10/18<避難所を 転々とせし九十三 墓に避難す と書きのこし逝く>根岸敬矩さん【中日新聞・中日春秋】

【中日新聞・コラム・中日春秋】

2016年10月18日
http://www.chunichi.co.jp/article/column/syunju/CK2016101802000102.html

<避難所を転々とせし九十三墓に避難すと書きのこし逝く>は、精神科医・根岸敬矩(ゆきのり)さんの歌。東日本大震災についての五十五人の短歌を編んだ『変わらない空 泣きながら、笑いながら』に収められている

▼根岸さんにこの歌を詠ませたのは、一本の新聞記事だったという。原発事故で避難を強いられた福島県南相馬市の九十三歳の女性が、「私はお墓にひなんします」との遺書をのこし、命を絶った。そんな事実に胸を打たれたのだ

▼この女性は、代々受け継いだ田畑を守ってきたという。しかし、その田も汚染された。一家が営々と紡いできた一本の糸を、断ち切られるような苦悩だったろう

▼南相馬市によると、かつて五千ヘクタールだった市内のコメの作付面積は、事故で一挙にゼロになった。今年は千七百ヘクタールまで戻したが、八割は飼料米。田で汗を流し、その結晶の新米を味わう当たり前の営みは、まだまだ戻ってはいない

▼そういう痛みを顧みぬように、政府は原発の再稼働を進めてきた。だが、鹿児島に続き、新潟県知事選でも、異を唱える候補が当選した。原発立地県で示された重い民意だ

▼『変わらない空…』には、新潟の若いお母さんが詠んだ、こんな歌も収められている。<怖がってニュース消す子とふとん干すその時あなたを守れるだろうか>佐藤由佳。そう問い掛ける目に、政府は正面から向き合えるだろうか。

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