10/30核廃絶へまず一歩を 唯一の解決法は対話 ゴルバチョフ氏インタビュー詳報/日ロ友好ヘ条件整う/ ウクライナ問題続く【東京新聞・核心】

核廃絶へまず一歩を 唯一の解決法は対話 ゴルバチョフ氏インタビュー詳報/日ロ友好ヘ条件整う/ ウクライナ問題続く

【東京新聞・核心】2017年10月30日

 

世界の核兵器の九割以上を保有するロシアと米国による核軍縮が停滞していることに、ゴルバチョフ元ソ連大統領は本紙のインタビューで強い懸念を示した。(モスクワ・栗田晃)=1面参照

 

 威嚇の手段に

「核兵器なき世界」に代わる目標は存在しない。常に核兵器とは何かを意識し、廃絶を成し遂げるべきだ。
最近、核兵器の使用が(国家間の)威嚇に利用されていることに大きな不安を抱く。危険な傾向には、共同で対抗すべきだ。原爆投下や原発事故を体験した はその戦いの先頭に立つべきだ。それは日本とロシアだ。
まず第一歩を踏み出すのが重要だ。私自身は、一九八七年の中距離核戦力(INF)廃棄条約が第一歩になった。(条約調印前に)アイスランドのレイキャビクで行われた米ソ首脳会談は、最終的な合意に至らなかったため、決裂したとよく言われた。しかし、会談は大量破壊兵器の廃棄への大きな一歩だったことを忘れてはいけない。その結果、大規模な核軍縮が始まった。
米ロは核軍縮に向け、迅速に行動すべきだ。問題の唯一の解決方法は平和的な対話だ。米ロ両大国が努力をともにすれば、人類の最も重要な目標である「核兵器なき世界」に到達できる。

 信頼醸成

日ロは最近、両首脳がよく会談し、最も困難な問題を話し合っており、こうした動きに満足している。未解決で困難な問題があっても協力できる、と世界に示している。私は全面的な日ロ関係の発展をいつも支持してきた。(ソ連の最高指導者として初めて訪日した)一九九一年には海部俊樹首相(当時)とそれについて話した。
ロシアと日本の間にはこれまで、多くの時間が無駄に費やされたが、友好的な関係を発展させる必要な条件は整っている。既存の問題は、相互理解、信頼願成によってのみ解決できる。

 米ロ関係

これまで何度もロシアと米国の大統領に「対話こそ重要だ」と言葉を向けてきた。二国間関係は、深刻な危機にあり、出口を探すべきだ。
簡単な道ではないが、三十年前の米ソの対話も簡単ではなかった。正しい道から誤った方向に導こうとする敵や、不幸を願う人がいたからだ。結局、両国の指導者の政治的な意志が決定的な役割を果たした。その意志が必要だ。

 欧州情勢

多数の命をったウクライナ危機は終わっていない。ロシアと欧州連合(EU)の関係は急激に悪化した。
ロシアを含めた欧州共通の安全保障の枠組みが必要だ。現在、ロシアも加盟する欧州安全保障協力機構(OSCE)は軍事力を持たず、影響力は弱い。強大な兵器や基地を持つ北大西洋条約機構(NATO)は加盟国のみを守っている。
かつてドイツのゲンシャー元外相や、フランスのミッテラン元大統領は、欧州で全権を委任された特別な安全保障会議を設立することを提案した。旧ソ連崩壊後、欧米の指導者は「それは必要ない」と提案しなかったが、ウクライナ危機を見れば、近視眼的だったことが分かる。

 ロシア内政

ロシアは今、国際問題だけでなく、経済停滞、国民生活水準の下落、汚職や不当利得、貧困、教育や健康、科学の劣化などの内政問題も深刻だ。
プーチン大統領は毎年の年次教書演説でそれらを強く問題提起している。しかし、政治と国家管理体制の大きな改革なしに解決はできない。ロシアは国民に支えられた民主主義の下でのみ成功できる。政治的な競争、真の多党制、公平な選挙、交代可能な政権を実現する機は熟している。

 

(写真)平岡敬広島市長(左)の案内で原爆ドーム前を散策するゴルバチョフ元ソ連大統領夫妻=1992年4月、広島中区の平和記念公園で

 

 「核戦争に勝者なし」重い訴え

(解説)
米ロ首脳に「核兵器なき世界」の実現を迫り、世界唯一の被爆国で原発事故も体験した日本にも積極的な役割を求めたゴルバチョフ氏の言葉は危機感に満ちている。

米国と旧ソ連は中距離核戦力(INF)廃棄条約調印後一九九一年には第一次戦略兵器削減条約(START1)を結び、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などを削減する流れもつくった。

二OO九年には、当時のオバマ米大統領がプラハで「核兵器なき世界」を訴え、米ロは一O年、戦略核弾頭の配備数を一八年二月までに史上低水まで減らす新戦略兵器削減条約(新START)に調印した。

しかし現在、新たな合意を結ぶ機運はまったくない。ロシアのプーチン大統領は一五年三月、前年のウクライナ南部クリミア半島併合後に「核兵器を使う用意があった」と語り、世界に衝撃を与え、最近もICBMの発射実験を繰り返す。トランプ米大統領も就任直後、マティス国防長官に核兵器の近代化を含む核戦略の見直しを指示。北朝鮮の核・ミサイル開発に対し自国の核戦力をちらつかせて威嚇する。

米ロは国連で七月に採択された核兵器禁止条約に参加せず、米国の「核の傘」に頼る日本も足並みをそろえた。国連の委員会で二十七日採択された日本主導の核兵器廃絶決議は条約に一切触れず、条約推進国や被爆者から批判されている。

「核戦争に勝者はいない」。米ロ、日本は、ゴルバチョフ氏の訴えを今こそ重く受け止めるべきだ。(モスクワ・栗田晃)

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