11/15民主主義がトランプ選んだ/政策より「痛快さ」爆発/差別発言連発 米国の理想否定しても【東京新聞・特報】

差別発言連発 米国の理想否定しても

  民主主義がトランプ選んだ

   「進歩」に不満 白人の本音

  政策より「痛快さ」爆発

     不安に乗じ世界に広がる排外主義

2016年11月15日【東京新聞・こちら特報部】

 

米大統領選は、排外主義と差別をあからさまに口外したドナルド・トランプ氏が勝利した。今回、全体の七割を占める白人有権者の間で争われたのは「理屈と感情」「建前と本音」ではなかったのか。結果は多様性を重んじ、反ファシズムの旗手を自任してきた米国の理想主義が「劣情」に敗北した。劣情の「民主的」な台頭。こうした傾向は米国にとどまらない。日本にとっても対岸の火事ではない。(安藤恭子、佐藤大)

 

 

「(メキシコ移民は)麻薬や犯罪を持ち込む。彼らは強姦魔だ」「イスラム教徒をアメリカ入国禁止にすべきだ」「スターなら女に何でもできる」-。

これらはトランプ氏の語録の一部だ。そんな人物を誰が支持したのか。米紙「ニューヨーク・タイムズ」の出口調査を紹介する。人種別に見ると、白人の58%がトランプ氏に投票した。アフリカ系、ヒスパニック(中南米系)、アジア系はいずれもクリントン氏が圧倒したが、白人は人口の約七割。女性擦についても、クリントン氏は54%しか取り込めなかった。

学歴別では高卒以下はトランプ氏、大卒以上はクリントン氏が多かったが、大卒の白人に限れば、トランプ氏が49%、クリントン氏は45%。収入別では年収五万ドル(約五百四十万円)以上では、トランプ票がクリントン票を上回った。

グローバリズムの「負け組」と言われる白人労働者層の「怒り」がトランプ現象の中核になったことは間違いないとはいえ、調査からは白人では「富裕層」を含め、トランプ氏支持が多かったことになる。

米国の映画監督、マイケル・ムーア氏はトランプ氏の勝利を予測していた。ムーア氏は選挙前、「メキシコで製造してアメリカに入って来る自動車に35%の関税をかける」というトランプ発言が、鉄鋼業や製造業が廃れた「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の有権者に「甘美な音楽のように響いた」と指摘。加えて、多くの白人男性が「俺たちに指図してきた黒人の男に八年間耐えなきゃいけなかったのに、今度は女のもとで八年間を過ごすことになるのか? その後の八年間はゲイか(中略)そしてハムスターが国を統治するだろう」と心の底で思っていると説いた。

ニューヨーク在住のジャーナリスト、北丸雄二氏は今回の選挙を「本音(トランプ氏)と建前(クリントン氏)の戦い」とみる。

「黒人、女性、性的少数者の解放と進んできた米国社会だが、中西部や南西部の人びとには進み方が速すぎた。そんな『うっ屈』した階層は、格差社会の非民主的経済で一段と不満を募らせた。彼らはその不満を政治的な民主主裁のシステムによって爆発させた」

ただ、既得権益層である白人の「富裕層」でも、トランプ氏支持が勝ったのはなぜか。北丸氏は「経済の民主化を遠ざけ、富裕層がもっと安穏に暮らすための政治体制を望む者たちが『隠れトランプ』として存在していた」とみる。

「非民主的な経済から発した怒りが、トランプという非民主的な経済の体現者を求めてしまった。さらに怒りは差別と偏狭さに転じている。これは皮肉というよりも、悲劇だ」

選挙戦でトランプ氏が表明した政策には、効果が疑問なものもある。例えば、関税の引き上げだ。輸入品が値上がりすれば、低所得者ほど影響を受けやすく、部品などの調達コストの増加から、雇用状態が悪化する事態も考えられる。

