4/5-6【中日メディカル<消えた有権者>】(上) 国も把握できぬデータ (下) 投票所まで行けない、書けない/2/1〈生活部記者の両親ダブル介護〉(9) 消えた有権者 一票が入れられない

「投票に行ったらご褒美に美味しいものを食べさせてあげよう」と、私を餌で投票に釣っていたうちの父だったなぁ。
2002年秋から2012年春までの十年間というものは、親の介護で明け暮れた毎日だったせいか、中日新聞の三浦記者のシリーズ〈生活部記者の両親ダブル介護〉が気になっていた。
私は「病気の年寄りには選挙権があってないようなもんだ」と諦念していたが、うちだけの問題じゃなかったのに今さらながら気が付いた。

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<消えた有権者>(上) 国も把握できぬデータ

【中日新聞・一面】2017年4月5日 朝刊
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017040402100023.html

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「若者が低く、高齢者は高い」。国政選挙の投票率の常識だ。確かに七十歳代は、おおむね70%が投票している。なのに、八十歳以上では40%台に激減している。それは、昨年の参院選、二〇一四年の衆院選で共通している。この落差は何だろう。

七十歳代までは投票に行っていたのに、八十歳を超えると半分も行かなくなる。総務省の人口推計に基づいて、八十歳以上人口の七割と四割強をそれぞれ計算すると、その差は二百万人を超える。

一方、厚生労働省のデータで、外出が困難になりつつある要介護3が八十三万人、ほぼ寝たきりとなる同4が七十六万人、寝たきりの5が六十一万人。合計すれば二百二十万人になる。重なる二つの「二百万人超」。意味するものを検証する。

介護を受けるようになるなどで、一体、どれくらいの人たちが政治に参加できなくなっているのだろう。介護など多くの高齢者がかかわる問題は国の重要課題なのに、当事者の声を聞かずによいものか。いま一度考えたい。

きっかけは、隔週水曜日に掲載している本紙の連載コラムで、二月一日付の「生活部記者の両親ダブル介護」への反響だった。投票には欠かさず行く人だったのに私の母(81)は認知症で、父(80)は煩雑な手続きに対するためらいで、いずれも投票できなかった話だ。

「まったく同感。私の母もそうですから」と語るのは、埼玉県春日部市の女性(66)。九十歳の母親は新潟市のグループホームで暮らす。認知症で要介護3。月に一度、母と空き家になった実家の様子を見に通う。

ある時、実家に昨年十月に投開票された新潟県知事選の通知が届いていたことに気付く。東京電力柏崎刈羽原発の再稼働が争点だった。だが、時すでに遅し。「社会への関心も高かった母です。分かっていれば、絶対に投票に行っていたでしょう」

厚生労働省によると、要介護(要支援)認定を受けた人は六百万人超。その人たちの参政権をどう守るか。選挙制度を所管する総務省も重視し、有識者会議で議論する。会議の概要は資料と共に公開されている。まずは現状を知るのが重要だ。介護認定者の何パーセントが投票できているのか。識者が集まる会議だ。データがあるに違いない。全資料に目を通す。

驚いた。ないのだ。同省選挙部管理課の担当者に確認する。申し訳なさそうに担当者は答える。「ご指摘通り、そういうデータを取っていないのです」。介護は状態や環境もさまざま。それによって投票へのアクセスも細分化されている。しかし、複雑な仕組みや手続きに埋もれ、全体像が見えないのだ。

ならば自分で調べるしかない。せめて、おおよその傾向をつかめないか。すると、注目すべきデータに行き当たった。昨年七月の参院選での投票率だ。二十~三十歳代は30~40%台なのに対し、六十~七十歳代は七割前後が投票している。

ところが八十歳以上だと投票率は47・16%に激減する。過去の投票率を調べると、彼らが六十~七十代だったころは七、八割が投票していた。つまり、少なくとも七割が選挙に行っていた世代が、八十歳を超えると半分も行っていないということだ。

同月の人口推計によると、八十歳以上の人口は千三十万人。投票率が70%だった場合、投票者数は七百二十一万人。だが、実際に行ったのは四百八十六万人だ。その差は二百三十五万人。この数字は何を意味するのか。同様の傾向は二〇一四年の衆院選でもみられる。投票率は七十代は70%ほどだったのが、八十歳以上では44・89%だ。

断定はできない。だが、「消えた有権者」は二百万人以上という可能性が浮かび上がってこないか。

一般財団法人「医療経済研究機構」の西村周三所長に聞く。社会保障政策を経済学の手法で解き明かす「医療経済学」の草分けで、国立社会保障・人口問題研究所の所長も務めた。京都大経済学部の元教授で、私の恩師でもある。

西村所長は「細かく言えば、施設入所者は施設内でも投票できるので、施設と在宅とは分けて考える点も大事だが、大まかな数値として『二百万人以上』という推計は当たっているのではないか」と言う。

二百万人以上いる可能性がある「消えた有権者」。投票しようとすると、どんな困難があるのだろうか。六日の(下)に続く。

(三浦耕喜)

 

