3/6(上)妻子5人を埼玉へ 「住宅は命に関わる」/「自主避難」住宅無償提供打ち切り 新たな支援 促す声≪選択 避難者の今≫【東京新聞・東日本大震災6年】

≪選択 避難者の今 東日本大震災6年≫

(上)妻子5人を埼玉へ 「住宅は命に関わる」

2017年3月6日【東京新聞・朝刊・1面】

東京電力福島第一原発事故から六年。避難区域外から避難する「自主避難者」に対する住宅の無償提供が今月末に打ち切られる。対象の世帯は昨年十月末時点で一万を超える。避難を続けるのか福島に戻るのか。それぞれの家族の選択をたどった。=新たな支援促す声 2面

階段の手すりはさび、畳は湿気でたわむ。さいたま市にある築四十年超の国家公務員宿舎。かつて避難家族が五十世帯いたが、住宅支援打ち切りを控えて移転先を決めるよう求められ、去った人も。今は九世帯が残るだけになった。

昨年十二月、集会所に、避難区域外から来た四、五家族が集まった。「追い出されはしないだろうけど・・・」「みんなで居座ろうか」

中学の美術教師瀬川芳伸さん(五四)も会話に加わっていた。福島県郡山市で働き、妻の由希さん(四二)と四人の子を宿舎に避難させている。由希さんは神経系の難病。瀬川さんも重い心臓病を患うが、週末に車で家族に会いに行く生活が五年続いている。

二O一一年三月十二日。勤務中に妊娠六カ月の由希さんから携帯電話にメールが届いた。「原発が吹っ飛んだ」。家には当時二歳の明芳-あきよし-くんと一歳の泰希-たいき-くんもいた。窓を閉め、に目張りし、子どもたちを外に出さないようにして暮らした。七月に三男民代ちゃんが生まれる。家族は母子避難を決断し、翌一二年六月に埼玉に移った。

家賃は無償でも生活は厳しい。二世帯分の光熱費、埼玉と福島を往復するためのガソリン代:・・・。追い打ちをかけるように一四年十月に生まれた四男晃士-こうじ-ちゃんが先天性心疾患で手術しなければならず、瀬川さんは一年育休を取った。その間の給料は約半分。子ども名義の貯金も取り崩した。

避難生活で父親っ子の長男が精神的に不安定に。自身も福島と埼玉の往復は体への負担は大きい。一緒に暮らしたい。でも、泥遊びが好きな子どもたちを見ていると、局地的に放射線量の高い「ホットスポット」が自宅周りにあることを考えてしまう。「やっと息子たちが落ち着き、小学校や幼稚園が楽しいという。まだここにいさせたい」

避難家族以外に住民のいない、閑散とした宿舎。「老朽化で取り壊される」「二年延長して住める」。昨年からさまざまな情報が耳に入り、心が揺れる。四月からどうすればいいのか。不安を抱えたまま年末年始を過ごした。

二月半ば、福島県から救済措置が伝えられ、家庭環境などの審査に通れば、四月以降も住める可能性が出てきた。ただし、計約二万円の家賃や駐車場代は自己負担に変わる。それでも少しはましだ。別の公営住宅では約十万円の負担になると聞く。「もしそうだったら、生命保険を解約するか、教育費を崩すか・・・」

四月まで一カ月を切ったが、審査結果は出ていない。通ったとしても、救済措置は延長で二年後の三月末までだ。「この問題は終わっていない。私たちは原発事故の被害者。住宅や医療費の補償は生存権に関わる問題なんです」

福島県郡山市から家族に会いに来た瀬川芳伸さん(左奥)。妻の由希さん(右)と子どもたちは自主避離を続けている=さいたま市浦和区で(中西祥子撮影)

 

≪選択 避難者の今≫

 「自主避難」住宅無償提供打ち切り

   新たな支援 促す声

2017年3月6日【東京新聞・朝刊・2面】

福第一原発故による「自主避難者」への住宅無提供の打ち切りが月末に迫っています。提供はもう必要ないのでしょうか。(中山高志)=1面参照

 

無償提供の仕組みは。

A 福島県は原発事故後、プレハブなどの建設型仮設に加え、県内外の公営住宅や民間住宅など既存の建物も仮設とみなして避難者に無償提供。当初は避難区域の内外を問いませんでしたが、区域外の自主避難者は今月で打ち切ります。対象は昨年十月末現在で、全国で一万五百二十四世帯、首都圏一都六県で二千百八十七世帯。

Q なぜ自主避難者だけを打ち切るのですか。

A 福島県は、食品の安全性の確保や除染などが進み、生活環境が整いつつあることを理由にしています。実際に福島に戻る人が増えているのは事実です。

Q なぜ避難区域外なのに福島に戻らない人がいるのですか。

A 土壌や食品などの放射能汚染による被ばくの危険性、福島第一原発の安全性への懸念などが理由として挙げられます。被ばくへの恐れは人により受け止め方も変わります。

Q 四月以降の住宅は確保されたのですか。

A 福島県が先月公表した資料によると、県外で移転済みまたは移転先を確保したとされる世帯は約九割に上り、昨年十月までの五割から大きく増加しました。しかし、当事者や支援者からは「実感とはほど遠い」との指摘があり、新居の新たな家賃負担や引っ越し費に困っているとの声も多く上がります。

Q 東京都など避難者受け入れ自治体の対応は。

A 東京都は自主避難者が優先的に応募できる都営住宅計三百戸を用意しましたが、入居予定は約百七十戸にとどまっています。同様の政策を打ち出した神奈川県や埼玉県でも入居の動きは伸び悩んでいます。

Q 国の対応は。

A 子ども・被災者支援法では、国が区域外からの避難者に住宅確保のための施策を講じるよう定めていますが、実際の動きは鈍いです。住宅打ち切りを受けた新たな対応を促す声が強まっています。

広告
カテゴリー: 避難, 放射能汚染, 中日東京新聞・特報 パーマリンク