10/4大政翼賛会 再現か/自民、希望 軸足は右/三極へ再編の可能性/物言えぬ空気 強まる懸念【東京新聞・特報】

大政翼賛会 再現か

 自民、希望 軸足は右

  戦時下 政党政治消え、総力戦ヘ

2017年10月4日【東京新聞・こちら特報部】

 

希望の党結党と民進党の事実上の解体を受け、衆院選後は戦時中の「大政翼賛会」の再来ともいえる状況が生まれるのでは、と危ぶむ声が上がっている。安倍首相率いる自民党と希望の党は改憲、国粋主義的な傾向などで一致。この右派二党が衆院を席巻し、議会が機能不全に陥るという観測からだ。かつて政党政治にとどめを刺した大政翼賛会。ただ、この見方には歴史家の間でも見解が分かれている。意見を聞いてみた。 (安藤恭子、白名正和)

 

「戦前の大政翼賛会と同じ。民主主義が死ぬ」「複数政党制の形態をとった大政翼賛会づくりでは」

民進党の前原誠司代表が希望の党への合流を表明して以来、ネット上ではこうした声が上がっている。

根拠は希望の小池百合子代表の政治理念が安倍首相とほとんど変わらないからだ。改憲方針を明言し、関東大震災で虐殺された朝鮮人への追悼文送付を取りやめた。「原発ゼロ」を掲げてはいるが、希望の党が公認候補者に署名を求めている政策協定書にはない

そんな希望に民進党が合流すれば、自民に次ぐ右派の「別動隊」になりかねない。小池氏の側近の若狭勝氏は一日NHKの討論番組で「(政権奪取は)次の次ぐらいの時」と発言しており、当面の安倍政権の継続を事実上、容認した。左派とリベラルの一掃こそが本当の狙いでは、との観測がささやかれている。

では、例えられる大政翼賛会とは何だったのか。大政翼賛会は一九四O年結成の戦時体制におげる官製の国民運動団体だ。総裁は首相が兼ね、支部長は道府県知事が担った。

明治以降の日本が一気に大政翼賛会まで進んだわけではない。東京大の坂野潤治名誉教授(日本近代政治史)によれば、政治は対外進出で権益確保を目指す「帝国」勢力と、普通選挙の導入などを図る「立憲」勢力がせめぎ合っていた。

一八年、富山県で米価の暴騰に不満を抱いた民衆が米屋や富豪を襲撃する「米騒動」が起き、時の寺内正毅内閣が退陣。「平民宰相」の原敬が首相となり、日本で初めて本格的な政党内閣が誕生する。大正デモクラシーの流れだ。

しかし、二三年の関東大震災で状況は暗転する。混乱の中、朝鮮人たちとともに、無政府主義者の大杉栄や労働運動家が殺された。二五年には満二十五歳以上の男子を対象に普通選挙法が制定されたが、同時に社会運動を取り締まるための治安維持法が成立した。

満州事変を経て軍部の政治介入が強まり、三二年には海軍将校と右翼が犬養毅首相を射殺する「五・一五事件」が起き、政党内閣に終止符が打たれた。三七年には日中戦争に突入。翌三八年の国家総動員法制定で議会は無力化した。

四O年に発足した大政翼賛会は「バスに乗り遅れるな」の掛け声のもと、全政党が解散し参加。戦争指導体制が一元化された。

坂野氏は「戦争を止められるのはリベラルな政党内閣が存在しているうちだ。一度戦争が始まれば、デモクラシーをうたう『立憲』勢力に出番はなく、民意はたちまち好戦に転じた。実際、大政翼賛会発足後は総力戦に敗北するまで、デモクラシーが息を吹き返すことはなかった」と話した。

 

三極へ再編の可能性

 

現在の大政翼賛会の再来を危ぶむ声について、坂野氏はこう異議をとなえる。

「私はこの状況を、戦時下の大政翼賛会に重ねるのは違うと思う。民進の分裂は米大統領選の民主党予備選でのクリントン、サンダース両氏を思わせる。これまでよりも、多様性が担保され、保守と中道、革新の三極が競う『再編』の時期が訪れるのではないか」

坂野氏は幕末から終戦までの政治を六つの時期に分けてきた。「改革」から「建設」「運用」「再編」「危機」、そして日中戦争から太平洋戦争の敗戦までの「崩壊」の時代だ。

このパターンを戦後にも当てはめ、安倍内閣を異論を許さない「崩懐」の時期と憂えてきた。「衆参で三分の二の働力を持ち、特定秘密保護法や『共謀罪』法案などの治安立法を実現してきた。『安倍一強』は大政翼賛会的なものに極めて近かったと思う」

