6/16「現代の治安維持法」の異名 「共謀罪」成立で失ったもの【東京新聞・特報】

映画『共謀罪、その後』第1話

映画『共謀罪、その後』第2話

茶色の朝』は4年前に載せていたようだ。

 

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「現代の治安維持法」の異名

「共謀罪」成立で失ったもの

 民意を代表する 議会の権威 喪失

  先進国から逸脱 海外の評価 喪失

  国民的合意なく 法への信頼 喪失

   密告社会による 人間の品位 喪失

 

2017年6月16日【東京新聞・こちら特報部】

 

「現代の治安維持法」の異名を持つ共謀罪が十五日朝、成立した。日本版「茶色の朝(ファシズムの到来を描いたフランスのベストセラー)」の再来か。与党や警察官僚は大喜びだろうが、同法の成立でこの国は多くのものを失うだろう。それは国会の権威であり、海外からの評価であり、人びとの能動的な順法精神であり、密告のまん延による社会の「品」だ。それらの喪失は容易には取り戻せない。(橋本誠、三沢典丈)

 

衆参両院の政治倫理綱領(一九八五年)には、議員 は「主権者たる国民から国政に関する権能を信託された代表」で、「国民の信頼に値する高い倫理的義務に徹し」「政治不信を招く公私混淆-こんこう-を」断つことが課せられているとある。

先月二十、二十一日に実施した共同通信社の世論調査では、共謀罪法案の政府説明が十分とは思わないとの回答が77・2%。にもかかわらず、与党による強行採決は綱領の「建前」と、それに基づく国会の権威を完膚なきまでに砕いた。

端的だったのは委員会採決を飛ばし、本会議で中間報告という手法で採決したことだ。神戸学院大の上脇博之教授(憲法)は「本来、中間報告は緊急時に委委員会を経ずに本会議で議決できる極めて例外的な規定。『緊急の場合』を、多数派の恣意的な判断で行えば、常に数のカで決められることになってしまう。今回は会期の延長もしておらず、緊急の場合とは言えない。極めて異常だ」と憤る。

元参院議員の平野貞夫氏は「現憲法下では、委員会で細かい実質的な議論をする委員会中心主義が不文律となってきた」と、中間報告の適用は国会が議論の場としての体裁をかなぐり捨てたと指摘。「戦時体制の総仕上げとなる共謀罪を成立させた国会運営は崩懐している。憲政の常道から外れている」と批判した。

安倍政権に対する欧米メディアの批判は、歴史認識問題から特定秘密保護法、新安保法制、共謀罪制定への動きを通じ、加速してきた。論調の核は先進国が共有する「民主主義」からの逸脱だ。戦前の全体主義への回帰を案じるニュアンスが込められている。

とりわけ共謀罪をめぐっては、日本政府の「脊髄反射」が驚きを呼んだ。国連の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が、首相宛てに送った懸念と見解を求める公開書簡に対し、自本政府が説明でなく、抗議文を送るという対応をした件だ。

カナダ出身で、元日本外国特派員協会会長のアンドリュー・ホルバート氏は「ケナタッチ氏の指摘は妥当だろう。既に日本には警察にとって便利な法律がたくさんあって、共謀罪はいらない。日本は秘密保護法でも国連の特別報告者に待ったを掛けている。言論の自由が脅かされていると国連に指摘されるのは、国連を重視する模範国家のあるべき姿ではない」と案じる。

ホルバート氏は共謀罪などの制定で、民主主義国に不可欠な市民的自由が保てるのか、疑問を呈した。

国際NGOの国境なき記者団が発表する「報道の自由度ランキング」で、日本は年々ランクを落とし、今年は主要七カ国で最低の七十二位。自由の面で「先進国」という海外の評価は次第に溶解しつつある。

 

法は国民的合意の上にしか成り立たない。だが、今回の成立過程は、国民の法への信頼さえも失わせた。これは今後、人びとの順法精神を侵食しかねない。

日本大の岩井奉信教授(政治学)は「共謀罪は人権にかかわる問題が多い。本来、二百七十七の適用犯罪全てについて、具体的な質疑をするべきだった。それなら議事録が一定のガイドラインになる。だが、現状はどう運用されるか、白紙に近い」と懸念する。

