5/14・21・28【中日メディカル・西山美香受刑者の手紙】(上)無実の訴え12年/(中)強要されたうそ/(下)「発達」「知能」検査

私がこの事件を知ったのは2012年9/28の2度目の再審請求の記事だった。
冤罪以外の何モノでもないという確信は、弁護団の中に「井戸謙一弁護士」のお名前を見つけたから。
あれから5年たとうとしている。ひどい話だ。警察のハニートラップじゃないか!

元看護助手の呼吸器外し事件 2度目の再審請求

http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20120928152753776
(2012年9月28日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】

弁護団が新証拠提出

滋賀県東近江市(旧湖東町)の病院で2003年5月、入院患者の男性=当時(72)=の人工呼吸器を外し死亡させたとして、殺人罪で懲役12年の判決が確定した病院の元看護助手西山美香受刑者(32)が28日、大津地裁に2度目の再審請求をした。

弁護団の井戸謙一弁護士によると、新証拠として、同型人工呼吸器のチューブが外れても警報器が鳴らなかった例の報告書などを提出。井戸弁護士は「呼吸器のウオータートラップの接続が不完全で空気が漏れていたり、たんなどで呼吸が詰まっていた可能性がある」と指摘。有の決め手となった自白については「警察に誘導された可能性があり、検察庁に素材となった証拠の開示を求める」とした。

西山受刑者の父輝男さん(70)は「娘は刑務所で『人殺し』などと言われて精神的に追いつめられている。1日も早く再審が始まってほしい」と話した。西山受刑者は04年7月に逮捕され、捜査段階で容疑を認めたが、裁判で否認。一審の大津地裁は05年11月に懲役12年を言い渡し、控訴と上告の棄却を経て07年6月に刑が確定した。

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西山美香受刑者の手紙(上)無実の訴え12年

(2017年5月14日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170514171309576

自白を唯一の証拠に、有罪とされる事件は数多い。逮捕後二十日余の取り調べでの自白を裁判で否認しても、無罪になる例はむしろ少ない。

では、ここにある無実の訴えを獄中から十二年間書き続けてきた三百五十余通の手紙を、どうとらえるべきか。もはや一顧だに値しないのか。そんなはずはない。

「再審しんどくて…。でも殺人なんかしてへんし…でも刑務所から出れへんし…くやしくてたまらん」(二〇一六年六月)

元看護助手西山美香受刑者(37)=滋賀県彦根市出身、殺人罪で和歌山刑務所に服役、再審請求中=が両親につづった無実の訴えは、刑の満了を八月に迎える今も続く。

事件は〇三年、植物状態の男性(72)が病院で死亡。警察は、異常を知らせる人工呼吸器のアラーム音を聞き逃した看護師らの業務上過失致死事件とみたが、当夜の院内で「アラームを聞いた」との証言は得られなかった。

手紙には無実の訴えが繰り返される(一部画像処理、アンダーラインは家族による)

◆彼女だけが別証言

だが一年後、彼女だけが「アラームは鳴った」と言い出した。県警本部から加わった三十代(当時)のA刑事による取り調べだった。

「鳴っていたはずやと言われ、うそをついてしまいました」(〇六年四月)

怒鳴られ、怖くなったから、という。実際、A刑事は別の事件の取り調べで無実の男性の胸ぐらをつかんで蹴り、懲戒処分を受けたこわもてだったが、優しい顔も巧みに使い分ける取調官だった。

「そしたら急に優しくなって、A刑事のプライベートなこととかいろいろ聞いて私のことを信用していろんな話も聞いてくれてすごくうれしかった」(同)

低学力だった彼女には、難関大学卒の兄二人に対し「自分はだめな人間」という劣等感と、人間関係が苦手で「友だちができない」という深い孤独感があった。

「A刑事に好意をもち きにいってもらおうと必死でした」(〇七年五月)

だが、うそのせいで、日ごろ親身になってくれた看護師の取り調べが厳しくなると、彼女は気が動転した。署に通って取り消しを求めたが相手にされず、とうとう「私が人工呼吸器の管を抜いた」と警察すら予想しなかったことを口走った。

