11/1核兵器廃絶 日本は「橋渡し役」なのに/「禁止条約」交渉開始には反対/主導アピールの一方 「廃絶決議案」は23年連続採択/条約交渉採択「保有国抜きでも大きな一歩」【東京新聞・特報】

核兵器廃絶 日本は

「橋渡し役」なのに

 「禁止条約」交渉開始には反対

主導アピールの一方

 「廃絶決議案」は23年連続採択

条約交渉採択「保有国抜きでも大きな一歩」

2016年11月1日【東京新聞・こちら特報部】

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国連総会第一委員会(軍縮)が決議を採択し、核兵器を国際的に「違法」とする条約をまとめる各国の交渉が、来年から始まる見通しとなった。決議に賛成したのは圧倒的多数の百二十三カ国。だが、日本は反対に回り、核廃絶を希求する人たちを失望させてしまった。日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役」になるのではなかったのか-。 (安藤恭子、木村留美)

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「核兵器禁止条約」。開発や実験、保有、使用などを全面的に禁止する。十月二十七日に採択された交渉を始める決議には、来年三月から「核兵器を禁止する法的拘束力がある文書の交渉に入る」というくだりが明記されている。

「核保有五大国」のうち英仏、ロシアは反対し、中国は棄権した。「核仰止論」を掲げる米国も反対し、北大西洋条約機構(N ATO)加盟国や日韓に、棄権ではなく反対するように求めたとされる。

日本は米国の「核の傘」の下にいるが、「唯一の戦争被爆国」でもある。核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任してきただけに、反対しないことを各国は期待したが、米国に追従した。岸田文雄外相は記者会見で、「核保有国と非核保有国の対立を一層助長 し、亀裂を深める」と反対の理由を説明した。

元外交官の美根慶樹・平和外交研究所代表は「保有国と非保有国の対立は当然だ。実効性のある条約の締結には困難が伴うだろうが、核廃絶に向けた議論が求められている。岸田外相の説明では、国民の理解は得られない」と述べた。

「生存のために米国の核抑止力を求める一方、恐ろしさを知る被爆国の立場という間で、日本は揺れ動いてきた。現政権は核抑止力を求める方に、大きく傾いているのではないか」

NATO加盟のオランダは棄権に回った。「中国や北朝鮮の脅威があり、事情は異なるが、日本も立場を表明しない棄権にすべきだった。明確に反対したため、日本の交渉の幅は狭まった」(美根氏)

第一委員会の議論を視察した長崎大核兵器廃絶研究センターの中村圭子准教授(核軍縮)は「米国のどう喝により、政府は被爆地に背を向けた」と指摘し、「橋渡し役の意味をはき違えている」と批判する。

「核保有国を核軍縮のテーブルにつかせるのが役割のはずだが、核保有国の代弁をして、前へ進もうとする国の足を引っ張っている。条約をまとめる交渉には必ず参加してほしい。核廃絶が必要という認識を百二十三もの国が共有した事実は大きい。条約ができれば、核保有国の居心地は悪くなる」

外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は「反対により、被爆国としての日本の姿勢は後退した印象を受ける」と語った。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)などが今年、核を禁止し廃絶する条約締結を求める国際署名を始め、十月に約五十六万人分の署名を国連に提出した。反対は被爆者の意思と逆行してもいる。

「決議案への反対が民意から離れているように見えるのは、外務省の判断であって、国民的な議論が尽くされていないからだ。国会でもっと賛否を議論するべき重要なテーマだ」

日本が毎年提案する「核兵鍛廃絶決議案」に昨年棄権した米国が今年は共同提案に加わり賛成した。日本の反対への見返りでは、という臆測も広がるが、手嶋氏は「これを免罪符としてはならない」と指摘する。

日米が共同提案して採択された「核兵器廃絶決議」とはどんな内容なのか。

核核散防止条約(NPT)の強化、包括的核実験禁止条約(CTBT)などを通じて、「『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取り組みを主導していく」という。禁止条約のように、国際法上「違法」と位置付けることまでは踏み込まず、核保有国も賛成しやすくなっている。

日本は今回と同趣旨の「核廃絶」の決意をうたう決議案を、一九九四年から二十三年連続して、国連の委員会に提案し続けている。初提案をした当時の首相は社会党の村山富市氏だった。「軍縮」路線を掲げる一方で、国連安保理の常任理事国入りを目指してもいた。

核保有国が発言力を持つ国連で、核廃絶に向けた決議採決は、当時、極めて異例だった。提案に難色を示した米国にも、唯一の被爆国として提案する「権利」があると訴えた。この九四年の決議は、冷戦が終わり「核戦争のない世界」を実現できる可能性を指摘し、NPT未締結国に早期加入をうながし、核廃絶を究極的な目標とする核軍縮に努力することなどが盛り込まれ、採択に反対する国はなかった。

日本は「核廃絶」を訴え続けてきたわけだが、今回の核禁止条約のための交渉開始の決議への反対は矛盾しないのか。

日本国際問題研究所軍縮.・不拡散促進センターの戸崎洋史主任研究員は「核廃絶という向かう目標は一緒でもアプローチが違う。禁止条約の交渉に核保有国は参加しないだろうから、日本政府が主張してきた核保有国が入る形での取り組みが担保されないと考えたのだろう」と話す。

米英仏中ロを核兵器保有国と定める七O年に発効したNPTは、その他の国による核兵器製造や取得を禁止、非保有国に国際原子力機関(IAEA)の査察を義務付ける。しかし、NPTに未参加のインドやパキスタンなどに核兵器は広がった。

八0年代に世界で七万個超あった核兵器はいま、一万五千個程度までに減っているが、最近は削減が進まなくなった。大半を保有する米ロなどは、廃棄しつつ新型のものに置き換えてもいる。

非保有国の多くがいら立ち、核の「非人道性」を前面に訴え、人の感覚的な面から廃絶につなげようと動き始めている。「こうした非人道性に訴える動きに、核保有国は神経質になっている」(戸崎氏)。昨年、米国が日本の核廃絶決議案に棄権したことなどは、その表れだという。

百二十三カ国が賛同した条約をまとめようという交渉に、核保有国がまったく参加せず、実効性を伴わない条約になる可能性は確かに高い。

それでも、関西学院大学の富田宏治教授(政治学)は「たとえ核保有国が条約に加わらなくても、核兵器が非合法ということを世界の多数意見として突きつけることになる。核廃絶に向けた新しい段階に入ることになる」と歓迎する。

「『抑止力』を核保有の大義名分としてきたが、テロリストとの戦いに有効なのか疑問を抱いている」と米国など核保有国の迷いを指摘し、理想に向かって進むべきだと語る。

「核廃絶が大きな目標だとしても目指さない限り減っていかない。日本が被爆国としての立場をかなぐり捨て、反対に回ったことは愚かで極めて遺憾ではあるが、世界が核廃絶に向けかじを切るうえで(条約制定交渉の採択は)大きな一歩になるだろう」

10月27日、ニューヨークの国漣本部で開かれた国連総会第1委員会=共同

2015年4月、ニューヨークで「核兵器廃絶」を訴えパレードする被爆者ら=共同

(((デスクメモ)))
核戦争などによる人類滅亡までの時を刻む「終末時計」ができたのは一九四七年。米科学誌が作り、スタートは「七分前」だった。米ソが水爆実験をした五三年に「二分前」に迫ったが、冷戦終結直後の九一年に「十七分前」に押し戻した。それが、いま「三分前」まで進んでいる。(文) 2016・11・1

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