3/29崖っぷち東芝、社員の思い 不正会計生んだ「チャレンジ」/風土「改善」まだ途上/「努力かき消された」/変革「7つの心がけ」作ったが・・・/原発巨額損失なぜ/「今の経営陣じゃ駄目」【東京新聞・特報】

併せて読みたい今日の株主総会

東芝株主、総会で経営責任追及 「原発のせいで稼ぎ頭売却」怒り 【東京新聞・経済】3/30
==========

崖っぷち東芝、社員の思い

不正会計生んだ「チャレンジ」

 風土「改善」まだ途上

  「努力かき消された」

2017年3月29日【東京新聞・こちら特報部】

 

社会に貢献したい、世界で活躍したい。そんな夢を抱き、名門の東芝に入社した社員は少なくない。一昨年に不正会計が明るみに出て、昨年は米原子力事業での巨額損失が発覚した。米子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)の米連邦破産法一一条の適用申請、半導体事業の売却により活路を見いだそうとするが、先行きは見通せない。そんな崖っぷちの状況の今、東芝社員は何を思うのか-。 (小坂井文彦)

 

「社員の多くは自信を失っている。目の前の仕事を一生懸命やり、社会に貢献してきたと思っていたのに、一部の経営陣のせいで、努力がかき消された」

三十代の男性社員は悔しさをにじませた。留学経験を生かし、世界を舞台に働きたいと思った。「縁の下の力持ち」として社会基盤を支えるインフラ事業が、自分に合うと思い、東芝に入社した。有名企業の「内定」を両親が喜んでくれたことを覚えている。

ニO一五年、不正会計が発覚した。歴代社長が「チャレンジ」という実現困難な収益改善目標を示し、達成を強く迫ったことが一因だった。利益の先取りや、損失や費用の先送りが横行し、不正につながった。

この男性社員は「グレーだけど、範囲内と思っていた。命令だったし、監査でOKだったし」と振り返る。同僚と「おかしいよな」とは話したが、上司には言わなかった。「今は、自分にも責任があると思う。だけど、当時はそれほど深刻な問題とは思わなかった」

不正会計の問題を調査をした第三者委員会は「上司の意向に逆らうことができない企業風土が存在していた」と指摘しているが、まさに、その通りだった。

「風土」は改善されたのか。東芝は一六年十一月、グループ五十四社、従業員約七万人に行ったアンケートをまとめている。社外には非公表のものだ。

「昨年度と比較し、風土は改善されたか」という設問がある。上層部のマネジメント職の約六割は「そう思う」と好意的な回答をしたが、管理職は約五割、一般社員は約三割と、下にいくほど割合は少ない。

逆に、「思わない」という否定的な回答は、マネジメント職が約一割なのに、一般社員は約三割。東証に提出した報告書には「改善が進んでいる」と記されたが、実際はそうでもない。

男性社員は「そうだろうな」と思う。「上が何かを改善したら、下も変わるが、風土は変わってない。二度延期の決算発表も、問題を先延ばしにする風土が影響したのでは」。東芝には「人と、地球の、明日のために」というキャッチコピーがあるが、「社員に全然やさしくなかった。経営陣は在任期間中の数字しか考えていなかった」。

経営が傾き、医療機器、白物家電事業が売られ、半導体事業の売却が近づく今、東芝を去る若手が少なくないという。男性社員にもヘッドハンティングを誘うメールや電話がくる。話を聞いたこともあるが、転職に踏み切れなかった。

「東芝がつぶれるかもという不安もある。普通に考えれば転職。でも、リスクも考える。日本企業は転職したらゼロからのスタートだから。つぶれない前提だけど、東芝にいれば積み上げたキャリアが生きて、それなりのポストに就けるし、愛社精神もあるし」

現状を「ラストチャンス」とみる。「優秀な社員は多い。経営手腕のない経営陣が全員入れ替れば、もう一度世界で戦える企になる。そう信じたい」

 

変革「7つの心がけ」作ったが・・・

 原発巨額損失なぜ

   「今の経営陣じゃ駄目」

 

社外には非公表だったが、昨年十一月、七カ条の「いま、東芝を変えていく。7つの心がけ」が社員に提示された。三十~四十代の社員十六人が三カ月間議論してまとめたものだ。