獄中手記にはこう書く。

「○○看護師のことを母子家庭ということ、責任が重大だからといって夜おそくまで調べられていると聞かされ、かわいそうになってしまい/私の責任にすれば○○さんはたすかると思い…」

“自発的な”供述を信じた警察は〇四年、彼女を殺人容疑で逮捕、資格が不要な看護助手の待遇への不満から病院を困らせようとした犯行、と発表した。

「病院に対する不満もきかれたので言ったら/Aにかってにストーリーを作られ/ころそうなどとは思ってないのにと思ったが、いつも以上にAが私に対してやさしかったので、ついほろほろとなり」(獄中手記)

◆刑事に特別な感情

裁判では、警察も否定できない事実が次々に明らかにされた。彼女が取り調べ中にA刑事の手に手を重ねた。刑務所に移送される直前に抱きつき「離れたくない。もっと一緒にいたい」と訴えた。A刑事も拒まず、「頑張れよ」と肩をたたいた。A刑事の求めで、検察官あてに「もし罪状認否で否認してもそれは本当の私の気持ちではありません」という上申書を書いた。

二転三転を繰り返す供述調書は三十八通、「書かされた」上申書、自供書、手記は五十六通。だが、一審で有罪、控訴、上告とも棄却され懲役十二年の実刑が確定した。自ら「殺しました」とうそをつくはずがない、という常識からだ。だが、それは本当に彼女に当てはまる“常識”だったのか。中学時代の恩師から気になることを聞いた。

当時教頭だった吉原英樹さん(73)は「思っていることをうまく言えない。今なら発達障害の傾向を疑うかもしれない。知的な面での不安も感じていた」。生徒指導だった伊藤正一さん(69)は「人と接するのが苦手で、いつも一人でいた。やっていないのに認めてしまうことはあると思った」と話した。

「私は○○さんを殺ろしていません」

手紙に繰り返し出てくる、送り仮名の「ろ」が余る彼女特有の訴えが、目をくぎ付けにする。

発達や知的障害に対する司法の無理解が問題視されている。苦手な受け答えでの誤解がもとで、実際に冤罪(えんざい)事件も起きている。西山受刑者の捜査・裁判でも障害の可能性は一切検討されなかった。事件を再検証する。(次回は21日)=大津支局 角雄記

 

西山美香受刑者の手紙(中)強要されたうそ

(2017年5月21日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170523165854377

自白の「自発性」疑問

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両親にあてて「わけのわからなくなって」とパニックに陥った自白の場面を振り返る手紙(一部画像処理)

「呼吸器のチューブを外して殺した」(供述調書)

殺人の手口になるこの供述を、当時24歳の看護助手(資格不要)だった西山美香受刑者(37)=殺人罪で和歌山刑務所に服役、再審請求中=は逮捕される前、取調室で自ら語りだした。強要も、脅しもなかった。裁判での否認を受け入れなかった理由を2005年11月、1審大津地裁の判決はこう書く。

「身柄拘束を受けない状態で/自ら殺人の事実を供述し/自白には極めて高い自発性を認めることができる」

しかし、彼女はその後もずっと「殺ろしていません」(原文のまま)と刑務所から両親に書き続けている。なぜ「自白」したのか。

◆窮地の同僚かばう

「(呼吸器の)アラームは鳴っていたとうそをついてしまい/つじつまがあわなくなって/(看護師の)○○さんにメールしたら『私はもうだれとも話が出来る状態ではない』と届いて○○さんを追いつめてしまったと思いもう私が殺ろしたことにしようと思った」(06年4月の両親への手紙)

重要なのは、殺人という致命的な「うそ」の自白をする出発点は、人工呼吸器のアラームが「鳴っていた」と言ったうそだったことにある。その理由を、弁護士あての手紙で「なっていいひん(=いない)もん(を)なったとは言えんと抵抗してましたが/(A刑事が)机をバンとしたりイスをけるマネをしたり」と書き、大阪高裁にあてた再審の上申書では「(死亡した患者の)写真をならべて/机に顔を近づけるような形に頭を押し付けてきました。こわくてたまらなかった」と訴える。

