9/30柏崎刈羽原発再稼働争点の新潟県知事選ルポ/「泉田路線継承」「安全確保優先」/実は、人口減が深刻…/経済振興望む有権者/柏崎刈羽原発には厳しい目【東京新聞・特報】

柏崎刈羽原発再稼働争点の新潟県知事選ルポ

 「泉田路線継承」「安全確保優先」

  実は、人口減が深刻… 経済振興望む有権者

   柏崎刈羽原発には厳しい目

2016年9月30日【東京新聞・こちら特報部】

新潟県知事選が二十九日に告示された。東京電力への厳しい姿勢を続けた泉田裕彦知事は突然、四選出馬を翻意した。その結果、原子力規制委員会の適合審査が終盤を迎えている柏崎刈羽原発の再稼働問題などを争点に、与野党が推薦する各候補が争う形となった。七月の参院選新潟選挙区では、野党統一候補が激戦を制した。しかし、知事選では民進党が自主投票を決めるなど、構図は異なっている。有権者の選択は-。 (池田悌一、木村留美)

 民進は自主投票

JR新潟駅前の目抜き通り。午前八時半、雨が降りしきる中、医師の米山隆一氏(四九)=共産、生活、社民推薦=が選挙カーの上に登り、声を振り絞った。

「福島原発事故からもう五年がたつが、いまだふるさとを奪われたままの人たちがいる。新潟で繰り返してはならない。事故の徹底的な検証なくして、再稼働の議論を進めることはできない」。一拍おいて語調を強める。「泉田路線の継承をはっきりと約束する」。簡単に再稼働に同意しないという宣言だった。

「争点は原発再稼働」。七月の参院選で野党統一候補として、約二千三百頭差で当選した森裕子氏も選対本部長としてマイクを握った。「泉田知事は体を張ってきたのに、原子力ムラの勢力に引きずり降ろされた」

演説を聞いていた鈴木知子さん(六八)らは「『再稼働は絶対にやめてほしい』というのが私たちの願い。泉田知事は県民の声を聞いてくれた。米山さんも継承すると言っているし、応援したい」と期待した。

約三十分後、雨脚がさらに強まる中、今度は前長岡市長の森民夫氏(六七)=自民、公明推薦=の陣営が現れた。自主投票を決めた民進党県議の姿もある。

森氏は木箱の上に立ち、全国市長会会長を務めた実績を強調した。「近県とも協力・連携しながら、経済活性化や医療や農業の問題に取り組みたい」

柏崎刈羽原発についてはこう言及した。「安全確保が最優先。国や東電にも私が言います」。自身は「規制委の判断が出てから判断」という姿勢だが、支援する自民党新潟県連は再稼働を求める決議をしている。当選後、反対に回ることは難しいだろう。

「勝つぞー」と皆と合わせて気勢を上げた女性(三五)は「やっぱり自民党ですよ。原発を争点にしようとしている向こうとは違うでしょ」と誇らしげだった。

先月の段階では、泉田氏と森氏が知事選出馬を表明していた。しかし、泉田氏は突然、地元紙・新潟日報の報道で、第三セクター事業を巡る問題を追及されたことを理由に、「このままでは選挙で原子力防災が争点にならない」と徹退を表明した。

「自民の地元議員の中で政策への不満から『泉田離れ』が進み、森さんを推す声と二分されていた」という指摘もあるが、ともかく、撤退に野党は慌てた。

民進は候補を探したが、断念して自主投票を決定。共産、社民、生活の三党が目を付けたのが、次期衆院選で新潟5区から民進公認の出馬が内定していた米山氏だった。知事選で支持基盤の連合が森氏支持に回っていることから、民進は反対したが、米山氏は告示六日前に離党して出馬を表明した。

森氏は長岡市長を十七年近く務め、首長として経験は豊富だ。米山氏は二00五、O九年、一二年の衆院選、一三年の参院選の四回とも落選したが、「森裕子さんが参院選で勝てたことが、知事選につながっている」と初の当選を目指す。

全国の知事の中で、原発再稼働に最も厳しい目を向けてきたのが泉田氏だった。柏崎刈羽原発は東京電力のものという点で、他地域よりも市民が厳しい目を向けていることも確かだ。

