1/19原発立地でない埼玉県議会が「再稼働を」の怪  意見書採択 全国初【東京新聞・特報】実態は行き詰まり 「推進派に焦りも」

原発立地でない埼玉県議会が「再稼働を」の怪     意見書採択 全国初

【東京新聞・こちら特報部】2018年1月19日

埼玉県議会は昨年十二月の定例会で、原発再稼働を求める意見書を採択した。原発立地でもなく、福島原発事故の避難者らが暮らす自治体で「なぜ」と首をかしげざるを得ない。ただ、福島事故の記憶の風化が根底にあることは確かだろう。実際見回すと、原発の再稼働どころか、新増設を射程に入れた動きまで始まっている。ただ、使用済み核燃料の保管場所もなく、結論はもう出ているに等しい。 (池田悌一、大村歩)

 

風化進む 事故の記憶

県内に避難者多数「非常識」抗議の声

 

自民党の埼玉県議ら十一人がこの意見書案を県議会に提案したのは、定例会最終日の先月二十二日。

タイトルは「世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働を求める意見書」。エネルギーの安定供給には原発が不可欠とし、「再稼働を進めるよう強く要望する」と求めた。

意見書案は同日、自民などの賛成多数で可決され、衆参両院議長らに提出された。衆院によると、都道府県議会が意見書で再稼働を求めたのは初めてだ。

なぜ原発立地でない埼玉から働きかける必要があったのか。自民県議団の田村琢実政調会長は「支援団体からの要望を受け、県議団で協議し、このような意見書が必要だと判断した」と説明する。どの団体からどんな要望があったか尋ねたが、「お答えする義務はない」と回答は拒まれた。

自民のベテラン鈴木弘県議に聞くと「経緯は知らないが、今は原発が必要だ。こんな意見書は埼玉が最初なんでしょ。全国に先駆けたってのはいいんじゃないの」と笑顔。ある県政関係者は「自民党本部の指示では」とみるが、党本部は「党として働きかけたことはない」と否定した。

民進党系会派の浅野目義英県議は「これまで自民は反原発の野党質問にヤジを飛ばすことはあれ、原発政策で突っ込んだ議論はしてこなかった。この意見書はあまりにも唐突。『自分たちに頼めば数のカで何でもしてあげられる』と支援者にアピールしたかっただけでは」と推察する。

確かに埼玉県議会は定数九三(欠員七)中、自民が五十二議席を占める。共産党の柳下礼子県議は「本来、意見書の採択は全会一致が原則」と憤り、動機については「再稼働を進める安倍政権への点数稼ぎでは。あまり深く考えてないと思う」と冷ややかだ。

ただ、埼玉県は福島原発事故と無縁ではない。事故後、福島県双葉町の住民千人以上が埼玉県加須市の廃校した校舎に避難した。避難所は閉鎖されたが一日現在、四百四十六人が市内で避難生活を続ける。県内全体の双葉町からの避難者数は八百二十二人で、福島県外では全国で最も多い。

この意見書に埼玉県平和運動センターなどは抗議。撤回を求める抗議文には、三千百三十人・百四十一団体が賛同した。十日には、百五十人で県庁前をデモ行進し、賛同者名を添えた抗議文を県議会に提出した。

同センター副議長の金子彰さん(六0)は「あまりにも非常識だ」と非難しながらも「反原発集会の参加者は年々減っている。こんな意見書が出てきてしまう背景には、風化もあるのではないか」ともつぶやく。

実際、街中で買い物をしていた主婦(七O)は「原発事故直後は水道水とか気になったけど、いまは何とも。なぜこんな意見.が出たのかは不思議」と話した。

なし崩し 新増設の動きも

国民負担増すばかり

実態は行き詰まり 「推進派に焦りも」

 

埼玉県総会の唐突な意見書可決は、なし崩しに進んでいる再稼働の動きと無関係とは言えないだろう。

現在、国内で稼働中なのは関西電力高浜原発3、4号機、九州電力川内1、2号機の四基。関電大飯原発3、4号機や四国電カ伊方原発3号機も定期点検中だが、再稼働している。

