12/27ヘリパッド工事ずさん 土木技術者が告発 式典最優先で突貫工事 地元の労基署 「法に基づき対応」/ゆがんだ日米関係を象徴【東京新聞・特報】

ヘリパッド工事ずさん

 土木技術者が告発

式典最優先で突貫工事

 地元の労基署 「法に基づき対応」

ゆがんだ日米関係を象徴

2016年12月27日【東京新聞・こちら特報部】

沖縄県の米軍北部訓練場(同県国頭村、東村)の一部を返還する式典が二十二日にあった。ヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設が返還条件で、式典に間に合わせるべく突貫工事が続いた。現地で抗議活動に加わる地元の土木技術者によると、工事の実態はずさんの一言。安全対策などもおざなりだったという。国内法の順守より、米軍のニーズを重視。日本政府の一貫した姿勢がここにも表れていた。 (沢田千秋)

 

ヘリパッドへつながる道路で降雨によって崩落したのり面=沖縄県東村で
鉄格子や鉄条網で厳重に立ち入りが禁じられたヘリパッド工事現場の前に立つ土木技術者の男性

当初の工事計画が変更され、大規模に森林が伐採されていた工事用道路
米軍歩行訓練ルートで伐採されずに残されていた切り株

 

「国の工事は県や市と比べ非常に高い管理能力と精度を求められる。にもかかわらず、ここの工事のずさんさは目に余った」

米軍北部訓練場のヘリパッド建設現場で、土木技術者の男性宝(五一)は話す。男性は約三十年間、東京や沖縄の土木建築会社で働き、防衛庁(当時)などの発注工事の現場責任者を務めてきた。昨年五月から基地の反対運動に参加している。

防衛省から情報公開請求で図面を入手し、現場と照らし合わせ、数々の法令違反や不備を発見した。「すべては工期を急がせたことに起因する。入手不足で、到底間に合わない期日に向け、手抜き工事で工期短縮を図ったのだろう」

実際、高江での工事は工期が短縮された。二OO七年の着工時には、全四地区の工事は一地区ずつ実施することになっていた。しかし、今年七月の工事再開後は、複数の地区の工事が同時並行で進められた。

返還式典に間に合わせるためだったとみられる。米オバマ政権が来月、任期満了を迎えるため「退任する駐日大使への手土産」といった観測も流れている。

どんな不備があるのか。男性がまず指摘するのは、県赤土等流出防止条例違反に当たる事例だ。県道70号からニカ所のヘリパッドが建設された「N-1l」地区に至る道路で、赤土の流出を防ぐため、貯水池を設ける必要があった。

だが、沖縄防衛局は「施工幅が小さく、施工延長が長いため地形上、貯水池を数カ所設けるには不合理」との理由で設置せず、特例措置としてブルーシートで覆うにとどめた。

男性は「沖縄の土壌は赤土が多い。乱開発で赤土が海に流出しサンゴが死滅する現象が起きたため、県は一九九四年、この条例を作った」と話す。貯水池に赤土混じりの雨水をため、薬剤で土を沈降させ、浄化した雨水を流す仕組みだ。「公共工事が手抜きをし、環境を破壊している」

さらに、この道路ののり面は約八O度のきつい傾斜地だが、ガードレールなどの防護柵がない。男性は「当初は仮設道路の予定だったが、米軍が恒久的に使うことが決まった。危険防止のための柵がないのは労働安全衛生規則の一五一条に違反する」と説明する。

へリパッドの一つにつながる「G地区」へ至る道路ののり面には芝生が敷かれていた。「仮の盛り土をしたのだろう。だが、少しの雨で崩落している」

同じく「H地区」に至る工事用道路は自然への影響を最小限にとどめるため、工事用モノレールを敷設する予定だったが、今秋、防衛局が道路敷設のため森林伐採の申請を行い、沖縄森林管理署が許可した。