政府を代表する金田勝年法相の答弁が二転三転したことも、不信に拍車を掛けた。岩井教授は「あえて答弁能力のない大臣を起用して解釈をあいまいにし、捜査当局が使い勝手のよい法律にしようとしたのではと勘繰りたくなる」と批判する。「国民の多くが共謀罪を『怖い』と感じている。安倍政権がよろいをむき出しにしてきた印象だ」

共謀罪は戦前、戦中の思想弾圧の中核を担った治安維持法と酷似している。同法違反に関われたプロレタリア作家・小林多喜二は警察の拷問で虐殺された。

だが、金田法相は二日の衆院法務委で、同法を「適法に制定され、刑の執行も適法」と肯定している。

京都大の高山佳奈子教授(刑事法)は「強引に成立させたのは、加計学園の疑惑隠しではない。人員過多になった警察官の仕事を増やしたいのと、米中央情報局の元職員スノーデン氏が語るように、個人の電子メールを監視する米国に捜査情報を提供する狙いではないか」と指摘する。

国民的な合意抜きの治安法の成立。その運用が一方的に警察権力に委ねられる以上、共存のために法を尊重しようという国民の順法精神も毀損-きそん-されかねない。

高山教授は「日本は権力が拘束される法治国家のはずだったが、国家権力が国民の生活を統制する警察国家に取って代わられようとしている」と危ぶむ。

短編映画「共謀罪、その後」(二OO六年。ユーチューブで一、ニ話を公開中)は共謀罪によって、市民による密告が常態化した監視社会を描いている。

首相を批判する漫画を掲載した週刊誌の編集部が舞台。首相側から公に抗議されていたが、編集幹部は「首相は公人」と連載続行を決定。だが、編集部員が警察に密告し、編集幹部二人は組織的に首相の信用を損ねた共謀容疑で逮捕。編集部の注文に従った社外のイラストレーターは主犯として逮捕される。編集幹部が警察の誘導で「イラストレーターが犯行を主導した」と、事実と異なる供述をした経緯が明かされる。

「共謀罪に反対する表現者たちの会」の作品で、脚本を書いたのはジャーナリスト寺沢有氏。公開後、「大げさでは」と指摘されたというが、「何か問題が起きると、出版社が社員ではなく、外部ライターに全責任を負わせるケースはよく見てきた。大半は実体験に基づいている」と語る。

寺沢氏は警察と暴力団の癒着を取材していた際、警察に尾行された。裁判を起こすと、警察側は理由を「オウム真理教捜査の一環」と回答し、裁判所も事実と認定したという。「こうしたでっちあげは共謀罪を使えば、一段と容易になる。共謀罪で、最初に目を付けられるのは反権力のジャーナリストなどだろう」

寺沢氏は共謀罪が市民社会に及ぼす影響を「会社で顔を合わせる同僚すら信用できず、警察の介入を受けると、みんな雪崩を打って保身に走る」と警告する。

密告のまん延と相互不信の増殖。それが法の名で正当化される。そうした現象は社会が歴史的に培ってきた道理や人情という不文律を破壊する。失われるのは社会や人の「品格」だ。

(デスクメモ)
共謀罪導入を警察官僚は夢見てきた。集団的自衛権行使は自衛隊官僚の願望だった。現政権は警察と自衛隊の「野心」を満たしてきた。頼みの綱を「暴力と威嚇」に求めるゆえだろう。それにひるむ人、こびを売る人はいよう。しかし、理想主義者は貪欲だ。その欲深さを追求したい。(牧) 2017・6・16

参院本会議で共謀罪法案の採決の投票を終えて、自席に戻る民進党の蓮紡代表(右下)。左上は金田法相=15日、国会で

治安維持法体制下の1933年、警察の拷問で虐殺された小林多喜二の遺体を囲む作家仲間ら=伊藤純さん提供

密告社会をテーマにした映画「共謀罪、その後」の一場面=動画投稿サイト「ユーチューブ」から

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