11/18福島原発処理 東電追加支援に「新理論」/過去の消費者にも請求!?/事業者は延命・・・ 国民負担増どこまで【東京新聞・特報】

福島原発処理 東電追加支援に「新理論」

   過去の消費者にも請求!?

    経産省「安い電気使ったので」

 事業者は延命・・・ 国民負担増どこまで

   膨らむ費用 政府補償増額論も

2016年11月18日【東京新聞・こちら特報部】

福島第一原発事故の処理で、東京電力が政府に追加支援を求めているが、資金をどう捻出するか。経済産業省の有識者会議では、過去に原発の「安価」な電気を使った消費者に負担を求めることが「理論上、適当」だという意見が出た。しかし、「安価」とうたっておいて、何十年もたって追加料金を支払わせることが正当なのか。一方で、原発の過酷事故が新たに起きた場合、政府が補償する額を引き上げる検討が進む。このままでは国民の負担はさらに膨らんでしまう。 (沢田千秋、池田悌一)

今秋設置された経産省の有識者会議「電力システム改革貫徹のための政策小委員会(貫徹小委)」は、福島事故の損害賠償費用や全国の原発の廃炉費用について議論している。具体的には、風力発電など再生可能エネルギーの事業者(新電力)にも、送配電網の使用料(託送料金)に上乗せすることで負担させることが検討されている。

経産省の主張はこうだ。「(賠償や廃炉の)費用は福島第一原発事故以前から確保されておくべきであったが、制度上こうした質問を確保する措置は講じられておらず、当然ながら料金原価に算入する事もできなかった」「理論上は、過去においてこれらの費用が含まれないより安価な電気利用した需要家に対し、遡って負担を求めることが適当と考えられる」

つまり、ほとんどの国民が過去に安価な原発の電気を使っていたのだから、今後、託送料の上乗せ分を支払い、原発関連貸用を負担すべきだという趣旨だ。だが、この「理論上、適当」というのはおかしい。一般社会では、貸付金の債権すら十年で時効を迎える。数十年も過去分を遡る「理論」は正当なのか。

十一日の貫徹小委の会合では、出席者から続々と疑問の声が上がった。SMBC日興証券マネージングディレクターの圓尾 雅則(まるお まさのり)氏は「(現在、電力各社が原発事故のために拠出する一般負担金の)千六百三十億円がどうやって計算されているかよく分からないし、誰がどのくらい負担すべきものだったのかも明確に分からない」として、経産省に具体案の提示を要求した。

東亜石油の玉井裕人社長は「言いにくいが、福島の事故を起こしてしまった原発の廃炉費用を託送費に乗せて回収していく議論に違和感がある。本来、電源が起こした事故なのだから電源サイドでなんとかしていくというふうにしていかないと」と強調した。

バイオマス発電事業者「イーレックス」の本名(ほんな)均社長は、電力会社が賠償や廃炉賞用を積み立ててこなかった点について「それは原子力を推進してきた大きな理由だったんじゃないか。安いから」と指摘した。「原子力は有形無形に利益を享受し、ここへ来てみんな一緒に払ってくれというのはいささかどうかなと。(大手電力会社と新電力とは)若干、享受してる度合いが違うので、ここは格差があって当然だと考える」と、両者の負担額に差異を設けるように主張した。

原子力事業では、過去に遡って資金の拠出を求めた例がある。二00五年から始まった使用済み核燃料再処理の積立制度だ。

当時の有識者会議で、新電力の幹部が「一年前に食事をしたレストランから急に『食事代に調味料のコストが入っていなかった。追加支払いを』と言われても受け入れられない」と反発したが、世代間の公平性などを理由に押し切られ、新電力を含めて託送料で回収する仕組みがつくられた。

そもそも過去に遡っての電気料金の追加徴収は「原発の電気は安価ではない」と認めることを意味する。そんな自己矛盾の「理論」を持ち出さなければならないほど、原発事故の処理は厳しい状況に追い詰められているともいえるだろう。

そんな状況なのに、運転から四十年になる老朽原発の運転延長を目指す動きが絶えない。新たに過酷事故を起こしたら、誰がどう負担するのか。

内閣府原子力委員会は昨年五月、有識者らによる原子力損害賠償制度専門部会を設け、賠償制度について検討を続けている。十六日の第十五回会合では、原子力事業者の「無限責任」制を維持する一方で、最大で千二百億円しかない政府補償の増額をする方向性が示された。

内閣府原子力政策担当室の担当者は「『(事業者の)賠償資力は十分でない』という意見があり、増額の議論になるだろう。こちらも検討していかなければならない」と説明する。

政府補償制度は、一九六一年に制定された原子力損害賠償法に基づく。出力一万キロワット超の原発ごとに、事業者が年に拠出する補償料は二億四千万円。天災による事故の際、政府から千二百億円を上限に補償を受けられる。制度開始時の上限は五十億円だったが、どんどん引き上げられ、千二百億円にまで増額された。

この額でも、過酷事故では焼け石に水だ。福島の事故の被害額は見込みの十一兆円を超えたが、総額を見通せない。事業者の手に負えないからこそ、政府補償の増額が必要となる。

政府補償だけではない。原子力損害賠償法は「政府が必要と認めるときは、事業者の損害賠償を援助する」と定めており、福島の事故後、東電支援のために原子力損害賠償・廃炉等支援機構が設立された。

仕組みはこうだ。いつでも現金に換えられる九兆円分の国債を渡された機構が、東電が必要とする分の資金を供与し、賠償や除染を進める。

そして返済は、東電だけではなく、原発を保有する事業者が拠出した一般負担金も充てる。この負担金は電気料金に上乗せされている。原発事故処理費用は、政府補償と沖縄を除いた地域の電気料金が原資となるから、基本的に国民の負担となる。

他の原発で新たに過酷事故が起きたら、事故処理費用はこの仕組みを使って捻出される。つまり、さらなる重い負担が国民にのしかかるわけだ。

この仕組みでは、事故を起こしても事業者は倒産しない。国民の負担で、存続を約束された経営者のモラルハザード(倫理観の欠知)も招きかねない。

原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「どのような業種でも、事故を起こせば事業者の負担が原則なのに、どんどん離れていく。今度、原発事故が起きれば日本経済は立ち直れないほどのダメージを受けるだろう」と説く。

東電の歴代経営陣に約九兆円の損害賠償を求める株主代表訴訟の原告側代理人、河合弘之弁護士は「会社は倒産せず、自身も路頭に迷うことはないと、高をくくっているとしたら許されない。株主代表訴訟には、経営陣はこれだげ巨額の賠償を求められるほど責任を負っているという警告も込めている」と強調する。

「政府は「原発の発電コストは安価』と言い続けてきた。国民に負担を求めるのなら、『安いというのは間違いだった』と認めるのが先だろう。反省もなく負担だり強いるようなことは、あってはならない」

(デスクメモ)
「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」とは別に、経産省には「東京電力改革・1F問題委員会」という有識者会議もある。この名称、違和感がある。確かに、福島第一原発は「1F」だが、長い名称を好んで使うお役所らしくない。福島を表に出したくない気持ちの表れか。(文)2016・11・18

電力システム改革貫徹のための政策小委員会の会合=11日、経産省で

(上)関西電力美浜原発3号機のタービン=10月24日、福井県美浜町で

(下)北海道電力泊原発の総合防災訓練で、「負傷者」を搬送する救急隊員ら=13日、泊村で

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