12/8日米開戦「日本必敗」予測生かされず 「立場主義」今や社会にまん延/若手の「総力戦研究所」で結論/決断せず無責任に突き進む【東京新聞・特報】「昭和16年夏の敗戦」(中公文庫)

日米開戦「失敗」何を学んだか

「日本必敗」予測 生かされず

 若手の「総力戦研究所」で結論

「昭和16年夏の敗戦」  政治の場で度々引用

2016年12月8日【東京新聞・こちら特報部】

真珠湾攻撃による日米開戦から八日で七十五年になる。安倍晋三首相は現役首相として初めて、今月下旬に真珠湾を訪問する。先の大戦に対する見解について「七十年談話で尽くされている」(菅義偉官房長官)とするが、あらためてその歴史認識が世界に注視されることになる。無謀な戦争に突き進んだ「失敗」の本質とは何か。日本は歴史に学べているのだろうか。 (沢田千秋、木村留美)

昨年二月の衆院予算委員会で、日米開戦の是非をめぐる安倍首相の歴史認識が議論となる場面があった。

細野濠志議員(当時の民主)が首相の見解をただしたときに引用したのは、一冊の本。

元都知事の猪瀬直樹氏が一九八三年に世に問うた「昭和16年夏の敗戦」だ。

よくよく政治家の心を揺さぶるらしく、野党時代の石破茂前地方創生相も、同衝を引き合いに民主党政権の認織をただしている。

同書に書かれているのは、四一年四月に政府がつくった内閣総力戦研究所。三十一~三十七歳までの官僚や軍人、企業人から通信社記者ら優秀な人材が集められ、開戦五カ月前に模擬内閣をつくり、日米開戦のシミュレーションを実施。

その結果「日本必敗」の結論をはじき出した。

研究生らはそれぞれが元の勤務先からデータを集め、米英と比較した日本の自給力の低さを立証。英米の禁輸に直面した場合、南方から資源が確保できたとしても資源を運ぶ船舶が撃沈されると予測。「大和魂がある」とする教官役の軍人らの見解も排除し、「奇襲作戦を敢行し、緒戦の勝利は見込まれるが、物量において劣勢な日本の勝機はない。終局ソ連参戦を迎え、日本は敗れる。日米開戦は何としてでも避けねばならない」と結論付けた。

同書によると、この報告を東条英機陸大臣(当時)は「戦は計画通りにいかない。意外裡-り-なことが勝利につながる。君たちの考えは机上の空論と言わないとしても、意外裡の要素を考慮していない」と退けた。

だが、現実は「敗戦シミュレーション」通りに進んだ。同年八月、米国は石油の対日禁輸を実行、日本に中国からの撤兵を要求した。十月、東条内閣が成立。「大本営・政府連絡会議」は連日開かれたが、陸軍、海軍とも実際の石油備蓄量は秘匿した。結局、連絡会議は「南方油田を占領すれば石油は残る」という楽観的なデータをよりどころに開戦を決定した。石油データを報告し、結果的に開戦を決定づけた元官僚は、猪瀬氏の取材に「(開戦を)やるためにつじつまを合わせるようになっていた」と明かした。心中では開戦に反対だったという元官僚は「やる」という空気に同調した当時の行動を詳細に記憶していたという。

猪瀬氏は「研究所は民間人も入れて議論したが、実際の連絡会議は縦割りの弊害があり、誰も決断せず、誰も責任を取ろうとせず、ダラダラと議論した結果、米国の通告で時間切れとなった。不決断と無責任が開戦を招いた」と解説する。

昨年二月の国会議論に戻ろう。「わが国の国策の誤りがあったと認めるべきだ」と詰め寄る細野氏に、安倍首相は「私もこの総力戦の研究会の書についても読んだことがある」と前置き。「政治の指導者、戦争の指導者も大きな責任があるのは当然のこと」としながら「どうその歴史を見ていくかは、私は歴史家に任せたい」とはぐらかした。

 

「立場主義」今や社会まん延

 決断せず無責任に突き進む

 「原発事故が最たるもの」・南スーダン陸自派遣

  真珠湾訪問時 首相演説世界が注視

 

