9/13自主避難者置き去りの福島県 無償住宅継続 耳貸さず/「復興五輪」もくろむ国と思惑一致/2年限定の家賃補助のみ/知事は面会要求応じず/収束見えぬまま帰還促進【東京新聞・特報】

自主避難者置き去りの福島県

 無償住宅継続 耳貸さず

「復興五輪」もくろむ国と思惑一致

 2年限定の家賃補助のみ

 知事は面会要求応じず

   収束見えぬまま帰還促進

2016年9月13日【東京新聞・こちら特報部】

福島県は来年三月、福島原発事故に伴う自主避難者らへの住宅の無償提供を打ち切る。先月には家賃補助の対象緩和など県の支援策を発表したが、避難者らの懸念は深い。一方、原子力損害賠償・廃炉等支援機構は七月、廃炉計画で「石棺」に言及したが、同県などは猛反発した。溶け落ちた核燃料の県外処分を前提に帰還を促しているためだ。だが、処分の算段すら立っておらず、帰還だけが強いられつつある。(池田悌一、橋本誠)

自主避難者は国が指定した避難指示区域以外から避難した人びと。福島県の推計(昨年十月末現在)では約七千世帯、約一万八千人おり、このうち、約五千五百世帯、約一万四千人が県外に避難している。

これらの人びとへの東京電力からの補償は一時金だけで、最高額で十二万円(十八歳以下と妊婦は七十二万円)。指示区域内の住民への月額十万円の慰謝料は支払われていない。

福島県は昨年六月、「災害救助法上の応急期間は終わった」(県生活拠点課)として、自主避難者への住宅の無償提供を来年三月で打ち切る方針を発表した。そのうえで「放射線についての不安から避難を続けたい人たち」(同)に対しては、家賃の一部を補助する方針を打ち出した。

ただ、補助期間は二年限定で額は原則、一年目は家賃の二分の一(上限は月額三万円)、二年目は三分の一(同二万円)とした。この方針に避難者らは強く反発。山形県米沢市など少なくとも十七自治体も、支援延長を望む意見書などを採択した。このため、福島県は先月家補助の対象世帯となる条件を、収入が月額十五万八千円以下から二十一万四千円以下に緩和すると発表。対象世帯数は千二百から二千世帯に広がった。だが、基本方針は当初のままだ。

福島県の動きに伴い、約千四百人の自主避難者が暮らす東京都は、都営住宅に自主避難者の専用枠三百戸を設けた。ただ、今後は家賃を徴収される。現在、都営住宅に入居中の避難者も「公営住宅は抽選が原則」なため、抽選に臨まなくてはならない。ちなみに転居する場合の引っ越し費用は自己負担になる。その負担は小さくない。

こうした状況下、先月二十五日に開かれた福島、山形、新潟の三県知事会議では現在、約二千八百人の避難者を受け入れている山形県の吉村美栄子知事が自主避難者が住宅の無償提供を望んでいることを強調し、「住宅支援の充実について特段の配慮を」と福島県の内堀雅雄知事に求めた。

内堀知事は「今後もできる限り、避難者に寄り添いながら、対策を考えていく」と返答したが、無償提供に対する答えはなかった。山形県は独自に、借り上げ住宅からの転居者に県職員公舎約五十戸を無償提供する検討をしている。

自主避難者の支援団体からも、福島県の支援策になお「不十分」との声が上がっているが、県はさらなる見直しはしない方針だ。

県生活拠点課の担当者は「避難している人たちがいる一方、戻ってくる県民や避難していない県民もいる。バランスを考えて、一定程度の補助額とした。十月から補助金の受け付けを始めたい」としている

こうした福島県の動きに対し、同県郡山市から川崎市に次女(一七)と自主避難している松本徳子さん(五四)は「自宅はまだ放射線量が高く、娘は戻せない。県のやり方には納得いかない。私たちには避難の権利がある」と憤りを隠さない。

二人が住むワンルームのアパートの家賃は、月七万五千円。福島に残した夫との二重生活に加え、自身は病気で仕事を失っている。住宅の無償提供が補助に切り替われば、困窮するのは目に見えている。