政策より感情。高崎経済大の國分功一郎准教授(哲学)は「比較的リベラルな層も含め、トランプ氏に『変化』を求めた結果だ。格差を背景に政治家やメディアなど既得権層に対する憤りと『ざまあみろ』という痛快さがある」と語る。

トランプ氏は勝利宣言で「今は分断を修復して団結する時だ」と融和を呼び掛けるなど、過激な発言を封印しているが、差別的、排外主義的な言動への共感は国内外に広がっている。

選挙期間中には、憎悪犯罪(へイトクライム)も相次いだ。米誌「ネーション」によると、ボストンに住む兄弟がホームレスの男性の顔に尿をかげ、金属棒で殴る事件が発生。警察の調べに対し「トランプは正しかった」「全ての不法移民は国外追放されるべきだ」と供述したという。

米CNNテレビによると、アメリカ南部を拠点に黒人や黒人を援護する白人への暴力を繰り広げた白人至上主毅の秘密結社「クークラックス・クラン(KKK)」は来月、ノースカロライナ州で当選を祝うパレードを企画。来春に大統領選があるフランスでも「反移民」を掲げる極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首がすぐさまトランプ氏に祝福を表明した。

仏国民戦線のみならず、デンマークやスウェーデンなどの機会でも移民排斥を訴える極右政党が台頭。ドイツでも極右政党が伸びており、来秋の総選挙で難民を受け入れたメルケル首相の苦戦が予想される。

日本も無関係ではない。沖縄県の米軍北部訓練場のエ事反対派に大阪府警の機動隊員が「土人」と発言した問題で、鶴保庸介沖縄北方担当相は八日の参院内閣委員会で「差別だと断じることは到底できない」と発言。金田勝年法相は差別用語に当たるとの認識を示しており、閣内の不一致は明白だが、安倍政権は高い支持率を維持している。

「国民の支持という『下からのノリ』で、人権の尊重や反差別といった大切な価値観が失われていく。米国と日本の状況はよく似ている」(國分准教授)

こうした状況に、どうあらがえるのか。國分准教授は「トランプ旋風の一方、民主党のバーニー・サンダース上院議員のように、反差別や格差是正を訴える候補が支持を集めたことは希望だ。排外主義に対し、国際的な圧力をかけ続けることも大切だ」と訴える。

思想家の内田樹氏は、民主的な選挙でトランプ氏が勝利したことについて「民主主義とはこういうもの。感情的なレベルでの投票が多いのだから仕方がない」と話す。だが、米国の制度は独裁を許さぬよう設計されているとし、「米国の国民はそのことに感謝するだろう」と推測する。「民主主義はあてにはならない。だが、他に選択肢はない。悲惨なことにならないよう、日ごろから知恵を絞っていかなければならない」

上智大の中野晃一教授(政治学)は「グローバル経済の中で、貧困や格差の広がりを不安に思う人々の感情は、排外主義やへイトクライムと結び付きやすい。社会が分断された結果、秩序を壊すとあおる独裁者が求心力を増すという事態はどこの国でも起こり得る」として、こう警告する。

「誰が当選しようと、人権や自由といった人類が築いてきた規範を侵すことは認められない。日本も対岸の火事ではない。自分にもいつか差別の刃が向けられることを想像しなくては」

(((デスクメモ)))
すでにメディアの関心は、次期トランプ政権の政策や対日関係に移っている。だが、それはさまつなことに思える。倫理より、うっつぷんばらし。そんな米国民の劣情の奔流こそ、凝視されるべきだ。建前レベルですら、善を優先しない政治。米大統領選が映した闇の深さに立ちすくむ。(牧)  2016・11・15

今月9日、米大統領選で当選が決まり勝利宣言するトランプ氏=ニューヨークで(AP・共同)

(上)8日深夜、二三一ヨーク・マンハッタンで、トランプ氏の。集会会場近くに集まった支持者ら(時事)
(下)10日、米ペンシルベニア州フィラデルフィアの車道で、大統領選に勝利したトランプ氏に抗議する人(フィラデルフィア・インクワイアラー提供、AP・共同)

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