歴史認識が問われるのは首相だけではない。日本は日米開戦の「失敗」から何を学んだのか。

日本近代史に詳しい東京大学の安富歩教授は「軍人は、個人の信念や合理的な判断より『立場』を守るため、まともな作戦も立てず強大な米国に戦争を仕掛り、最後には『全員玉砕』など常軌を逸した振る舞いを国民に求めた」とし、無謀な戦争に突き進んだ病巣は「立場主議」にあると指摘する。

立場で物を言う考え方は「戦争が始まったころ軍幹部や官僚の幹部だけだったが、今は社会の隅々にまで広がっている。悪い意味で国民の大半が『学んだ』と言えるだろう」と皮肉る。

「立場主緩」による無責任体質はむしろ現代社会にこそまん延しているという。「日本政府は財政を傾けてまで立場主義を支えてきたが、その最後の試みであるアベノミクスを国民が支持する」。無責任さは枚挙にいとまがないが、安富氏は「福島第一原発事故を引き起こしながら、全く反省しない原子力ムラこそ無責任体質の最たるもの」と断じた。

政治評論家の森田実氏は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣が「世界情勢を甘く見て、異論を唱える声に耳を傾けず、何とかなると楽観的に突き進んだ日米開戦に重なる」と危ぶむ。「いろいろな意見に耳を傾ける謙虚さに欠け、日本にしか通用しない理屈、独善的な考え方から、歴史を学んでいるとは思えない。それもこれも『あの戦争の何が悪かったのか』ぐらいの認識しかないからではないか」と手厳しい。

安倍首相は最近、自らの歴史認識について披歴しなくなっているが、海外では「歴史修正主義」との疑念も根強い。現役で初めて真珠湾を訪れる安倍首相は、世界に向けて何を発信すべきか。

琉球大の我部政明教授(国際政治学)は、五月に広島を訪れたオバマ大統領の演説にならう形になるとしながらも「オバマ大統領は核なき世界という志を示した。安倍首相はそういう志ではなく、日本は米国とどう付き合うかということに主眼を置いたものになるのではないか」とみる。

それでは、日本の視野の狭さが世界に発信されかねない。「首相の真珠湾訪問までに七十五年を要し、初めて訪問する意義や事情を説明すべきだろう。そのうえで現在のテロに通じる『奇襲』の人道上の問題や非道な行いをどう考え、どうすべきかという責任まで話すことができれば、また違うかもしれない」

安倍首相は昨年四月、現役首相として初めて米国議会上下両院合同会議で演説。真珠湾攻撃の追悼碑に「歴史とは実に取り返しのつかない激烈なものだ。深い悔悟を胸に、黙とうをささげた」と述べ、一定の評価を受けた。

前出の猪瀬氏も真珠湾を訪問する首相に対し「国内向けではなく、世界に発信するメッセージを」と求めた。

(デスクメモ)

「昭和16年夏の敗戦」を無性に続み直したくなったのは、安倍政権が原発ゼロ政策を転換したころだったか。なぜ失敗に学ばないのか、とあぜんとしたからだ。レベル7事故を回避できなかった今、戦前の無為無策を笑えない。私たちに試されているのも、引き返す勇気だ。(洋)
2016・12・8

米ハワイの真珠湾と旧日本軍による攻撃を説明するプレート=共同

「戦前も今も官僚主権は変わらない」と話す猪瀬直樹氏=7日、東京都港区で

2015年4月、日本の首相として初めて米議会の上下両院合同会議で演説する安倍首相=ワシントンで(共同)

11月、PKO施設内で防護壁の設置作業をする陸上自衛隊員=南スーダン・ジュバで(共同)

============

昭和16年夏の敗戦
(中公文庫) 文庫 – 2010/6/25
https://www.amazon.co.jp/dp/4122053307?_encoding=UTF8&isInIframe=0&n=465392&ref_=dp_proddesc_0&s=books&showDetailProductDesc=1#product-description_feature_div
猪瀬 直樹 (著)
¥ 700

緒戦、奇襲攻撃で勝利するが、国力の差から劣勢となり敗戦に至る…。 日米開戦直前の夏、総力戦研究所の若手エリートたちがシミュレーションを重ねて出した戦争の経過は、実際とほぼ同じだった!知られざる実話をもとに日本が“無謀な戦争”に突入したプロセスを描き、意思決定のあるべき姿を示す。

広告
カテゴリー: 戦争法案, 中日東京新聞・特報 パーマリンク