1/26憲法から見た退位議論 原則は皇室典範の改正/国民共感抱くも お言葉に政治性?/年間数百件 公的行為 憲法上規定なし/有識者会議 人選に偏り/政権の恣意性「一代限り」こそ危険【東京新聞・特報】

漢字もまともに読めない首相のための「有識者会議」なのか?

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憲法から見た退位議論

 原則は皇室典範の改正

国民共感抱くも お言葉に政治性?

 年間数百件 公的行為 憲法上規定なし

有識者会議 人選に偏り

 政権の恣意性「一代限り」こそ危険

2017年1月26日【東京新聞・特報】

天皇の退位をめぐる議論は首相の私的諮問機関「有識者会議」が論点整理を首相に提出、首相自ら衆参両院議長に協議を要請した。論点整理は結論こそ避けたものの、一代限りの特別法での対応という政府の意向を反映している。天皇陛下の意向と安倍政権の思惑のズレが浮かび上がるが、最高法規である憲法から一連の議論を見たとき、多くの疑問が残る。憲法の視点から、議論を検証してみた。 (佐藤大、三沢典丈)

 

象徴としての務めについてのお気持ちを表明される天皇陛下=昨年8月、皇居・御所応接室で(宮内庁提供)

天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議の今井敬座長(右)から論点整理を受け取る安倍首相=23日、首相官邸で

各党各会派に議論を要請する大島衆院議長(中央右)と伊達参院議長(同左)=24日、国会で

 

議論の発端となったのは、昨年八月八日に放映された天皇陛下のビデオメッセージだ。退位の意向を強くにじませるお言葉を受け、政府は対応を始めた。

最大の争点は退位を恒久制度とするか、一代限りとするかという点だった。昨年十一月の日本世論調査会の調べでは、約七割の国民が恒久化を支持している。

有識者会議の論点整理を受け、政府は六月までに関連法案を成立させたい考えだ。政府内では、新天皇即位の時期を二O一九年元日とする案も浮上している。

だが、こうした一連の経緯について、憲法上の疑義は常に指摘されてきた。

最初に天皇陛下がテレビを通じ、肉声で退位の意向を伝えたことについて疑問が上がった。憲法四条には「(天皇は)国政に関する権能を有しない」とある。

九州大の横田耕一名誉教授(憲法)は「政治にかかわることについて、天皇は公的に意見を表明してはならない。本来は宮内庁が内々に内閣に陛下の意向を伝えるべきこと。伝えたが内閣が動かず、やむを得なかったとしても、陛下のお言葉で内閣が動いたような印象を生んだことは憲法上、好ましくない」と語る。

天皇陛下もその点は自覚されていたようだ。先月の誕生日前の会見で「内閣とも相談しながら表明しました」と述べられている。横田氏は「内閣が承知のうえなら、全ては内閣の責任。だが、内容は憲法が定める摂政の是非にも及び、政治性が強い。内閣が政治利用を画策したとの疑念すら出かねない」と懸念する。

一代限りの特別法という政府の思惑を「陛下のみ心に沿っていない」と批判することも、憲法の趣旨から疑問視する。「み心を恒久制度化の根拠にするのは、戦前と同じ発想。陛下の意向を大切にしつつ、天皇制のあり方を客観的に検討するのが国民主権の原則だ」

今回、退位を望む理由の一つとなったのは「公務」の負担だった。この公務自体を憲法の見地から検鉦するべきという声もある。

天皇制に詳しい中北龍太郎弁護士は「憲法上、天皇に許されるのは首相の任命や国会召集など十二の国事行為のみ。海外訪問や国会開会式でのお言葉など、年間数百件に及ぶ『公的行為』は憲法上の規定がない。厳密には、天皇に憲法擁護義務を課した憲法九九条と相反する」と指摘する。

「戦前の天皇制が戦争を招いた反省から、日本国憲法は平和、基本的人権、民主主義などの価値観に悪影響が出ないよう、天皇の権限を絞った。しかし、一九七0年代以降、国家の強化に天皇を利用したいと考える保守派の意向で、公的行為は増えていった」