<消えた有権者>(下) 投票所まで行けない、書けない

2017年4月6日【中日新聞・一面・朝刊】
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017040602000006.html

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5日付の前回は認知症や介護などで、200万人以上が「消えた有権者」になっている可能性を指摘した。衆院選で計算すると小選挙区ひとつ当たり、7000票弱が消えていることになる。この票数は、勝敗を左右するには十分だ。なぜ、そんな票が消えるのか。

「投票できずに戻ってきたよ」。そう聞かされると、何とも悲しい気持ちになる。金沢市の「石川勤労者医療協会」専務の国光哲夫さん(56)は、選挙のたびにそんな高齢者を見てきた。

例えば、特別養護老人ホームの施設長を務めていた二〇〇九年の衆院選。政権交代のかかる選挙だった。「戦争を経て、政治に参加する大切さを心に刻んだ世代。選挙は行って当たり前という人たちです」。国光さんはどう「一票」につなげていくか苦心した。

都道府県の選挙管理委員会が指定すれば、施設内で投票できる制度がある。だが、規模が規定に達していないと却下された。

ならば、期日前投票に行こう。だが、人手に限界があり、連れ出せる人数は限られた。何とか投票所に連れて行けても、「公正な選挙のため」と、投票所に入れるのは本人だけ。受付で生年月日を言えなかったり、期日前投票の理由に印を付けられないなどで、あきらめる人もいる。

受付が済んで投票用紙を手にしても、手書きで記入できるか怪しい人も。その時は選管職員がサポートする決まりだが、本人にとっては、いきなり見ず知らずの人の指図を受けるようなものだ。パニックになり、投票どころではなくなる。

「認知症でも軽度なら、家族やスタッフ相手には正常な判断・意思表示はできる」と国光さん。「投票所など建物のバリアフリーは進んでも、制度のバリアーはなお高い」と訴える。

施設内で不在者投票ができる「指定施設」でも、実際に「一票」につながるかどうかは、どれだけ手をかけるかに左右される。

名古屋市の介護老人保健施設「セントラル内田橋」事務次長の鈴木章夫さん(42)は「選挙があれば、まず投票するかどうかをヒアリングします」という。投票用紙を申請し選挙公報を配り、投票用紙に書いてもらう。体調などによっては代筆も可能だ。投票用紙は二重に封をし、確実を期して投票日の前日までに選管に届くよう日程を組んでいる。

「意思の表し方は人それぞれ。くみ取るには介護の技術が必要です」と鈴木さん。票を生かせるのはスタッフのスキルがあってこそだ。

在宅介護はさらに厳しい。郵便投票ができるのは要介護5だけ。4以下は基本、投票所に行かねばならない。父母を介護している私の感覚では、要介護3とされる範囲であっても重いと外出困難。4だと、ほぼ寝たきりなのだが。

「認知症が加わると、1でかろうじて投票できるとして、2では…」。腕を組むのは「認知症の人と家族の会」愛知県支部代表の尾之内直美さん(58)。出口のない問い掛けをして申し訳なくなる。

体の衰えなどで消えている票はどのくらいあるのか。明確な答えを得るのは難しい。それでも、これだけは伝えたい。世の中には投票したくてもできない人が、二百万人以上いる可能性があることを。

(三浦耕喜)

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〈生活部記者の両親ダブル介護〉(9) 消えた有権者 一票が入れられない

http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170201131457989
(2017年2月1日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】

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母に届いた選挙の通知。問い合わせた時のメモ(上部)を消したので見苦しいですが…

政治家ならだれもが、「介護は国家の大事」だと口にする。その課題の当事者なのに、ものが言えないのがもどかしい。一枚の紙を前に腕を組む。

母(81)宛てに届いた地方選挙の入場整理券だ。介護保険の手続きを通じて、母は入院中と役所には届け出ているが、この手の通知はしれっと家に届く。

選挙には欠かさず行く母だった。幼いころ、「大事な仕事をする人を決めに行くんやよ」と投票所にも連れて行ってくれた。そういえば、母がこの人に入れると話した候補の「ポスター」をお絵描きで書いて、家の前の電柱に貼ったことがあったっけ。たちまち母に見つかり、「イハンになるんやよ」とはがされた。でも、母にしかられた記憶はない。

だから、「うーん…」と思うのだ。ダメ元で選挙管理委員会に聞いてみる。「郵便投票ができますよ」と言われたが、認知症のことを話すと、とたんに声がくぐもる。「お気の毒ですが…」。本人の意思確認が明らかでなければだめなのだ。

施設にいる父(79)についても聞いてみる。意思確認はできる。なので、施設を通して手続きをということで、「施設の方にご相談ください」と言う。

だが、私はいつも見ている。施設のスタッフは日々の介護にきりきり舞いで、その上に、膨大な書類づくりにも追われている。制度は猫の目のように変わり、そのたびに負担は増えている。これ以上、仕事を増やすことは忍びなさすぎる。

このようにして、数百万人の人たちが「消えた有権者」になっていくのだろうか。今年は総選挙もあると言われているのだが。(三浦耕喜)

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