<原発のない国へ 基本政策を問う>①から⑥まで【東京新聞・社会7/14~7/19】 

(1)英原発 高コスト浮き彫り
(2)金食い虫 企業も見切り
(3)石炭火力 新増設 時代に逆行 依存なお
(4)むつ市と関電 交錯
(5)核燃サイクル成算なし
(6)「教育」の名の宣伝活動

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<原発のない国へ 基本政策を問う> (1)英原発 高コスト浮き彫り

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071402000130.html
【東京新聞・社会】2018年7月14日 朝刊

日立の原発予定地。後方は取り壊される旧原発=6月、英アングルシー島で(阿部伸哉撮影)

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英国会計検査院が昨年六月、原発推進の妥当性を揺るがす試算を明らかにし、政府批判に踏み切った。「政府は消費者をリスクの高い、高額な計画に縛り付けようとしている」

イングランド南西部で、フランス電力と中国の電力会社が二〇二五年の運転開始を目指して建設を進めるヒンクリーポイントC(HPC)原発。百六十万キロワットの大型原発二基を建てるこの計画で、政府補助が総額三百億ポンド(四兆四千四百億円)に上るというのだ。

なぜ三百億ポンドもの補助が必要なのか。実は、英国では温暖化対策の一環で、原発の電力を政府が高値で買い取り、事業に利益が出るように保証している。HPCの総事業費は百八十億ポンド(二兆六千六百億円)。最新の安全設計を取り入れたため、二百四十五億ポンド(三兆六千二百億円)に膨らむとの報道もある。

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巨額の事業費に見合うように、政府は運転開始後に電力を一メガワット時当たり九二・五ポンド(一万四千円)の高値で買い取ることを保証した。市場価格は四十ポンドほどで、倍以上の高値だ。買い取りは三十五年間続き、差額を積み重ねると三百億ポンドに上る。これが検査院が指摘した国民負担のからくりだった。

政府自身も昨年九月、原発のコストの高さを裏付ける発表を余儀なくされた。二二年から十五年間の洋上風力発電で競争入札を実施し、一メガワット時当たり五七・五ポンドで落札された。同時期に運転開始予定のHPCより四割近く安い。

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「風力は間もなく市場価格まで下がり、補助はいらなくなる。もはや原発が安いとは言えなくなった」。日系エネルギー関連企業の欧州駐在者はその衝撃を振り返る。

コスト差は、日立製作所の子会社が二〇年代半ばに、英中西部アングルシー島で運転開始を目指すウィルファB原発の計画にも重くのしかかる。事業費は三兆円とされ、市場価格では採算が成り立たない。英メディアによると、英政府が提示した買い取り価格は七七・五ポンド程度の見通し。HPCより安く、日立側は英政府の支援強化を求めて正式交渉に入ったが、価格を上げれば世論の反発を招きそうだ。

こうした事態に、原発に反対する住民グループは追い風を感じる。

「バリュー・フォー・マネー(投資に見合う価値)があるかどうか、徹底的に論争を挑みたい」。ウェールズで原発反対運動を続けるニール・クランプトンさん(62)の意気込みは強い。かつて軍需産業でミサイル開発の技術者だっただけに数字に強く、英メディアでコスト面から原発を批判する論客となっている。

「政府は雇用効果を強調してくるだろうが、原発への補助を直接、雇用対策に振り向ければいい」。理詰めで政府を追い込み、英国民に訴えを広げようとしている。 (ロンドン・阿部伸哉)

今月閣議決定した日本政府のエネルギー基本計画では、二〇三〇年の発電量の二割を原発に依存する。東京電力福島第一原発の事故を経験してもなお再生可能エネルギーの大量導入に消極的で、原発を維持し続ける基本政策を、国内外の現場で検証する。

◆日本のエネルギー計画 コスト増反映せず推進

電源別に発電コストを示した、エネルギー基本計画の資料。原子力だけ最安値を示している

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原発推進の理由として、経済産業省は「発電コストが他の電源に比べて安い」と、エネルギー基本計画で示している。

根拠は二〇一五年の試算。掃除機を一時間使った際の消費電力量に相当する「一キロワット時」の発電コストは、太陽光が「二四・二円」、液化天然ガス(LNG)火力が「一三・七円」、水力が「一一・〇円」。原発は「一〇・一円~」とあり、最も安いように見える。

「~」をつけて最安値を見せているのは原発だけ。経産省はその理由を、発電コストに東京電力福島第一原発事故への対応費が入っており、これが膨らむ可能性があるからと説明する。

実際、福島の事故処理費は大幅に増えている。一五年の試算時は一二・二兆円だったが、賠償、除染、廃炉費用とも増え、直近では二一・五兆円に上る。

一五年当時には増大を想定していなかった原発建設費も膨らんだ。一基の建設費は、一五年当時は四千四百億円と想定。その後、三菱重工や東芝が海外で計画した原発は、安全対策のためにコストがかさみ、一基一兆円を超えている。

龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)によると、建設費の高騰を反映させた場合、原発は「一七・六円」にはね上がり、水力やLNG火力を大きく上回る。一七年度の大型の太陽光発電の固定買い取り価格は「一七・二円」まで下がっており、原発の方が高くなる。

基本計画で示した試算では、こうした変化を考慮していない。経産省の担当者は「コスト見直しが必要なだけの大きな構造的変化がない」と説明した。

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一方、経産省は再生可能エネルギーの新たな試算を公表している。再生エネは天候によって発電量が変動するため、安定供給には蓄電池などが必要という前提を置いた。その費用を含めると、「一キロワット時=六九円」に高まるというのだ。

現実には、再生エネの供給が低下すれば、LNG火力の発電量を上げて電気の供給を安定させている。蓄電池が必ずいるわけではない。大島教授は経産省の試算について、「無理に再生エネが高いと印象づけ、世論をミスリーディングしようとしている」と厳しく批判した。 (伊藤弘喜)

 

 

<原発のない国へ 基本政策を問う> (2)金食い虫 企業も見切り

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071502000119.html
【東京新聞・社会】2018年7月15日 朝刊

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米ニューヨーク・マンハッタンの西を流れるハドソン川。摩天楼の足もとから五十キロほどさかのぼると、景勝地として名高い渓谷に二基の原子炉が並ぶ。電力会社エンタジーが計画を十四年前倒しし、二〇二一年までに閉鎖することでニューヨーク州と合意したインディアンポイント原発だ。

「ニューヨーカーの安全と健康を守るためだ」。一七年一月に合意を発表したクオモ州知事は、世界有数の人口過密都市に近い同原発の危険性を「時限爆弾」と表現していた。

ただ、エンタジーが危険性を認めて折れたわけではない。合意の理由は「卸価格の低迷と操業コストの上昇」と同社広報担当のジェリー・ナッピさん(46)は語る。

シェールガス革命による安価な天然ガス発電に押されたうえ、原発は維持管理に必要な安全対策や老朽化対策の費用がかさむ。結果として採算が合わなくなった。

ニューヨーク・マンハッタンから50キロのハドソン川上流にあるインディアンポイント原発。2021年までの閉鎖で合意されている

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ハドソン川の環境を守るためにエンタジーと法廷闘争を続けた地元NPOリバーキーパーのリチャード・ウェブスター弁護士(55)は振り返る。「ガスが原子力と張り合えるとは、かつて予想だにしなかった」

インディアンポイントだけではない。世界全体の25%に当たる九十九基が稼働する米国で、原発の地位低下に歯止めがかからない。

一六年に一基が二十年ぶりに新たに稼働した一方、〇七年以降だけで五原発の計六基が閉鎖。さらにインディアンポイントを含む九原発計十二基が運転停止を前倒ししたり、運転延長を見送ったりする計画だ。

米投資銀行ラザードの推計で、一七年の電源別発電コストは、一メガワット時当たり原子力の一四八ドルに対し天然ガスは六〇ドル。一一年と比べ、原子力は福島の事故を受けた新たな安全対策や老朽化対策で五割増。天然ガスは三割安くなった。

シェールガス依存には、ガス価格の上昇や地球温暖化対策の後退という懸念が付きまとう。原発擁護論の根拠の一つだ。が、原発を脅かしているのは、シェールガスだけではない。

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米国でも太陽光や風力といった再生可能エネルギーの普及が進み、発電コストは天然ガスを下回っている。米エネルギー情報局(EIA)によると、全米の一七年三月の月間発電量で、再生エネが原子力を初めて超えた。

米NPO「憂慮する科学者連盟」でエネルギー研究部門を統括するスティーブ・クレマーさん(51)は「再生エネは天然ガスとの競争にも耐え、市場原理の中で着実に成長を遂げてきた」と指摘した。

原発の閉鎖が相次ぐ中、排ガス抑制や雇用対策のためとして、原発を暫定的に延命させる公的支援の動きもある。それは、もはや独力では立ち行かない原発の脆(もろ)さを表している。(ニューヨーク・赤川肇、写真も)

◆エネ計画では新設・建て替え前提

日本国内の電源構成比率は、二〇一六年度実績で原子力が1・7%。三〇年までに20~22%に引き上げるとしている。そのためには原子力規制委員会が審査中の原発がすべて再稼働しても足りず、新設や建て替えがないと達成が難しい。だが、エネルギー基本計画では、原発増設には言及していない。

他国については「長期戦略等の比較」として、原発の政策の方向性を一覧表で示している。米は「運転延長と次世代原子力投資が必要」。カナダは「今後十五年で二百五十億ドル投資予定」。英は「次世代原子力の開発等に向けたイノベーションを支援」。フランスは「原子力比率50%へ」とし、脱原発を示しているドイツは空欄となっている。

 

 

<原発のない国へ 基本政策を問う> (3)石炭火力 新増設 時代に逆行 依存なお

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071602000125.html
【東京新聞・社会】2018年7月16日 朝刊