中北氏は「公的行為が尊敬に値するものであれ、将来的に政治利用の危険性はぬぐえない。退位以前に、陛下の負担軽減のためにどんな公的行為が本当に必要か、憲法の趣旨に基づき考えるべきだ」と訴える。

一方、この間の政府の対応についてはより多くの疑問が出されている。

有識者会議の論点整理は一代限り」の特別法を強く後押しする内容となったが、憲法二条は「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定めている。

首都大学東京の木村草太教授(憲法)は一代限りの特別法には違憲の疑いが残る。憲法で名指しされている法律は、皇室典範だけ。皇位継承については、皇室典範で一般的な基準と手続きを定めるよう要求しているとも解釈できる。特別法を違憲とする説は学会の通説ではないが、皇位継承の重大性を考えると、万が一でも違憲の疑義がかかってはならない」と話す。

さらに一代限りの特別法では『何年何月何日を以て退位する』といった条文になるだろうが、これではなぜ退位をしたのか、退位の理由が不明となる。こうした前例ができれば、将来の恣意的な皇位継承につながる」と警鐘を鳴らす。

さらに現在、議論の方向性を示している有識者会議の存在自体にも、憲法との齟齬が指摘されている。

慶応大の小林節名誉教授(憲法)は「有識者会議で話を進めるという方策は憲法違反だ」と言い切る。

小林氏は「有識者会議は憲法上の根拠がない。『正当に選挙された国会におりる代表者』(憲法前文)たる議員が知識を集め、リスクを取って判断すべきところを実質的に有識者会議に委ねている」と批判する。

ちなみに有織者会議のメンバーには政権とのつながりが深い人物がおり、人選の恣意性への疑問も強い。

例えば、座長の今弁敬・経団連名誉会長は、今井尚哉政務秘書官がおいに当たる。東京大名誉教授の山内昌之氏は安倍政権下の「美しい国づくり」企画会議の座長代理を務めた。元NHKキャスターの千葉商科大教授宮崎緑氏は、安倍政権下の国家安全保隊会議(NSC)創設に関する有識者会議メンバーだった。

小林氏は論点整理が恒久制度について一般的・抽象的な要件を定めると、時の政権の恣意的な判断が法の要件に基づくものであると正当化する根拠に使われる」と指摘していることについても、「ルールがあるから恣意的に運用されるという言い分は論理矛盾だ」と反論する。「この無理な論理展開を見ても、論点整理の方向性は始めから決まっていたのではないか」

この論点整理の指摘については、神戸女学院大の河西秀哉准教授(日本近現代史)も「恒久法の問題点として政権の恣意的な判断が挙げられたが、むしろそれは『一代限り』の場合の課題なのではないか」と首をひねる。「結局、現政権は皇室典範改正のハードルが下がることで、女性天皇などを「認める改正の動きにつながることを恐れているように感じなくもない」

いま一度、憲法の趣旨を尊重する形での退位の議論のあり方を考える必要がある。憲法一条には「(天皇の)地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」とある。総意を生かすにはどうしたらよいのか。

河西准教授は最低限、公開の場で議論が展開されるべきだと主張する。

「天皇陛下がお気持ちを表明したのは、象徴天皇制のあり方について、幅広く国民に問題を提起したかったということだろう。それを急場しのぎ的な対応で、先送りするというのはいかがなものか。有識者ヒアリングの対象を見ても、最年少が五十四歳。若い人の意見を聞いていない。公聴会を開くなどして、より多くの国民の声を聞くべき。いまこそ象徴天皇制についての議論を深める好機だ」

デスクメモ

憲法一条は「天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」と定める。旗や物ではなく、生身の人間を「象徴」と見なすことの意味とは何なのか。この規定は敗戦の産物に違いない。だとしても、昨夏の天皇メッセージはこんな板本からの議論喚起を合意していたように思える。(牧) 2017・1・26

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