6/4福島の被ばく労働 改善されたのか/もの言えぬ作業員/多重下請け 今も【東京新聞・こちら特報部】

東京新聞「ふくしま作業員便り」が不定期になりWeb上でも過去のものしか読めなくなって嘆いていたら、先週末と今日の連日片山夏子さんの記事が特報ページを飾ってくれている。

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福島の被ばく労働 改善されたのか

2018年6月4日【東京新聞・こちら特報部】
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018060402000150.html

東京電力福島第一原発事故の関連で、福島県大熊町で働いていた男性が理由も告げられずに突然、仕事を失った。これまでも原発や除せんなど被ばくの恐れがある場所で働く人たちは突然の解雇やピンハネに悩み、問題が表面化することもあった。背景には「多重下請け構造」があると指摘されている。原発事故から7年3カ月。労働環境は、少しは改善されたのだろうか。 (片山夏子)

 

 

もの言えぬ作業員

 「もう来なくていい」・・・突然の宣告

   仕事は週3だけ 寮も送迎もなし

    「奴隷のようにされるまま」

 

「もう来なくていいから」。三月末、千葉県の作業員男性(五八)が警備の仕事から詰め所に戻ると突然、上司に言い渡された。その場にいた警備員ら十数人は騒然となった。「明日仕事がない人は通行証や(被ばく線量を測る)ガラスバッジ、車の通行証も返して」

男性はハローワークで、日当一万五千円の除せん作業の交通誘導警備員の募集を見て応募。昨年十月からと言われて福島県いわき市に来た。一カ月半待機させられ、十一月半ばから市内の交通整備をあてがわれた。日当は、募集条件の半分の七千六百円だった。

今年二月二十二日から福島県大熊町と双葉町にまたがる中間貯蔵施設の警備に就いた。放射性物に汚染された廃棄物を保管する施設で危険手当が付く。これで日当は募集条件をやや超える一万六千円になった。

ところが、働けるのは週に三日だけ。必要な警備員が二十人なのに、三倍以上の六十六人も名前を連ねていたからだ。寮も送迎のバスもない。住む場所も通勤用の車も自分で確保し、費用は自己負担だった。

そして、来なくていいと言い渡された。「四月から警備の仕事が入る」と会社から説明を受け、「仕事が安定する」と安心した直後だった。社長は「中間貯蔵施設の仕事が無くなった」「会社のせいではないが、待機中の一週間分は休業補償を出す」と言うばかり。それ以上の理由は教えてくれなかった。

会社が紹介すると言った他の仕事は、給料が安かった。中間貯蔵施設の仕事を失った二十数名のうち、納得がいかない男性ら七人が会社に話し合いを求めたが、拒否された。

七人はいわき労働基準監督署と作業員らの相談を受ける「フクシマ原発労働者相談センター」(福島県いわき市)に相談。社長との話し合いの結果、四月一カ月分の休業補償や、未払いだった朝礼時間分の給与など、計三百万円超が七人に支払われた。

だが、男性とともに仕事を失った同県会津若松市の同僚(五四)は「家族の生活設計が崩れた。中間貯施設の仕事はずっと続くと思ってきたのに。ひどすぎる」と嘆いた。男性の会社やその上の会社に「解雇」の経緯について取材を申し入れたが、返答はなかった。

最初の話と違う給料。安定しない雇用。このようなことが起きる背景には「多重下請け」の問題がある。

原発や建設業界などで、発注者から直接仕事を請け負うゼネコンなどは「元請け企業」と呼ばれる。その下に、一次、二次・・・と下請け企業が幾重にも連なる。これが多重下請負けの構造。男性が働いていた会社は三次下請け。元請けとの間に二社が入っていた。

男性は「多重下請けだと、下位になるほど給料はピンハネされる。電力会社や元請けの目も届かず、労働条件も守られない。何も知らないと、奴隷のようにされるままになる」と話す。

多重下請けが問題になるのは、今に始まったことではない。原発本体や除染の作業でもトラブルがあった。その一つが給料や手当のピンハネだ。

二O一二年七月には福島第一原発の元作業員が「賃金がピンハネされた」と労働局に訴えた。男性の日当は一万一千円だが、男性の所属会社の三つ上の会社は手当と給料で約二万五千円を出していた。半分以上が中抜きされた格好だ。一三年七月には、未払いの危険手当などを請求した福島県田村市の除せん作業員二十五人が、約千六百万円の解決金を受け取った。