「事故の責任は(補助が終わる)八年で済まない。事故さえなければ、自立して生活できていたのに」

山形県ヘ自主避難した人や支援者らは先月二十八日、「住宅支援の延長を求める会」を発足させた。内堀知事に直談判し、少なくとも一、二年の無償提供延長を求めるのが狙いだ。

井上肇会長らは内堀知事への面会を求めたが、県職員から「現時点で会うつもりはない」と言われたという。こうした対応は、他の団体にも続いている。

井上会長は「放射能への不安は依然として大きいのに、避難している県民の気持ちをくみ取っていない。今後もしつこく面会を求めていく」と話す。

東京の避難者や支援団体は七月十二日、新宿区に「避難の協同センター」を設立。自主避難者らの相談に乗っている。

世話人の満田夏花さんは「避難者は『県に見捨てられた』という思いが強く、経済的にも精神的にも追い詰められている。土壌汚染や甲状腺がんへの不安は大きく、避難先で家貸を払えるほど十分な収入がある人は少ない」と訴える。

県は帰還を促すが、事故に伴う損害賠償を求める団体などでつくる「原発事故被害者団体連絡会」共同代表の武藤類子さんは「避難指示区域以外にも、県内にはホットスポットがあちこちにある。事故の収束からは程遠い」と強調する。

政府は二O二O年東京五輪・パラリンピックを「復興五輪」と位置付ける。武藤さんは「政府は避難者がいないかのような状況をつくり、『原発事故は収束した』とアピールしたいのだろう。県は人口を減らしたくないという思惑で、国に寄り添っている。本当に寄り添うべき相手は、被災した県民なのに」と語った。

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収束見えぬまま帰還促進

福島原発事故の収束には溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の処理が不可欠。原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)は七月十三日、廃炉への戦略プランで、デブリを残したまま建屋ごとコンクリートで覆う石棺方式に触れたが、デブリ取り出しと県外処分という既定方針を、帰還の前提と考えてきた地元自治体から猛反発を受けた。

原賠機構は石棺方式について、長期の管理が難しいと指摘。現時点では燃料デブリを取り出す方針と強調しつつ、「今後明らかになる内部状況に応じて柔軟に見直しを図ることが適切」と選択の余地を残した。

それに対し、福島県や原発周辺自治体は「燃料デブリを取り出し、県外処分すべきだ」「安心して帰還できない」と猛反発した。

内堀知事は経済産業省で高木陽介経産副大臣と面談し、「石棺選択の余地を残したプランは到底容認できない」と抗議。高木氏は「国として石棺は一切考えていない」と釈明した。原賠機織はその後、プランから石棺の文書を削除した。

しかし、燃料デブリの取り出しは技術的に可能なのか。九州大の吉岡斉教授(原子力政策)は「現在の科学技術では夢物語にすぎない。建屋内はいまだ人が立ち入るのもままならず、燃料デブリがどこにあるかすら、正確には把握できていない」と解説する。

石棺方式を「無責任」と批判する県や自治体。しかし、裏付けのない「燃料デブリの取り出し」を前提に住民帰還を促す県などの姿勢も同時に問われている。

(((デスクメモ)))
事故収束のめどが立たない。にもかかわらず、「避難継続の支援は復興の足を引っ張る」といった風潮が強まっている。少し距離を置くと、それは「欲しがりません。勝つまでは」という忌まわしい献身の強要にも似て見える。福島原発事故は公害事件だ。本質を見失ってはならない。(牧) 2016・9・13

@自主避難者向けの住宅無償提供の延長を求めてデモをする原発事故の被災者者ら=昨年10月、福島市で
@先月、山形県で結成された自主避難者向けの「住宅支媛の延長を求める会」の発足式=同県米沢市で

先月開かれた福島、山形、新潟の三県知事会議。席上、山形県の吉村美栄子知事(右)は福島県の内堀雅雄知事(中)に住宅支援への配慮を促した=福島県郡山市で

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