「モノレールを敷設していたら年内完成は無理だったのだろうが、この変更で自然は一段と壊された」

米軍が使う歩行訓練ルートには、造成した道路の路面に切り株が残ったままだったという。「切り株をそのままにしておくと腐食し空洞になり、道路が陥没する。抜根は常識なのに、あちこちに切り株が残っていた。発注者や米軍をバカにした工事だとも言える」

ずさんな工事は、ヘリパッド自体の造成でも発見された。ヘリパッドはプリンのような形で、底辺の直径は約七十五メートル、上面の直径は約四十五メートルで、のり面の傾斜は四O度弱という。

男性は「H地区のヘリパッド造成を受注したのは、盛り土に不慣れな造園業者だった。現場では、傾斜で作業するパワーショベルの向きが逆だった。盛り土に使った砂利をローラーで固める転圧も甘かったようで、後で雨水の排水作業をしていた。あれでは大事故が起きてもおかしくない。

あんな状態で米軍に引き渡すのか」と疑問を呈す。

N-1地区のヘリパッドでは、一度張った芝生をはがす光景が見られた。「盛り土は砂利を三十センチ敷き詰めるごとに転圧しなければならないが、工程を急ぐあまり、適当になり、やり直しをせざるを得なかったのだろう。恒久的に使う施設の工事とは思えない」

男性が指摘する安全性などを無視した工事の実態について反対派の住民組織は先月、地元の名護労働基準監督署に情報提供した。同労基署は「こちら特報部」の取材に「法令に基づいて対応する」としている。

一方、高江の工事の発注元である沖縄防衛局は取材に対し、「担当者から連絡がなく、回答できない」と話すだけだった。

男性は「設計段階から不備があり、行政の対応次第では、工事を止められたはずなのに」と憤る。「この工事の実態を見ても沖縄に基地を押しつけ弱い者にツケを回すという政府の姿勢がよくれている」

 

ゆがんだ日米関係を象徴

 

今回、沖縄の土木技術者が告発した高江でのずさんな工事の実態は、国内の法規を守ることより、米側におもねることに重点を置くという点で、政府の姿勢を象徴しているとも言える。

今月十三日には同県名護市の海上で米軍のオスプレイが大破事故を起こした。

同県の抗議に対し、在沖米軍トップのニコルソン四軍調整官は「操縦士は住宅、住民に被害を与えなかった。県民に感謝されるべきだ」と発言。これに対し、県民から怒りの声が噴出したが、日本政府は米側に抗議するどころか、米軍の飛行再開を容認した。この事故への対応とも、ずさん工事の現実は通底しているように見える。

著書「日本はなぜ、『基地』と『原発』を止められないのか」で、日米関係について論じた編集者の矢部宏治氏は「一九五九年の砂川事件の上告審判決は日米の安全保障にかかわる高度な政治問題は判断をしないという統治行為論を採った。これは事実上、日米安保条約が日本国憲法より上位に来ることを司法が認めたに等しく、それ以来、安保問題で米国がやりたいと言ったことを日本側が法的に止める手段がなくなった。違法を看過する突貫工事の背景にも、こうした事実が横たわっている」と語る。

安倍政権の沖縄への対応についても、矢部氏は「露骨にやるから目立つだけであって、戦後のすべての政権は同じ」と言い切る。

「米側の姿勢を変えるには統治行為論を否定し、主権を回復するしかない。しかし、現状のゆがんだ構造を意識しているのは、座り込みなどの直接行動に出ている沖縄県民だけだ。どう国民全体に理解を広げるのかが依然、問われている」  (三沢典丈)

デスクメモ

沖縄戦の激戦地、摩文仁(まぶに)。琉球新報によると、現在九十五歳の元日本兵がこう証言した。この地に従軍中、他の日本兵が住民を殺害したり、強姦(ごうかん)や強奪することに我慢がならず、ある兵士を銃殺したという。殺された日本兵と現在の政府。戦争は終わったのか。(牧)  2016・12・27

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