トラブルの表面化で、危険手当を払う会社は以前より増えた。代わって、宿泊代や食費の名目で給料から天引きする手口が横行。実態は労働者派遣なのに「諦負」を装う「偽装請負」も多い。作業員がけがしたり、病気になったりした時の責任の所在でもトラブルは尽きない。

フクシマ原発労働者相談センター=電0246(27)8700=には開設から三年で約八十件の相談があった。「危険手当が全く出ていない」「契約の三分の二しか払われない」といった声のほか、会社が払うべき健康診断も自費で受けたという相談もあった。

多重下請け 今も

 下位の業者になるほどピンハネ

   「準公務員扱いで 国が直接」

   「うちは雇っていない」責任逃れしやすく

そもそもなぜ、多重下請負け構造があるのか。「工事の都合で、人が必要な時に下請けを使って集め、いらなくなれば解雇するため。必要ない時に従業員を雇っておかずに済む」と原発のベテラン作業員は説明する。だから作業員は急に集められ、突然に解雇される。

さらに上位の会社ほどトラブルの責任を負わなくて済む。「うちが雇ったわけではない」と言い訳できるからだ。福島第一原発で十時間を超える違法労働が問題になった時、下請けや元請けの責任は問えても、作業を発注している東電は難しいとされた。

国土交通省や環境省、東電は、問題の改善に取り組む姿勢を示している。しかし、「中抜きや不払い、待機中の休業補償がないなどの相談は絶えない。除せん作業でマスクを支給せず作業をさせた。暴力団関係の会社で、監視され辞められない。こんな相談もあった。多少改善された点はあるが、変わってない」と同センター代表の狩野光昭・いわき市議は説明する。

確かに被ばくの危険が高い作業を見ても、一日二万円の手当の人もいれば、三千円しかもらえない人もいる。東電が「民間の契約」を理由に、賃金など労務単価や危険手当の金額を明らかにせず、中抜きがあっても分かりにくくなっていることが影響し、差が生まれている。

現役の作業員は声を上げにくいことも、改善がすすまない原因の一つ。狩野さんは「仕事を失う不安がある。ブラックリストに載ると仕事に就けないという話もある。会社から『原発や建設関係で働けなくなる』と脅され、相談を取り下げた人もいる」という。

このまま作業員を酷使すれば、福島で働く人は減り、復興への歩みが遅れかねない。多重下請け構造の問題にかかわる人たちは、国、東電の取り組みが改善に不可欠と口をそろえる。

原発作業員の労働問題を級う木下徹郎弁護士は「多重下請けは、責任逃れや、労働コスト削減に悪用される。発注者の電力会社の責任も問える仕組みが必要だ」。未払い危険手当の請求訴訟で代理人を務める広田次男弁護士は「労働条件の悪化で、ベテランや技術者が次々福島第一を離れている。これでは、廃炉作業は進まない。国が徹底的に労働環境を改善すべきだ」と述べる。

狩野さんは「原発を推進してきた国が責任を取り、被ばく労働をする作業員を直接雇用する。準公務員扱いにするなど多重下請け構造そのものを変えていくしかない」と訴える。

((((デスクメモ))))
福島第一原発で事故が起きた二O一一年日本はデフレ下の不況だった。「福島へ行けばカネになる」とうわさが流れた。「景気回復」と首相が胸を張り、首都は人手不足の一八年。福島の仕事は「うま味はない」と言われている。労働環境の改善は復興どころか後れを取っている。(裕) 2018・6・4

「下位の下請けになるほどピンハネされるし、目が行き届かなくなる」と話す中間貯蔵施設の警備員だった男性=福島県いわき市内で

(右)工事が進む中間貯蔵施設の土壌貯蔵施設=2017年2月 、福島県大熊町で

(左)原発や除せん作業員らの相談が寄せられる「フクシマ原発作業労働者相談センター」の狩野光昭代表(左)ら=福島県いわき市内で

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