これらに加え、原子力規制委員会の適合審査に「合格」した再稼働待機組が続く。東京電力柏崎刈羽原発6、7号機、高浜1、2号機、関電美浜原発3号機、九電玄海原発3、4号機の七基だ。柏崎刈羽を除けば、地元自治体が早期の再稼働を求めており、ハードルはないも同然だ。

十四基もの原発に「合格」を出した原子力規制委の審査は、事故が起きた際の周辺住民の避難計画や事故処理を行う電力会社の「体力」までは審査の範囲外で、合否に影響しない。

また、福島事故以前の原子力保安院と同じく、高度な専門知識や経験を持った自前の規制担当スタッフは少なく、主体的なチェックができない。「事業者(電力会社など)側の検討方法が適当かどうかをチェックするのが規制委の仕事」(ある規制委事務局職員)というありさまだ。

しかし、一度規制委がお墨付きを与えてしまえば、再稼働に向けた動きは着々と進み、止まらない。それどころか、原発の新増設を求める声さえも上がる。

経済産業省の有識者会議では昨年八月から、三年に一度、国のエネルギー政策の方針を定めるエネルギー基本計画の改定議論が進められている。

同省側は二O三0年度の電源構成で、原発の比率を現状(一六年度)の2%から20~22%に大幅に引き上げることを想定。有識者側からは「実現するには(再稼働と並行して)新設や建て替えの議論もすべきだ」といった声が上がった。経済団体連合会(経団連)も、基本計画に「新増設」を明記するよう求める提言を出している。

一方、そのツケは国民に払わせようという考えだ。本紙の調べでは、国内の原発の後始末にかかる経費は最低でも四十兆円に上る。この中には福島原発事赦の処理費用二十一兆五千億円も含まれているが、経産省はその一部について本来、原発とは関係ない新電力の契約者にまで、電気料金を上乗せする形で負担させる方針を示している。今後どこまで国民負担が広がるかは見通せない状態だ。

こうした原発推進派の攻勢が、埼玉県議会のような動きに現れたのか。

いや、むしろ焦りの現れでしょう」と話すのは、龍谷大の大島堅一教授(環境政策学)だ。「電力需給は逼迫-ひっぱく-していないし、再稼働しても国民経済にとって意味はない。要は電力会社が自らの資産を自らのために使いたいだけだから、理由付けが苦しい。だから、むちゃな決議でもやってほしいということだろう。いわば断末魔の叫びだ

そもそも再稼働をすればするほど、使用済み核燃料は増えるが、これを一時保管するプールはどこの原発も満杯に近い。中間貯蔵施設(青森県むつ市)はあるものの、中間貯蔵の先にあるはずの再処理工場は未完成。その先の高速増殖炉「もんじゅ」は廃炉となっており、この問題一つとっても、どんどん再稼働させるなど不可能なのだ。

「世界的に、原発より再生可能エネルギーへシフトしている。日本のみならず、米国でも英国でも国の支援なしでは原発はつくれない。原発は経済的に自立できない電源だとはっきりしてきた。そうした実態を覆い隠し、原発推進を堅持する政府・経産省は国民に対して怠慢で、国民経済の足を引っ張っている」

(((デスクメモ)))
故茨木のり子さんの詩に「内部からくさる桃」という作品がある。茨木さんは桃と平和を重ね、人びとの慢心を懸念したが、原発もまた同じ対象に含まれると思う。作品はこう結ばれている。「日々に失格し/日々に脱落する悪たれによって/世界は/潰滅の夢にさらされてやまない」(牧)2018・1・19

昨年12月の定例会で可決された埼玉県議会の原発再稼働を求める意見書.

(上)原発再稼働を求める県議会の意見書の撤回を求めてデモ行進する市民ら=今月10日、さいたま市で
(下)東京電力に原発を運転させて良いのかという疑問を置き去りに、原子力規制委が「合格」とした新潟県の東京電力柏崎刈羽原発6号機(右)と7号機

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