①は「『成功したこと』にするのは、そろそろやめよう」。社員に達成を強要し、不正会計を誘発した「チャレンジ」を意識したようだ。一方で、⑥の「妥協せず、最後までやりきったか?もっと何かできるのではないか?」が、以前の社内体質を踏襲するようで少々、気になるが・・・。

③ 「建前をなくそう。本気で伝えよう」④「議論をするときは全員平等だ」は「上司の意向に逆らうことができない企業風土」の改善に役立てるものだろう。

提示の際には、綱川智社長の手書きのメッセージが添えられた。「スポーツを観ると、組織力の重要性を痛感する」「当社内に”会社に夢や誇りが持てない、組織にやる気を感じない”というような意見が出てくる中、経営幹部と従業員が一体となって、何とかこの状況を乗り越えていきたい」「悪-あ-し慣習を排除し、自由闊達-かったつ-な雰囲気を深めれば、必ず強く勝てる組織に繋がる」

「7つの心がけは初めの一歩だが、大きく力強い一歩である」と結ばれていたが、一カ月後の昨年十二月、いきなりつまずく。ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)を巡る巨額損失の発覚だ。二O一六年四~十二月期連結決算発表は二度も延期に追い込まれた。

原子力などのエネルギー事業部門で働く三十代の社員は憤りを隠せない。まず、「7つの心がけ」に対し、「きれい事すぎて頭に入ってこなかった。経営陣こそが、7つの心がけを胸に刻むべきだ」と話す。

WHの巨額損失に納得がいかない。東日本大震災後、米国の規制強化は周知の事実だ。「全然工事が進んでなくて、人が少なくて異様な光景だった」と米国を視察した同僚がロにしたのは二年以上前だった。役員は承知していたはず。なのに、綱川社長は、昨年末まで知らされていなかったと説明した。

「損失予測はもちろん、対策もしていると思った。なぜ、手を打たなかったのか。なぜ、ここまで損失が膨らんだのか。これだけひどいと、今の経営陣じゃ、本当に駄目なんだと思う」

この社員は「社会に役立つものづくりをしたい」と思って、東芝に入社したという。深夜残業が続いた。休日の予定をキャンセルし、出社したことも少なくない。「でも、皆でゴールに向かって頑張っていると、やりがいを感じた。会社に愛着も感じたから頑張れた」

定年まで勤める気でいたのは、経営が安定していると信じたからでもある。だが、昨年、年収は百万円近く減った。ボーナスの減額は今夏も続く。社内の一割引きの優遇制度で、東芝株を総額百万円分以上購入したが、株価は半値以下に下がっている。「どうしょうもない」

決算発表を再延期した今月十四日、綱川社長が社員に送った一斉メールに、こんなくだりがあった。「結果として社の信頼を失う結果となり非常に理不尽」。監査法人が決算を承認しなかったことに、不満を表したものだが、「人ごとみたいで、がっかりした」。

だが、落胆してばかりもいられない。今は、仕事に打ち込むだけだという。「転織は考えてない。仕事の需要はある。今後もあると思うから」

東京都港区のビルの屋上に掲げられた東芝の看板

決算発表を1カ月延期して記者会見を行った東芝の綱川智社長=2月14日、東京都港区の本社で

東芝が社員に向けて提示した「7つの心がけ」

  いま、東芝を変えていく。
 7つの心がけ

1.「成功したこと」にするのは、そろそろやめよう。
2.お客さまの顔を思い描こう、そして向き合おう。
3.建前をなくそう。本気で伝えよう。
4.議論をするときは全員平等だ。
5..挑戦的な選択肢も受け入れ、新しいものを創造しよう。
6.妥協せず、最後までやりきったか?もっと何かできるのではないか?
7.私たちの仕事は、きっとこれからも世界を変えていく。

 

デスクメモ

「ムラ社会型」の日本企業が生んだともいえる「愛社精神」。もちろん良い面もあるだろう。だが、上に従うことを肯定するために使われることが多い。「愛国心」もそうだ。勇気がいるかもしれないが、時に上にあらがっても不正を指摘することこそが、真の「愛OO」だと思う。(文)2017・3・29。

広告
カテゴリー: 中日東京新聞・特報 タグ: パーマリンク