2/10原発直下の自治会が反旗 福井県の関電高浜原発【東京新聞・特報】

原発直下の自治会が反旗 福井県の関電高浜原発

2017年2月10日【東京新聞・こちら特報部】

 

周辺自治体の住民が反対しても、立地住民が賛成する-。従来の原発をめぐる構図だ。ところが、再稼働を準備中の関西電力高浜原発(福井県高浜町)で、同町の自治会が老朽原発の運転延長に反対する意見書をまとめた。直下からの異議申し立ては異例だ。福島原発事故の賠償をめぐる国民への「ツケ回し」、原発部門の負債による東芝の経営危機など、政府の原発回帰政策は泥沼だ。立地住民の反旗の意味も小さくない。

(池田悌一、三沢典丈)

再稼働「適合」判断に募る不信

 原発直下の自治会反旗

  高浜1・2号機「運転延長反対」

   福井・高浜町音海地区

 「原発とは何だったのだろうか。結局、地区はこの通りの過疎だ」

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福井県の最西端、高浜町の一本道を北へ進むと、視界に巨大な建造物が飛び込んできた。関電の高浜原発だ。再稼働の準備のためだろうか。大型トラックや作業員を乗せたバスが行き交う。先月二十日には、安全対策工事に使うクレーンが倒れる事故があった。

原発の脇をさらに北上すると、内浦湾に突き出た半島に入った。昨年末現在、六十七世帯の百三十四人が暮らす音海-おとみ-地区。対岸に高浜原発が見える。避難時に海が荒れていれば、いま来た道を戻るしかない。

「私たちには逃げ場がない。仮に放射能が漏れても、海に飛び込むか、原発に向かって行くしかない。人命を軽視しながら、運転開始から四十年を超える老朽原発を延命させるなんて、絶対に認められない」

音海地区で遊漁船撲を営む児玉巧さん(六九)が憤る。

高浜原発は一九七四年以降、1~4号機が順次運転を始めた。福島事故後、原発の運転期間は原則四十年と定められたが、原子力規制委員会が認可すれば、一度だけ二十年の延長ができる。高浜1、2号機についても、規制委ほ昨年六月、運転延長を認可した。

関電はニO一九年以降に再稼働する方針を示しているが、これに怒ったのが音海地区の住民だ。昨年十二月十八日、「運転延長に反対する意見書」を自治会として採択。翌日、関電と県、町に提出した。原発立地の自治会として公然と反対するのは異例だ。関電側は意見書に対し、「ご理解をいただきたい」と繰り返しているという。

意見書には「福島の原発事故以降、原発の安全性に対する国民の信頼は著しく低下している。延命されれば負のイメージが増幅され、ますます人が寄り付かず衰退が加速する」「音海区民は原発と共生する道を選び、国策へ最大限協力してきたが、運転延長には何ら意識を見いだせない」などと厳しい文書が並んだ。高浜町の原発依存度は大きい。一五年度の原発関連税収は二十一億円で、町税の引%を占める。このほか国の電源立地地域対策交付金などの累計は四百十五億円に上る。高浜原発には3、4号機もあり、昨年一二月に再稼働したが、大津地裁が運転差し止めの仮処分を決定し、三月に運転を停止。現在、大阪高裁で抗告審が行われている。

高浜原発から六キロほど離れた町役場前のスーパー近くに住む男性(七四)は「延長でかまへん。町の経済のことを考えると、はよ再稼働してほしい」と強調した。

だが、音海地区の意見書作成の中心となった児玉さんは「原発のおかげで道路は舗装され、作業員らが宿泊や飲食で金を落としてくれた。でも、福島事故後も老朽原発を動かそうとしているのを見て『住民の命なんてどうでもいいんだ』と目が覚めた」と話す。

「人命軽視 目が覚めた」「共生40年 過疎のまま」

 「私たちの世代で考える」

  再稼働「適合」判断に募る不信

    高い発電コスト 輸出も前途多難

 

原発の再稼働は責任の所在が不透明なまま、なし崩し的に進んでいる。

規制委は「規制基準を満たしているか否かを判断しているだけ。絶対安全とは言えない」(田中俊一委員長)と再稼働の判断責任はあくまで政府にあるとしている。一方、政府は規制委の判断に委ねる姿勢だ。

