2/26宮城県 放射能汚染ごみ「ー斉焼却」方針/住民「毒ばらまくだけ」/「8000ベクレル」国の線引き元凶/出ない結論、野積み700ヵ所超/原発事故は公害「規制法整備を」【東京新聞・特報】

宮城県

放射能汚染ごみ「ー斉焼却」方針

 住民「毒ばらまくだけ」

  強まる反発「新たな風評生む」

2017年2月26日【東京新聞・こちら特報部】

 

福島原発事故で放射能に汚染された牧草や稲わらなどの廃棄物をめぐり、宮城県が昨年、市町村に示した一斉焼却の方針に住民たちが反発している。焼却の対象は、県内七百カ所以上で野積みされている放射性セシウムの濃度が一キロ当たり八〇〇〇ベクレル以下の廃棄物。県の方針に慎重な自治体もあり、現在まで結論が出ていない。元凶は国が住民との相談もなく、一方的に決めた「八〇〇〇ベクレル」の線引きにありそうだ。 (安藤恭子)

tkh170227_map

冷たい風が吹く宮城県内陸部の登米-とめ-市。水が枯れた田んぼに残る稲わらが、うっすらと雪に覆われている。牛たちが横たわる牛舎を抜けると、目の前に銀色のビニールハウスが現れた。二つのハウスの中には、計百三十五トンの汚染稲わらが詰め込まれている。

ハウスが置かれている佐々木徳久さん(五五)の農地は、福島第一原発から約百四十キロの距離にある。

「通学路にいつまでも稲わらの束を置いているのはよくない。汚染廃棄物の処理方法が決まるまでという話だったから、二年間の約束で引き受けたんだべ」

佐々木さんは原発事故の発生から六年近くたつ現在も、処理の見通しが立たない状況にため息をつく。

親から引き継いだこの土地で、農業を続けて三十五年。二十五ヘクタールの水田を使って、地域の仲間と無農薬や有機肥料にこだわった米づくりに励み、百二十頭の牛を育ててきた。

しかし、3・11で全てが一変した。原発事故後もしばらく汚染に気付かず、稲わらを牛たちに食べさせてきたが、三カ月後、牛の出荷自粛を命じられた。米の価格は下落し、取引先の七~八割が去った。

佐々木さんは「失った販路は二度と戻らない。復興もゆっくりとしか進まない。俺たちはいまも風評被害の中にいる」と語る。

宮城県の村井嘉浩知事は昨年十一月の市町村長会議で、県内七百カ所余りで保管されている放射性セシウムの濃度が一キロ当たり八OOOベクレル以下の汚染牧草や稲わらについて、放射性物質汚染対処特別指置法に基づいて、一般ごみと同様に一斉焼却する方針を示した。

しかし、一部の首長らの合意が得られず、結論は棚上げにされた。佐々木さんも方針に反対の立場だ。

佐々木さんが当初保管したのは、この焼却基準よりも濃度が高く、国の責任で処理される指定廃棄物の稲わらだ。だが、時間の経過とともに、放射性セシウムの放射線量が自然減衰し、現在は八000ベクレルを下回ったとみられ、今後、指定が解除される可能性もある。

鳥やネズミの侵入で、ビニールハウスに穴が開いてしまわないか、心配だという。ハウスのそばは、空間放射線量が毎時一マイクロシーベルトと高い日もある。だが、佐々木さんは「ごみのやり所がない以上、仕方がない。あまり近寄らないようにしている」と話す。

それでも、佐々木さんは「焼却すれば『毒』を薄めて、地域にばらまくことになる。きちんとした処理ができないのなら、ハウスに封じ込めたまま、農家で預かっている方がよっぽどいい」と主張する。

「子や孫の代まで、ずっと続く汚染だと覚悟している。いまここで、汚染ごみを薄めたり、隠したりという安易な処分をすれば、宮城の農業に新たな風評被害が生まれる。頼むから、もう土に返さないでくれ」

「8000ベクレル」国の線引き元凶

  出ない結論、野積み700ヵ所超

   原発事故は公害「規制法整備を」

 

原発事故後にできた放射性物質汚染対処特別措置法は、八000ベクレル以上の高濃度の指定廃棄物は国が処理し、それ以下は一般ごみと同様に、市町村が焼却などで処理すると定めている。

