3/14論文捏造の背景~森友改ざんとも共通点~【東京新聞・特報】

今、ちょうど改竄されている論文の話を読んでいる。
絶版になって高額な古本しかないと思っていたら、新訳が出ていたのでとびついた。

小保方なんとかいうのが出てきた時に「限りなくクロに近いグレー」と親族間で話題になったのを思い出した。
あれが父の三回忌とすると、もう四年も経ったのかと驚く。

===================

論文捏造の背景~森友改ざんとも共通点~

2018年3月14日【東京新聞・こちら特報部】

「任期付き」成果ないと失職も

若手研究者 追い込まれ

ポスドク増加 受け皿づくり進まず

 

森友学園関連の決裁文書の改ざんで国政は大揺れだが、アカデミズムの世界もここ数年、論文捏造(ねつぞう)など不正が相次いでいる。原因の一つとして指摘されているのが、教員や研究者の不安定な雇用環境だ。「成果を上げねば、次のポストがない」という焦りが不正の一因になっているという。官僚の不正も政治家に人事権を握られている構造と無縁ではない。モラル順守は当然だが、雇用環境の改革こそ急務ではないか。(安藤恭子、中沢佳子)

 

今年一月、京都大iPS細胞研究所(京都市)で、IPS細胞から脳の血管の細胞をつくったという論文に、実験データの書き換えなどがあったことが発覚した。執筆者は二十代の特任(任期付き〉助教。「論文の見栄えを良くしたかった」という理由だった。ここ数年、こうした論文の不正が相次いでいる。昨年は東京大の分子細胞生物学研究所で、論文のデータ改ざんが見つかった。二O一四年には、国立研究開発法人・理化学研究所でのSTAP細胞をめぐる短造が物識を隠した。他にも複数の不正が発覚している。

一因として指摘されているのが、担当した若手研究者の不安定な雇用形態だ。多くはプロジェクトごとの任期付き(不正規)の雇用で、次のポストを得るために成果を急いだとされる。

関西の私立医大に勤める四十代の女性助教は「成果報告は毎年求められる。成果を上げて次に移らなければ・・・というプレッシャーも常にある」と語る。「論文数など数値目標を設ける研究資金もある。サイエンスとしてあやふやでも『うそはついていないが、ミスリードになるかも』というギリギリの線で報告書を書かざるをえなかったこともあった」と打ち明ける。

女性助教は相次ぐ不正について「期限を切って成果を厳しく求められることが一つの原因。iPS研のように目的が明確な研究機関は、特にプレッシャーが大きいと思う」と話す。

国立大助教などを経験した私立大の任期付き研究者(四四)も「業績を出さないと職がない。新しい求人やプロジェクトのチェックは日課。少子化の中、大学のポストは狭き門」と語る。研究職を諦め、実験や分析機器のメーカーの営業職に就いた知人も多いという。

関西の国立大でパイオ系の研究をする三十代の特任助教の女性も「プロジェクトごとの雇用の場合、半年しか勤められないこともある。私自身、毎年、就職活動をしたこともあった」と振り返る。「研究テーマを優先すると職場を選べず、結婚や出産などに支障も出る。実際、任期付き研究者で働けるのは四十代前半までだと思う」

背景には博士号を取っても、博士常勤職に就けない「ポストドクター(ポスドク)」の増加がある。政府の大学院重点化政策の結果だが、三人は「当初、受け皿には民間や企業も想定されていたはず。でも民間の受け入れは進んでいない」などとロ々に批判した。

大学に残り、研究ポストを獲得するためには「コネづくり」も不可欠。教授らとの関係に心を砕く若手は多い。データを「きれいに整える」、結論にふさわしい画像を使う、不要部分はトリミングするなど不正に近づく作業も教授らの目を意識するからだという。

うまくいかない実験データを認めず、学生や任期付き研究者を「実験が下手と罵る教授」もいるという。

雇用不安で研究力低下

 官僚とも通底 人事の縛り 不正招く

文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査によると、国内の大学などに勤めるこO一五年度のポスドクの人数は計一万五千九百十人で、平均年齢は三六・三歳。次年度も同じ職場で継続する人が七割を占めた。「行き場のない研究者たちの救済策としてできたのが、ポスドクの有期雇用だった。それがいつしか大学や研究機関に都合の良い雇用の調整弁として定着してしまった」。病理医で、研究者の雇用問題に詳しい榎木英介・近畿大付属病院講師はそう説明する。