その結果、問題含みの判断が続いている。規制委は一四年七月、初めて九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)が新規制基準に適合したと判断したが、火山への対応などについて、専門家が懸念を指摘した。

同年十二月には、高浜原発3、4号機を適合としたが、周辺の原発と同時被災したケースは議論されなかった。一五年に合格した四国電力伊方原発3号機(愛媛県)も、事故収束のための要員輸送などに不安が残った。さらに老朽原発についても当初「再稼働は例外中の例外」としていたが一転、延長を認めている。

規制委への信頼が揺らぐ中、元名城大教授の物理学者、槌田敦氏は一四年、「科学的見地から、新規制基準はでたらめ」として、民間で独自に規制を勧告する「原子力民間規制委員会」の設立を呼び掛けた。

槌田氏は「日本にあるウェスチングハウス・エレクトリック(WH)社型の加圧水型原発の場合、緊急炉心冷却装置(ECCS)が働かなくなった後、冷却水を注入できなくなる重大な欠陥がある。すべてのWH型原発は廃炉にすべきだ」などと提言している。

槌田氏の呼び掛けに応えて一四年、「民間規制委・かごしま」が発足。九電に対し、川内原発の炉心損傷防止策など、設計変更を求める勧告をした。その後も「民間規制委・いかた」や「民間規制委・東京」が結成され、電力会社やメーカーに事故時の対応などについて勧告書を送っている。

こうした民間レベルの動きが、電力会社などに決定的な影響を与えているとは言い難いが、再稼働に問題があることを発信し続けている意味は小さくない。

安全面に加え、経済面でも政府の原発回帰政策のほころびは広がっている。

昨年十二月、経済産業省は福島原発事故の処理費用を二十一兆五千億円と発表した。立命館大の大島堅一教授(環境経済学)らが、この額を反映させて発電コストを計算した結果、原発は水力発電などよりも高くつくことが分かった。

安倍政権が成長戦略と位置付ける原発輸出の先行きも暗い。東芝はO六年にWH社を子会社化して世界の原発市場に乗り出したが、WH社がらみで七千億円とも言われる巨額の損失が発覚し、屋台骨が揺らいでいる。日立が英国で行う原発事業に対し、政府が融資する計画も取り沙汰されているが、世界的な脱原発の機運の中、前途は多難だ。

そうした中、原発立地でも異例の異議申し立てが起きた。音海地区の木造家屋の合間には「高浜原発運転延長反対」と書かれた看板がいくつも立てられた。声はまだ小さくても、その意義は決して小さくない。

海岸沿いを歩いていた女性(七五)は「若いころ高浜原発で勤めさせてもらっていたので、今もおおっぴらに『反対』とは言いにくい。でも自治会の意見書には賛成よ」と遠慮がちに笑う。

地元の陶芸家、森島一さん(五五)は「私たちの親世代は『必ず地区はよくなる』と考え、立地を受け入れたと思う。だが、これからの地区を考えるのは私たちの世代だ」とカを込める。

「ここでも、自身や親戚の大半は原発に関わっている。『原発に反対したら冷や飯を食わされる」という不安が強かった。「地区として』だから、声を上げられた。町全体が、この声をこのままでいいのかと考えるきっかけにしてほしい」

 デスクメモ

攻勢のときに参戦するのはたやすい。だが、持久戦や後退戦を担うことはしんどい。政府はまだ原発存続に懸命だが、風向きが変わったように感じる。脱原発は必然になりつつある。この状況は持久戦の産物だ。多くの無名で献身的な人びとが支えてくれた。感謝とともに次の一歩へ。(牧) 2017・2・10

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(右)音海地区に立てられた高浜原発の運転延長反対を訴える看板

(左)関西電力高浜原発の運転延長反対の意見書作成に携わった児玉巧さん=いずれも9日、福井県高浜町で

音海地区から望む関西電力高浜原発

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カテゴリー: 関西電力, 再稼働, 中日東京新聞・特報 タグ: パーマリンク