最も危ぶんだのは、首相が五月に打ち出した「九条を残し、自衛隊を明文化する」という改憲案だ。「自衛隊法には、陸海空三隊に対する首相の最高指揮監督権がうたわれている。この改憲案が通れば、首相の指揮監督権は明治憲法の天皇大権に通じる強大なものとなる恐れがある

一方、希望の党は衆院選後、安倍政権の改憲に足並みをそろえるという見方が強い。だが、坂野氏は「小池氏は右派でも、安倍首相に批判的な中道が主な支持層となれば、配慮せざるを得ない。改憲の中身も打ち出せておらず、解散で改憲は遠のいた」とみる。

北朝鮮情勢などを念頭にこれからの政治家に「定見と強い意志」を求める。

「戦前の日本では軍部の統帥権が内閣から独立しているので、内閣が戦争を防げなかったというのは誤りだ。八十年前、日中全面戦争に突入させたのは、中国派兵を閣議決定した近衛文麿内閣だ。指導者に戦争を避けようとする意志があれば、拡大は防げた」 さらにこう続けた。

いまの日本に改憲だ、政界再編だと、空中戦のような政治をやっている余裕はない。足元の格差や貧困問題に取り組み、若者たちの将来を支える政治こそが必要だ

 

(((デスクメモ)))
英国では社会主義者を公言するコービン労働党党首の人気が上昇中だそうだ。日本では「災い転じて福となす」ではないが、希望の党騒動で、不鮮明だった民進党と周辺の政治的な分布がすっきりしてきた。歓迎すべきことだ。リトマス試験紙はいまも判別中。この結果を生かしたい。(牧) 2017・10・4

 

大政翼賛会の発足に際し、近衛文麿首相の発声で万歳をする人びと=1940年10月、首相官邸で

「日本政治は危機を脱し、再編に入った」と語る坂野潤治東大名誉教授=3日、東京都大田区で

北朝鮮による弾道ミサイル発射を受け、全国瞬時警報システム(Jアラート)作動を想定した児童らの避雌訓練=先月8目、東京都千代田区で

 

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 物言えぬ空気強まる懸念

「大政翼賛会については政党政治の消滅という側面が強調されがちだが、上意下達の『公事結社」として都市では町内会、農村では部落会、最末端は隣組に組織し、民衆を互いに監視させる体制でもあった」

早稲田大学アジア太平洋研究センターの福井紳一・特別センター員(日本近現代思想史)は、こう指摘する。「現状はこうした負の側面が復活しつつある」

翼賛体制下では、数軒を一単位として食糧や生活必需品を配給する隣組を土台に、空襲に備えたバケツリレー、高齢者や女性による竹やり訓練が実施された。

「いずれも実効性はないが、訓練を通じて上意下達で命令に従わせることが狙いだった。民衆側も積極的に従い、異論が言えない空気が醸成されていった」

福井氏はこうした訓練を北朝鮮のミサイルを巡る全国瞬時警報システム(Jアラート)の訓練に重ねる。

「頭隠して尻隠さずのポーズを取っているが、あれではミサイルから身を守れないことは分かっているはずなのに、声を大にして言えない。こうした現状は翼賛体制下と似ている」

さらに福井氏は衆院選の結果次第では、こうした状況が進むと警告する。

「自民と希望の党が多くの議席を取り、連立を組めば、かつての大政翼賛会と近似した状況が生まれる。安倍首相と小池氏は戦争を想定した国家づくりを目指している点、教育を通して国民を統制しようという点などで通じる。手を結ぶことは不自然ではない。十分に注意する必要がある」

  大政翼賛会発足までの主な出来事

1914(大正3)年△第1次世界大戦
18△米騒動が発生。原敬内閣が発足し、初の政党政治実現
22△日本共産党の結成、全国水平社の設立
23△関東大震災。朝鮮人らとともに大杉榮など左派政治活動家を虐殺
25△普通選挙法、治安維持法を公布
28△共産党への大弾圧(~29)、治安維持法に死刑を追加
29(昭和3)△世界恐慌
32△海軍青年将校や右翼が犬養毅首相暗殺(5.15事件)
33△国際連盟脱退、滝川事件
35△天皇機関説事件
36△陸軍青年将校らによる2.26事件
37△日中戦争が勃発。国民精神総動員令運動始まる。
38△国家総動員法を施行。政府が人や物資を議会を通さず動員可能
40△大政翼賛会が発足

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