宮城県によると、約四万トン出た県内の汚染廃棄物のうち、市町村が処理する八000ベクレル以下の廃棄物は九割に当たる三万六千トンあり、多くは農家の軒先などに野積みされたままだ。

他県では同法に基づき、八OOOベクレル以下の廃棄物の処理が進んでいる。福島県は十三万六千トン余りの国の指定廃棄物の保管を確認しているが、担当者は「それより濃度が低い廃棄物は、自治体の判断で焼却されているだろう」と言う。

岩手県も一二年度から焼却を始め、県南地域を中心に今年一月までに二万五千トンを焼却した。栃木県のように汚染牧草を農地に戻す「すき込み」という手法を採っている自治体もある。

だが、宮城県で焼却を決めたのは仙台市と利府町の二自治体にとどまる。村井知事は一般ごみと混ぜて、基準を超えないようにする「混焼」を提案。今夏にも本格焼却に入る方針を示したが、一部の首長が留保。「全会一致」の原則から外れたとして、協議は半年後に先送りされた。

県の一斉焼却の方針は波紋を広げ、県内の市民団体は「他県で混焼したところでは、焼却炉周辺で空間放射線量の上昇や土壌の汚染が確認されている」などと訴え、県知事に再考を求める署名活動を始めた。

教育関係者や保護者らでつくる栗原市の市民団体「放射能から子どもたちを守る栗原ネットワーク」も今月十一日、この問題で会合を開いたが、焼却への反対意見が噴き出した。

栗原市は加美、大和両町とともに、国の指定廃棄物を県内で処分する「最終処分場」の候補地の一つとされ、環境省に「返上」を願い出た経緯がある。ただ、国は指定廃棄物の発生量が多い宮城、栃木、千葉の各県での最終処分場の建設という方針を変えていない。

栗原市の農業千田加代子さん(五三)は「野積みされた廃棄物が消えれば、気楽にはなる。しかし、焼却するには、県内の別の場所へ持って行かないといけない。最終処分場問題から、汚染ごみを受け入れることの痛みも分かった。とても焼却に賛成できない」と語る。

栗原市は「住民の意向から焼却はできない」と判断し、独自に汚染牧草を堆肥にして減容化を図る実証実験を始めるなど、焼却以外の方法を模索している。

しかし、「焼却よりはいいかもしれないが、堆肥化でも、すき込みでも汚染は消えない」(市内の男性)という声もあり、別の男性は「汚染の拡散を抑えるには、廃棄物をチェルノブイリ原発のように『石棺』で閉じ込めるしかないのではないか」と案じる。

栗原ネットの会合には、栃木県内で最終処分場の候補地とされた塩谷町の男性も参加し「結論が出ない問題で、悲しくて許せない。国にはこの状況を見て、考えてほしい」と訴えた。

原発事故の問題に詳しい山本行雄弁護士は「原発事故を原子力公害と位置付けて、公害規制法の整備を行うことが急務だ。焼却のように汚染廃棄物を希釈、拡散散する政策ではなく、管理集約して封じ込める政策へと考え方を改め、処理・処分施設の常時監視などの安全基準や、住宅地や水源地からの距離制限など、施設の立地規制を定めることも必要だ」と指摘する。

同弁護士は「国が定めた八OOOベクレルという線引きも一方的だ。自治体が国の政策と住民の不安との間で板挟みになって、どう処理すればいいのか判断できないのは当然。自治体の側から国に対して『原発事故を公害と認めて、規制法を整備するのが先決だ』と訴えるべきだ」と提起した。

デスクメモ

この国の役人文化にはけじめという字がない。隠蔽(いんぺい)と責任の拡散。森友学園の一件や南スーダンの日報は典型だが、原発事故の汚染ごみ焼却もその線上にある。先の戦争もそうだ。責任の不問が歴史修正主義を生んだ。けじめは明日のためにある。足踏みする余裕はない。(牧)2017・2・26

汚染稲わらが保管されたビニールハウスの前に立つ佐々木徳久さん。土のう袋で囲い、汚染の拡散を抑えているという=宮城県登米市で

(上)市有地に野積みされたままの1キロ当たり8000ベクレル以下の汚染廃棄物

(下)焼却処理問題が議論された「放射能から子どもたちを守る栗原ネットワーク」の学習会=いずれも宮城県栗原阪市で

広告
カテゴリー: 放射能汚染, 中日東京新聞・特報 タグ: パーマリンク