同研究所が国内の主な十一大学を対象に調査した結果によれば、一三年度に四十歳未満の任期付き教員は65%を占め、六年前の44%から大幅に増えた。

背景には、O四年度の国立大の法人化以降、大学側が使い道を選べる国の運営費交付金が削減されたことがある。それに代わり、増えてきたのが特定のプロジェクトなどに支出される「競争的資金」で、任期付き教員の雇用財源に充てられる機会も増えている。

榎木氏は「プロジェクトごとに研究資金を受けるとなると、雇う側にとって任期付きの方が使い勝手がよい」と指摘する。もちろん、これは若手研究者の望む形ではない。現在、常勤の准教授や教授などの職が公募されると、百倍以上の応募もざらだという。

こうした期限付きの非正規労働の乱用を抑え、雇用の安定を図ろうとしたのが改正労働契約法の「無期転換ルール」だった。これは契約期聞が通算五年を超えた有期雇用の労働者が、定年まで働ける無期契約に転換できるという制度だ。

一三年に施行され、ポスドクの人たちの期待も高かった。だが、同じ年に議員立法で成立した改正研究開発力強化法により、大学や研究開発法人の研究者、教員らは無期契約への転換を申し込める期間を五年から十年に先送りする特例対象とされてしまった。

首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長は「不合理な法改正で、研究者らの人権を侵している」と憤る。「現状は大学の意に沿う研究者でなければ、雇用を更新しないとずっと脅されているようなものだ。先が見えない任期付きで働く研究者たちには、心を壊す人も少なくない」

榎木氏も「博士号を取得して十年ほどの三十代の研究者たちは、キャリアの曲がり角にぶち当たる。低い給与でも雇用の安定がほしいという悲痛な叫びが上がっている」と強調する。

「それに成果主義は否定しないが、行き過ぎた競争や拙速な産業化は日本の科学技術をだめにする」

日本の研究の質の低下を示すデータがある。同研究所が昨年八月に公表した調査では、一三~一五年の平均で日本の科学校術の論文数は十年前より6%減り、国別で米国に次ぐ二位から四位に後退。引用回数が上位に入る論文数では、日本は四位から九位に落ちた。

森友疑惑の公文書改ざんや裁量労働制のデータ捏造など官僚の相次ぐ不正についても、背景には内閣人事局による政治家の人事掌握があるとされる。安倍政権は「政治主導」の名で一四年に内閣人事局を発足し、霞が関の幹部人事を一手に握ってきたが、これが官僚たちの過度の「忖度-そんたく-」を招いていると言われる。

その構造は任期付けで生殺与奪を握られ、「反則」を犯してでも成果を出そうとする一部の研究者たちを取り巻く環境と重なる。

榎木氏は「不安定な雇用の中では、不正防止を研究者のモラル強化のみに委ねても十分ではない。研究の自由と使える資金、才能を育てる時間を提供するとともに、第二の人生を含めた多様なキャリア支援がなくては、研究者の環境は健全化できない」と訴えた

任期付きの助教の論文捏造と改ざんについて、謝罪する京大IPS細胞研究所の山中伸弥所長(手前)ら=今年1月、京都市で

(右) 大学などの教員や研究者について「無期転換申込権発生までの期間が10年に」と記された文部科学省の資料
(左) 参院予算委理事会で財務省が提出した森友学園関連の決裁文書原本の写し=今月8日

(((デスクメモ)))
第二次安倍政権が発足した際「こちら特報部」は政権のネーミングを特集した。紙面に「ネトウヨ内閣」などと並べた結果、本紙記者からも不穏当、偏向とおしかりを受けた。しかし、それから五年余。的を射ていたのではないか。それでも、公文書の改ざんまでは予測できなかった。(牧)2018・3・14

広告
カテゴリー: 中日東京新聞・特報 パーマリンク