死亡の背景に、看護師が居眠りしてアラームを聞き逃した「過失」があったとみる警察は、死亡から1年たっても「鳴っていた」という証言が取れず、捜査が立ち往生。のどから手が出るほど欲しかった「鳴っていた」との供述を得たA刑事が一転して優しくなる場面を、彼女は同じ上申書にこう書く。

「私は幼いころから兄が優秀で比べられ/他の人は兄と比べて私はだめ人間みたいに言ってきたのに、A刑事は、西山さんはむしろかしこい子だ、普通と同じでかわった子ではない/心を許していこうと思ったじんぶつでした」

Aの好意を受け続けようとして1カ月近く「鳴った」と言い続けた彼女は、当夜の当直責任者の看護師に「聞き逃した」という追及が日ごと激しさを増していると知って責任を感じ、供述を撤回しようと「実は鳴っていません」と書いた手紙を携え、何度も警察署を訪ねている。

「自白」の1週間前には午前2時10分という尋常ではない時間に手紙を届けた。だが、警察はがんとして「撤回」を受け入れず、「居眠り看護師による過失致死」事件に向かって突き進んだ。袋小路に陥った彼女は「鳴っていた」ことにして、同僚を救うしかなくなった。それが「自分のせいにする」ことだった。

殺害の自白をする2日前に書いた自供書にはこうある。

「やけくそで布団をかけたら、なんかジャバラ(呼吸器の管)がはずれたような気がした」

自白した日の自供書ではこう変わる。

「呼吸器のジャバラの部分をひっぱってはずしました」

同じ04年7月2日、A刑事が書き上げた供述調書は最終的にこうなった。

「呼吸器のチューブを外して殺した。私がやったことは人殺しです」

◆自滅して出た言葉

これを判決は「極めて高い自発性がある」と決め付けるが、そうだろうか。「アラームが鳴った」という誤ったことを半ば暴力的に言わされ、強要され続けた「うそ」を前提にした自白は「自発性」を論じるに値するのか。夜も眠れないほど悩み、取調室で自滅していくように出た言葉を「自ら供述した」と額面通りには受け取れない。

「アラームはなっていたと嘘をついたらどんどんうそになってわけのわからなくなってしまいました」(05年8月の両親への手紙)

自白する日の午前中、彼女は病院の精神科を訪れた。「不安神経症」と診断した医師との問診で、驚くべき言葉がカルテに残されている。

「実はアラームが鳴っているのを聞いた。看護師さんが鳴っていないと言うのであわせていた」

警察に強要され続けたうその呪縛から逃れられず、医師にさえ、うその供述をおうむ返しに言うことしかできなくなっていたのか。

最後の言葉は「嘘を続けられなかった。自分は弱いのか?」。うそと本当が倒錯した問いをカルテの最後に見た専門家は言う。

「うつ状態。いつ自暴自棄になってもおかしくない」

自白の供述は、診察の数時間後だった。(次回は28日)=大津支局 角雄記

 

 

西山美香受刑者の手紙(下)「発達」「知能」検査

(2017年5月28日) 【中日新聞】【朝刊】【その他】
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170530132704973

「無防備な少女」に再審を

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「いつもこれくらいスピード出していても…」。白バイ警官との応答を見る検査で西山受刑者の「無防備」な性格が表れた

刑務所の面会室。アクリル板越しに発達障害の傾向を見る検査の設問で、精神科医と臨床心理士は、その回答に目を奪われた。

「学校の前だというのに、時速60キロも出したりして一体どこへ行くつもりですか?」。白バイ警官に運転者が答える場面で、彼女は「すみません。いつもこれくらいスピード出していてもなにも言われなくて…」と書き込んだ。

「家族が病気で、とか何か弁解するのが普通。何とも無防備な答え」「不用意なひと言で、さらに窮地になることが想像できていない」。ともに数百人以上にこの検査をした経験から「自分を守ろうとする意識がまるでない答え」と口をそろえた。

