2/22エボラ研究 「なぜ」住宅街で/長崎大計画に渦巻く不安/BSL4施設の設置計画【中日メディカル】

一昨日の東京新聞・特報。これも中日メディカルだろうなぁと思ったものだ。

住宅街でエボラ研究 長崎大で「レベル4」施設計画
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2017022002000123.html
【東京新聞・特報】2017年2月20日

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エボラ研究 「なぜ」住宅街で

(2017年2月22日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170222131738049

長崎大計画に渦巻く不安

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「危険施設を住宅街につくらないでほしい」と訴える道津靖子さん=長崎大の坂本キャンパス前で

エボラ出血熱のウイルスなど致死率の高い病原体を研究する国内初の施設を、長崎大が2020年度に設置する計画を進めている。問題はその予定地だ。長崎市内の住宅街にある。研究ではウイルスに感染させたマウスなどが使われる。外部に漏れる恐れはないのか。大学側は安全と説明するが、住民たちは「想定外は必ず起きる」と反発する。不安に揺れる街を歩いた。(池田悌一)

長崎原爆資料館や浦上天主堂からほど近い坂を少し上ると、住宅街が広がる。長崎大の坂本キャンパス1はその先、住宅街の真ん中にある。医学部や熱帯医学研究所があり、地元の薬剤師道津靖子さん(57)と一緒に歩くと、十数台が駐車中の空き地が見えてきた。

BSL4施設の設置計画

危険性の高い病原体を扱う「バイオセーフティーレベル(BSL)4」という施設の予定地だ。

この種の施設は、世界保健機関(WHO)の指針を基に各国が病原体のリスクによってレベル1〜4に分類している。「1」は人に疾患を起こす可能性の低いもの。インフルエンザのウイルスなどは「2」、結核菌などは「3」、そして致死率の高いエボラやラッサ熱のウイルスなどが「4」だ。

道津さんは「長崎大はこんなところに、最高危険度のウイルスを持ち込もうとしている。大学側は『安全だ』と繰り返すが、人間が扱う以上、誤って外に漏れる可能性は十分にある。ウイルスは目に見えないから恐ろしい。なんでこんな不安な思いをしなければいけないんでしょうか。これからも普通の暮らしが、したかとです」と憤る。

実は、国内にレベル4の施設は他に1カ所だけある。15年8月、東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所の村山庁舎を、国が初めて指定した。ただし、感染疑いのある患者の検査だけで病原体の研究はしない。

レベル4に耐えられる設計の施設だが、住民の反対で、長い間、指定できずにいた。西アフリカでエボラ出血熱の感染者が増えたことを受け、検査に限定するという条件で、武蔵村山市の理解を得た。

国は村山庁舎を指定する際、将来的には別の場所に、レベル4の施設を移すことを検討すると約束している。長崎大が国内初の研究施設設置を目指し、長崎市や長崎県と協議を始めたのはちょうどこのころだ。

道津さんは「グローバル化で日本も感染症の脅威にさらされているのは理解できる。だからといって、なぜ、住宅街なのか」と説明を求める。研究施設ができれば、危険なウイルスが運び込まれる。「どうしても必要なら、無人島など暮らしへの影響が少ない場所を選んでほしい」

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長崎大の計画に反対する山田一俊さん(左から2番目)ら自治会長たち=長崎市で

長崎大の計画には、当初から、住民らが猛反発した。そのため、目立った進展はなかったが、昨年11月17日、政府の関係閣僚会議が「感染症対策の強化は国家プロジェクトの一つ。国策として長崎大の計画を支援する」と決定し、潮目が変わった。

その5日後、田上富久市長と中村法道(ほうどう)県知事が合同で記者会見し、それぞれ「住民の理解は着実に広がっている」「安全性に万全を期すことが示された」と大学への協力を明言し、計画が大きく動きだした。

政府の17年度当初予算案には、施設の実施設計費など4億円が計上されている。長崎大は既に、設計会社と契約を結び、基本構想の策定作業に入り、18年度までに建設工事に入る青写真を描いているという。

長崎大はなぜ、レベル4施設の設置を推し進めるのか。

調漸(しらべすすむ)副学長は、1942年に現在の熱帯医学研究所の前身施設が大学内に設立されて以降、「日本の感染症研究を引っ張ってきた。今も学内に150人の専門医を抱え、国内トップレベルの陣容だ」と自負する。その上で、「現状では未知の強力なウイルスが日本で大流行しても、海外に頼らざるを得ない。基礎研究をしながらワクチンや治療薬開発につなげられるような最先端施設が国内にも必要だ。長崎大ならできる」。

問題については、「排気は二重のフィルターでカットする。リスクがあるとすれば空気感染より接触感染だが、ウイルスに感染させたマウスやサルが逃げ出せないよう、何重もの扉を設ける予定だ」と強調した。

だが、活断層の有無の調査はせず、「免震構造で対応する」という。想定外の震災に備えるのなら、住宅地での設置はやめた方がよくないか。調氏は「予定地が大学病院に隣接していることが大きい。研究者が誤って自身にウイルスを注射してしまっても、すぐに搬送できるため拡散を防ぎやすい」と話した。

では、反対の人たちにどう説明するのか。調氏は「説明会や公開講座を100回以上開いており、理解は着実に広がっている」と言う。

キャンパス近くでバスを待っていた医学部1年の女子学生(19)は「心配する学生もいるが、安全対策さえしっかりやれば問題ないと思う」。小学4年の長女と散歩をしていた男性会社員(44)は「仕方ないのかな。妻は『何かあってからでは遅い』と猛烈に反対していますが」と話した。

理解を示す人もいるが、周辺の26自治会は、設置反対を表明している。自治会長らでつくる「BSL4施設の坂本設置に反対する地元自治会連絡会」の会合では、「いつの間にかハコモノができているという事態は避けたい」「多くの声でプレッシャーをかけないと」などの声が上がる。

連絡会には4千筆超の反対署名が寄せられた。会長代行の山田一俊さん(70)は「建設を強行するつもりなら、住民投票も考えたい」と憤る。「村山庁舎は完成から36年になるが、住民の反対で研究に利用されていない。なぜ、国は長崎で、国策として後押しするのか。私たちのことは『道端の石』くらいにしか思っていないのではないか」

現在、欧米など少なくとも23カ国で52のBSL4施設が稼働している。内閣官房国際感染症対策調整室の担当者は「日本は世界に後れを取っており、長崎大ができるだけ早い時期に施設を造るよう支援していきたい。国としても住民に海外施設を見てもらうなどして不安解消に努めていく」と説明した。

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シンポジウムでBSL4施設を住宅地につくる問題点を指摘する新井秀雄氏=東京都新宿区で

東京都内で今月4日、感染症研究者らのシンポジウムがあり、国立感染症研究所の新井秀雄・元主任研究官は「旧ソ連では軍事施設から炭疽(たんそ)菌が漏れ、60人以上が死亡した。原因はフィルターの取りつけミス。人為的ミスの可能性は常にある。研究者がミスを隠そうとして公表が遅れれば、目に見えないウイルスが拡散する恐れもある」と警告した。

「『すぐ近くに危険施設がある』と思うだけで、ストレスにさらされ続ける人もいるだろう。レベル4の研究が必要なら、感染症が流行している現地でやればいい。わざわざウイルスを輸入するリスクを取る必要はなく、ましてや住宅地で実験するようなことはあってはならない」

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