福島の事故直後、魚沼産のコシヒカリが風評被害に遭いそうになったことを覚えている男性(七0)は「やっぱり、原発は怖い」。一方で、地方の景気が浮揚しない中、経済対策も知事選では争点となる。

新潟市の中心市街地にある古町商店街は、シャッターが閉まった店が目立つ。帽子店の大関文雄さん(五九)は「代身、九十五年やってきたけど、ついに店を閉めました。ほら、ご覧の通りでしょ」と、お年寄りが何人か歩くだけの通りに目をやった。「いったん事故が起きれば、取り返しのつかないことになる」と再稼働には反対だが、暮らしがあってこそ。

新潟県の人口は現在、二百二十九万人で、泉田氏が就任したニOO四年と比べて十六万人減った。昨年の国勢調査速報値では、東北の宮城県に人口で抜かれ、地元では衝撃が走った。

「地場に産業がほとんどない。みんな大都市に流れていっちゃう。コメどころだからといって人が集まるわけではないので」と大関さん。昨春、北陸新幹線が開業しており、「古都・金沢のように上手なまちづくりができればいいんだろうけど、観光資源が豊富なわけでもないし」とため息をつく。

洋品店を営む山口喜康さん(七七)は「原発が動けば産業面ではいいんだろうけど事故は怖い。難しいよね。でも、とにかく人がいないことには始まらない。新しい知事にはまちを活性化させる施策をしてほしい」。

森氏の知事選出馬によって市長選が同日選となる長岡市の有権者はどうみるのか。来月九日告示で、投開票日は知事選と同じ同十六日。元市議の藤井盛光氏(三八)、元市議会議長の小熊正志氏(六六)、前副市長の磯田達伸氏(六四)の三人が出馬を表明している。

柏崎刈羽原発から三十キロ圏内にかかる地域があり、市内では再稼働への関心はやはり高い。藤井氏は「政府の責任で避難計画の実効性を高める必要がある」などと森氏よりも慎重な姿勢だ。小熊氏は「是非を問う住民投票をしたい」と言い、磯田氏も再稼働には否定的だ。

だが、「票目当てで原発への慎重姿勢を打ち出している候補がいるという印象を受ける」と、市民団体「原発からいのちとふるさとを守る県民の会」メンバーで長岡市の無職石川智一さん(七二)は話す。

小熊氏は以前、安全が担保されれば再稼働容認という姿勢だったという。当選後、姿勢を転換する可能性がなくもない。とはいえ、なぜ、一様に候補予定者が慎重姿勢をアピールするのかというと、市民の意識が変化してきたからでもある。福島の事故以降、「拒否反応を示す人が抱えた」と石川さんは話す。

原発のお膝元の人たちはどうか。柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表で柏崎市議の矢部忠夫氏も「以前は原子力政策を訴えても票にならないと議員らは真剣に取り組んでこなかったが、東日本大震災後は有権者の原発に対する思考が変わった」と話す。

それは、原発を巡る姿勢を泉田氏の姿勢を、評価する有権者が少なくないことからも明らかだ。それだけに、「今回の知事選では原発を争点にしない、福島を忘れさせようとする勢力は強い」と危ぶむ。

「本音は規制委の審査に適合すれば再稼働をしてもいいというのが本音という候補もいるだろう。有権者はよく見極めなければならない」

(((デスクメモ)))
首都圏に住んでいるから、投票権のない新潟県のことだから、知事選に関心はない。では、済まないだろう。問われているのは、首都圏に電気を供給する東京電力の柏崎刈羽原発の再稼働問題だ。福島もそうだった。危険な迷感施設を押しつけていることを、忘れるわけにはいかない。(文)  2016・9・30

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新潟知事選立候補者(届け出順)

三村 誉一(みむら よいち)70     元団体職員  無新
森 民夫(もり たみお)67        元長岡市長  無新=自公
米山 隆一(よねやま りゅういち)49 医師       無新=共生社
後藤 浩昌(ごとう ひろまさ)55    行政書士    無新

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(写真)
新潟県の東京電力柏崎刈羽原発6号機
新潟県知事選ポスターの掲示板。午後5時の時点で、2人分しか貼られていなかった=29日、新潟市役所前で
新潟県知事選の候補者の演説に耳を傾ける有権者=29日、新潟市のJR新潟駅前で

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