2/21 ロシア革命100年 影響と教訓 米・首席戦略官「レーニン主義者」自称 敵・味方の分断狙う 根本に格差 現代も課題 世界覆う極右・ポピュリズムの波 「旧ソ連の功罪学び直せ」【東京新聞・特報】

ロシア革命100年 影響と教訓

米・首席戦略官「レーニン主義者」自称

敵・味方の分断狙う

2017年2月21日【東京新聞・こちら特報部】

 

今年はロシア革命から100年。その年頭に、米国ではトランプ政権が始動した。政権の「黒幕」とされる首席戦略官兼上級顧問のスティーブン・バノン氏は「レーニン主義者」を自称している。そこにはどんな意味が込められているのか。革命後の社会主義国家(旧ソ連)は約四半世紀前に崩壊した。欧州などはいま、極右やポピュリズムの大波に揺れている。ロシア革命に学ぶべき教訓はあるのか。 (白名正和、三沢典丈)

 

「私はレーニン主義者だ」-。バノン氏はニO一三年十一月、米ニュースサイト「デイリー・ビースト」の取材にこう答えた。

バノン氏は誇らしげに、こう続けたという。「レーニンは国家を破壊することを求めていた。私の目標も同じだ。私はあらゆるものを崩壊させ、全てのエスタブリッシユメント(支配階級)を壊したい」

バノン氏はトランプ大統領の選対責任者で、当選後は民間出身者としては異例の国家安全保障会議(NSC)常任メンバーとして起用された。イスラム圏七カ国からの入国を禁じた大統領令の「黒幕」とされる。

バノン氏は一九五三年生まれ。ハーバード大で経営学修士(MBA)を取得し、投資銀行に勤務。九0年代から映画などの制作会社に勤めた後、白人至上主義の論調で知られる右派メディア「ブライトバート・ニュース」会長も務めた。

一方、彼が自らと二重写しにするレーニンは、言わずと知れたロシア革命の指導者だ。レーニンが打倒を夢見た資本主義世界の中枢に入り込んだ人物が、レーニン主義を自称するというのは一見、奇異に見える。

「未完のレーニン」の著.がある京都精華大の白井聡専任講師(政治学)は「レーニン主義を破懐の哲学のように矮小化して捉え、持ち上げたり、おとしめたりする傾向は昔からある。バノン氏の発言のニュアンスは不明だが、その類いではないか。自国第一主義を掲げるトランプ政権は、理念的普遍性を目指していない。世界規模の革命を目指したレーニンの理念とは全く違う」と話す。

「敵に非妥協的に対応して、プロレタリアートによる独裁を実現する。この徹底性がレーニン主義の特徴だが、バノン氏らは選挙中に非難した金融界出身者を新政権で重用するなど、さほどの徹底性もない」

この「レーニン主義者」発言は、海外でも注目を集めた。米誌ニューズウィーク日本版は、今月二十一日号のバノン氏特集の中でこう記している。

「レーニンといった政治的革命家の例に倣い、バノンも国民を敵と味方に分断することを通じて、独自の主義主張を押し通そうとしている」「この男は歴史を破壊の連続と見なし、今こそアメリカの労働者階級が立ち上がり、『グローバルなエリート層』に報復する巨大な地殻変動の時期だと信じている」

英紙ガーディアン(電子版)は、今月六日付の記事で「軍事クーデターで権力を奪取したレーニンと、ポピュリストの反乱を直接比較すべきではない」とした上で、「バノンのブライトバートによる憎しみに満ちた言葉は、明らかにレーニン主義者的だ」と評した。

根本に格差 現代も課題

 世界覆う極右・ポピュリズムの波

 「旧ソ連の功罪学び直せ」

レーニンが率いたロシア革命は一九二二年、ソビエト連邦樹立に結実した。

ソ連は共産党による一党独裁のもと、労働者や農民中心の平等な国家建設を目指した。「計画経済」で急速な成長を遂げる一方、秘密警察による恐怖政治が敷かれるなど、当初目指した理念とかけ離れていった。

八五年に共産党書記長に就任したゴルバチョフが「ペレストロイカ(改革)」に取り組んだが、九一年にソ速は崩壊。冷戦の終結は資本のグローバル化を一気に加速させ、各地で貧困と格差が深刻化している。

