は「これほどの規模で、ETFを購入している中央銀行は世界中、日本を除いてほかにない」と語る。

「中央銀行の役割で最重要なのは自国通貨の価値を保全し、金融システムを安定させること。だが、現在の黒田東彦総裁率いる日銀は、マイナス金利や円安で通貨の価値を失わせるなど逆行している」と話す。

日銀がETFの買い入れを始めたのは二O一O年、白川方明前総裁の時代だった。ETFは値下がりの恐れがあり、損失は国民負担となるので、当初は買い入れ基金を特別に設け、自制していた。「当時はリーマン・ショック後の対応とデフレが進行する局面で、抵抗感を持ちながらも緊急対応として踏み切らざるを得なかった」と振り返る。

だが、その後黒田日銀はETFの買い入れを急増させる。背景にあるのはアベノミクスに基づき、一三年に始まった大規模金融緩和だ。国債を大量に買い上げ、市場にカネを流し、最気浮揚を目指したが、目立った効果もなく、規模だけが拡大。日銀の買い入れ額は国債市場全体の三分の一を超えた。手詰まり感が見える中で取られたのが、ETFの大量購入だった。

「かつて日銀は国債やETFの購入を最小限にとどめるため、自主規制を設けていた。ところが、安倍政権になって歯止めを取り払い、節操を失った」

日銀同様に、公的年金の積立金を運用するGPIFも、株式市場に資金を投入している。株価上昇の「切り札」と見られているが、昨年三月時点で国内株の二千三十七銘柄を保有し、時価総額は三十一兆四千六百億円に上っている。

ブルームバーグの試算によると、GPIFは三菱UFJ、三井住友、みずほの各フィナンシヤルグループで筆頭株主。トヨタ自動車では第二位の大株主になっているという。

株式市場に日銀やGPIFなど「官」が台頭している状況について、浜教授は「公的な政策機関が民間企業の大株主になれば、普通に機能する市場経済ではなくなってしまう。慎むべきだ」とくぎを刺した。

日常生活からはやや見えにくいが、日銀が民間企業の大株主になると、どのような影響があるのか。

「日銀が企業に直接言うことはないが」と前置きした上で、浜教授は「企業経営者に忖度主義が忍び込む危険がある」と言う。

忖度する相手は政府だ。「企業は大株主である日銀に株を売られることを恐れるようになる。その結果、政府の政策にばかり気を取られて、本来目配りすべき経営上の責任や事業展開の機会を冷静に考えることは二の次になる」という。

さらに日銀が「物言わぬ猛烈な安定株主」になることで、モラルハザード(倫理観の欠如)を招くことも危ぶむ。株主には経営を監視する役割がある。ところが、物言わぬ株主が大株主になれば、放漫経営に陥る可能性が出てくる。

国民への影響も懸念される。株を持つ国民はもちろん、浜教授は「株を持っていない国民にも、無関係ではない」と警告する。

「市場のゆがみが勤めている企業に波及し、倒産することだってあり得るのが経済の怖いところ。直接株を持っていないから関係ないと安心はできない」

「官」による株式市場への介入は自然な相場形成を妨げる。株討に限らずマイナス金利など人為的な操作が繰り返されると、日本経済はどうなるのか。

「マイナス金利導入の際に金庫が売れた。前例のない政策の連続で不安になった国民は、手元になるべくカネを隠そうとする。その結果、経済は地下化してしまう」と指摘する。

人びとが預貯金や消費など計測可能な経済活動からカネを隠せば「経済の回転速度は低下する。政府は現在、カネを市場に流そうとしているが、それと逆行する現象が起きる。それは国内総生産(GDP)を押し上げるどころか下げる力になるだろう」とみる。

日銀が買い集めている国債や株が実態の価値と離れすぎれば、外国人投資家らは資金を引き揚げても不思議でない。「最終的には、市場は本来の姿に戻ろうと金融恐慌を起こす。つまり円、国債、株価などは暴落する。だが、これはまだましなシナリオかもしれない。もっと怖いのは恐慌を封じ込めようと、政府が金融取引を規制することだ」

つまり、統制経済だ。日本では敗戦まで採られていた。自由な経済取引は制限され、食料品や日用品などの配給制が敷かれた。

浜教授は「当時と現在では株式市場の機能の仕方は違う」と留意点を挙げつつも、こう警鐘を鳴らす。

「日銀やGPIFのような公的機関が既に株主になっていて、統制経済はやりやすい。今後、主要な企業が国策会社になることだってないとはいえない。ふと気付けば『大日本帝国会社』ができてしまっていたなんて事態も、あながち冗談として片付けられない」

なんとも剣呑な事態が横たわっている。では、こうした「異常事態」からどう脱出すればいいのか。

浜教授は「日銀が唐突にETFの買い入れをやめるなどと発表すれば、(株価が大暴落するなど)巨大損失を生んでしまい、一段と窮地に陥ることになるだろう。政策を切り替えることを公表したうえで、緊急対応として売却する場合は、現在ある市場とは別の場所で、企業や金融機関と相対取引していくほかないのではないか」と、金融緩和からの足抜けを促す。

「日本の金融政策は、もはや金融政策とはいえない代物だ。(日銀が無条件に国債を引き受けて、カネを市中にばらまく) 『ヘリコプターマネー』も、政府の一部からは求める声が出始めている。このまま放置すれば、早晩、破局を迎えることになるだろう」

はまのりこ 1952年生まれ。一橋大卒業後、三菱総合研究所入社。ロンドン駐在員事務所長などを経て、2002年に同志社大大学院ビジネス研究科教授。国際経済学、国際金融論などが専門。著書に「さらばアホノミクス」「グローバル恐慌」など。

(上)巨額のETF購入により、大企業の大株主になっている日本銀行の本店

(下)日経平均採用銘柄の株価を示す証券会社のモニター=いずれも7日、東京都中央区で

(((デスクメモ)))
磯釣りが好きだ。磯は足場が悪い。だから夜は足元を照らして歩く。ただ、足元ばかり見ていると方向を見失う。アベノミクスは祖父譲りの統制経済の様相だが、官僚も政治家も数歩先だけを見ているようだ。それが怖い。気づけば、引き返せない場所に行き着いているかもしれない。(牧) 2016・9・8

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