自白に障害影響か

「殺ろしていません」(原文のまま)。350余通の手紙で両親に訴えてきた元看護助手(資格不要)西山美香受刑者(37)=殺人罪で懲役12年、和歌山刑務所に服役、再審請求中=の発達・知能検査を、私たちは弁護団と協力し4月中旬、行った。恩師や家族の取材から、不自然な「自白」に何らかの障害が関係しているのではないか、と考えたからだ。

「男性の気を引きたいというだけの理由で虚偽の殺人を告白することは通常考えられない」

2005年、大津地裁は判決でそう断じた。もしも、障害を伴う未熟な被告であれば「通常」の前提はまるで変わるはずだ。逮捕から2カ月、ことの重大さにそぐわない手紙が両親に届いている。

「こっち(拘置所)はご飯もおいしいし、おやつがでるし、夏やったらアイスがでるんやで〜/早くさいばんすんで家に帰りたいわ」(04年9月)

次第に大きくなる後悔の言葉もどこか幼い。「やってもいないことをやったといい、こんな結果になってごめんなさい」(06年10月)

臨床の現場で多くの発達・知的障害の人に接してきた小出将則医師(55)=愛知県一宮市、一宮むすび心療内科院長=は、両親との面接、すべての手紙、小中学校の通知表、作文を調べた上で臨床心理士の女性(50)と西山受刑者の発達・知能検査に臨んだ。

結果は知能が「9〜12歳程度」で軽度知的障害と判明。不注意や衝動性がある注意欠如多動症(ADHD)が明確になり、こだわりが強い自閉スペクトラム症(ASD)も「強い傾向」が示された。

小出医師は「ある程度の知的レベルがあるがゆえに、周りが気づかず、“通常”の扱いを受けてしまうゾーン。同じような人は多い」。検査に立ち会った第二次再審の主任弁護人、井戸謙一弁護士は彼女と何度も面会し、手紙のやりとりを続けるが、結果は「意外だった」と言う。一審、第一次再審の弁護人の誰ひとり「障害」に言及していないことが、見た目や普段の会話から判断する難しさを裏付ける。

検査中、話のつじつまがあわなくなると途端に口ごもり、黙りこくる様子を見た臨床心理士は「10歳前後の子どもは、困ったときにつじつまの合わないうそを後先考えずに言ってしまうことがある。彼女がそうだったとしても不思議ではない」と話した。

植物状態だった患者=当時(72)=の人工呼吸器のアラームは鳴らなかった。しかし、彼女は刑事に威圧されて「鳴った」と言った。優しくなった刑事を好きになり「鳴った」と言い続け、同僚の看護師が「居眠りして聞き逃した」疑いで厳しく追及された。助けようと、供述の撤回を何度も警察に求めたが拒絶されて追い詰められ、うつ状態になり「私が殺ろしたことにしようと思った」(06年4月、両親への手紙、原文のまま)と打ち明ける。

筋書きに乗って?

大人でさえ判断を誤りかねない状況に、もし「パニックになりやすい傾向のある子ども」が置かれたら…。知的障害を伴う発達障害は「パニック状態で判断力を失い、自暴自棄になりやすい」と小出医師は言う。だとすれば、うその「自白」が何をもたらすかの想像力を欠く「無防備な少女」が捜査機関の筋書きに乗せられ、その「うそ」を根拠に裁かれた可能性がありはしないか。

発達障害者支援法が施行されたのは一審大津地裁判決と同じ05年。その10年後、第二次再審請求を棄却した大津地裁の決定は「自白の信用性は、裁判官の自由な判断に委ねられるべき」だと説く。自白偏重の古い体質を改め、支援法への深い理解を踏まえていなければ、その自由は独善にすぎない。

彼女の障害は決して「まれ」ではない。同じ困難に苦しむ人は誰の隣人にもいる。一刻も早い再審を求めたい。

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http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170514171309576

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http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20170523165854377

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