人びとのうっ屈は、昨年の米大統領選予備選で予想に反して善戦した「民主社会主義者」バーニー・サンダース候補らへの共感を生みつつも、欧州などでは人種差別政策を掲げる極右政党や、ポピュリズムを台頭させるカになっている。ソ連・東欧圏への幻滅はいまだに無視しがたい。

ただ、ソ連崩壊から約四半世紀を経て、より客観的な見方も生まれつつある。

東京大の池田嘉郎准教授(近現代ロシア史)は九一年のソ連崩壊から、ロシアには異議を唱える。

「革命前のロシアは市場経済の発達が弱かった。現代と比べものにならないぐらい経済格差は深刻で、国家丸抱えでみんなで貧しくやっていこうという方向に対し、民衆の多くは不満を抱きつつも納得していた」

前出の英紙ガーディアンの記事は「レーニンの政治スタイルと戦略の多くは現在に適応し得る」として、「絶え間なく続く紛争やドラマに頼り、意図的に暴力的な言葉をテクニックとして多用し、相手を服従させた」などと紹介している。

これに対し、池田准教授はロシア革命で学ぶべきはレーニンよりも、二月革命で誕生し、十月革命でレーニンらに倒された「臨時政府」にあると指摘する。

臨時政府は知識人や企業家などが中心となり、西欧的な議会制民主主義の樹立を目指していた。「現代の議会制民主主義は、特定の利益団体の代表者が議会で発言するが、当時のロシアにはそうした団体すらなかった。臨時政府はまずこの仕組みをつくろうとした」

その様子は著書「ロシア革命破局の8か月」に詳しい。池田准教綬は「少数の知識人ら有産階級と、多数派の労働者、農民ら民衆との間に生じた分断が十月革命に結実した。だが、多くの犠牲を生む手段をとる前に、臨時政府が階級を超えて話し合い、合意形成するシステムを構築しようとしていた面は、もっと注目されてもよい」と語る。

「ロシア革命は歴史の中で、社会主義国家を樹立するために労働者が立ち上がったと単純化して理解されがちだが、根っこにある貧困や格差を解消しようという思いは現代とまったく変わらない。その意味で、その研究は現在に通じる」

名古屋外国語大の亀山郁夫学長(ロシア文化)は現在の状況について「第二次大戦後、ナチズムやスターリン主務の反省から生まれてきた価値観がすべて懐されつつある」と危ぶむ。

「特に米国では、政治経済の中心を占める中流階級以上の白人に他者を理解しようというカがなく、『危機を乗り越えるためには、世界中に迷惑が掛かっても構わない』とエゴがむき出しになっている」

旧ソ連には官僚制など問題点は数多くあったが、教育の機会均等や医療の無償化は実現されていた。亀山学長は「派手ではないが、フルシチョフ、ブレジネフの時代にはスターリン主義の反省から知識人弾圧も抑えられ、ソ連の黄金期を迎えていた」と語る。

「社会主義には二百年近い積み重ねがある。いまこそ、ロシア革命が目指した理想を見直すべきではないか。旧ソ連の失敗は何が原因だったのか、世界はもう一度学び直す必要がある」

 デスクメモ

レーニン主義といえば「外部注入論」だ。労働者大衆は目先に惑わされるので、前衛党が導かねばという理屈だ。その信者が米政権の中枢を担ているとすれば、安倍首相の言う価値観外交もうなずける。立憲主義や国民感情を無視し、戦前回帰に奔走する。もちろん保守とは縁遠い。(牧) 2017・2・21

ロシア革命 

広義には国会開設、憲法制定に結びついた1905年の革命も含むが、一般には17年2月と10月(現行太陽暦では3月と11月)の社会主義国家建設を目指した革命を指す。

2月革命は第1次大戦による食糧難などからストライキや暴動、さらには兵士も決起。ロマノフ朝が終わり、臨時政府とソビエトの二重権力へ。10月革命はレーニン指導下のポリシェピキ(ロシア社会民主労働党左派)が臨時政府を打倒し、ソビエト政権が誕生した。

 

 

(上)スティーブン・バノン氏【UPI・共同)
(下)1920年5月、出陣する兵士を前に演説するレーニン=モスクワで(共同)

昨年3月、ベルギーの首都ブリュッセルで、テロ犠牲者追悼会場に詰め掛けた右翼のデモ隊=ロイター・共同

ロシア革命100年の今年、関連念図書も出版されている

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