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サッカーJリーグJEF(ジェフ)ユナイテッド市原・千葉の本拠地、千葉市沿岸のスタジアムの目と鼻の先に二〇一六年末、火力発電所の新設計画が持ち上がった。燃料は、石炭。建設に反対する元市議の小西由希子さん(59)が憤る。「粉じんの飛散が心配です。環境への影響も大きいのに、なぜ今さら石炭なのか…」

石炭火力の新増設計画が急増している。一一年三月の東京電力福島第一原発事故後、原発停止が続いたため、電力会社は需要を賄おうと石炭火力に頼った。

環境保護団体「気候ネットワーク」によると、既存の石炭火力は約百基だったが、一二年以降に約五十基の新増設計画が浮上。うち六基の計画が東京湾岸にあり、中部電や中国電、九電が出資する関連会社が名乗りを上げた。一六年から始まった電力小売り自由化に伴い、各社は大消費地の首都圏への進出を図る。

「価格が乱高下しやすい液化天然ガス(LNG)に比べ、石炭は価格も供給も安定している」。千葉市で石炭火力を計画する中国電出資の千葉パワーの広報担当者が強調した。

政府は、三〇年の発電量に占める石炭火力の割合を26%とする。一六年時点の32%から下げるものの、LNGと石油がさらに減るため、火力発電の中での石炭の比率はむしろ高まる。

石炭火力が多くなれば、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量が増える。石炭火力のCO2排出量は、高性能な設備でもLNGの二倍に上る。

政府の三〇年時点での目標は、一三年比で温室効果ガス26%減。だが、英国石油大手BPの統計で、日本の石炭消費量は一七年に四年ぶりに増えた。気候ネット東京事務所長の桃井貴子さん(45)は嘆く。「時代に逆行している。日本は世界から取り残されている」

一五年に採択された温暖化対策の世界的な枠組み「パリ協定」以降、脱石炭は最重要課題。フランスは二三年、英国は二五年をめどに石炭火力を全廃する方針で、脱原発を進めるドイツも、廃止時期を含む最終案を年内にまとめる。桃井さんは「日本の石炭火力の事業者は『ドイツは脱原発を進める分、脱石炭はできていない』と言い訳してきたが、理屈が成り立たなくなる」と指摘した。

国内の石炭火力の新増設計画は順調というわけではない。千葉県市原市内での新設を含めた七つの計画が「採算が採れない」などと中止に。仙台市では地元の反発を受け、事業者が木くずを固めた燃料(木質バイオマス)に換える。

海外では、多くの金融機関が石炭火力への投資から手を引き始めた。国内でも、三井住友銀行が低効率の石炭火力に融資しないことを表明。日本生命保険は全面的に投融資を停止するという。融資のハードルが上がれば、事業者は資金が調達できず、計画撤退につながるリスクが増す。

政府はパリ協定で求められるCO2削減の具体策を示せぬまま、石炭の活用を続けようとしている。 (内田淳二)

蘇我火力発電所の建設予定地(手前)。後方は千葉市街地=同市中央区で、本社ヘリ「あさづる」から

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◆エネ計画ではベースロード電源に

エネルギー基本計画では、石炭火力を発電コストが安く安定的に発電できる「ベースロード電源」と位置付けている。「温室効果ガスの排出量が大きい」と課題を挙げる一方、「地政学的リスクが化石燃料の中で最も低く、単価も最も安い」と、燃料の調達のしやすさやコスト面での利点を強調。技術開発による発電の高効率化を前提に「環境負荷の低減を見据えつつ活用する」と普及を後押しし原発と同様に海外への技術輸出も視野に入れている。太陽光などの再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されるため火力などで調整が必要としている。

 

<原発のない国へ 基本政策を問う> (4)むつ市と関電 交錯

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071702000119.html
【東京新聞・社会】2018年7月17日 朝刊

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青森県むつ市の市街地から車で北に二十分ほど。津軽海峡を臨む雑木林の一角に、真新しい倉庫のような建物がある。原発から出た使用済み核燃料を、プルトニウムなどを取り出す再処理工場(同県六ケ所村)に運ぶまでの間、一時保管する中間貯蔵施設だ。

東京電力と日本原子力発電(原電)が出資する「リサイクル燃料貯蔵」(RFS)が建設した。東電柏崎刈羽原発(新潟県)から最初の搬入を予定するが、原子力規制委員会の審査が長引き、めどが立たない。

施設を巡る六月三日の報道で、地元がざわついた。関西電力が美浜、大飯、高浜の三原発(いずれも福井県)の核燃料を搬入するため、RFSへの出資を計画していると、共同通信が配信。地元紙にも載った。

騒ぎが大きくなったのは、福井県の西川一誠知事が昨冬、大飯原発3、4号機再稼働の条件として核燃料の県外搬出を求め、関電が今年中に候補地を示すと約束しているからだ。

むつ市の宮下宗一郎市長は素早く対応した。東電、原電、RFSの三社を市役所への「出入り禁止」に。報道の二日後に上京し、日下部聡・資源エネルギー庁長官に「地域に断りのない中で進めるべきではない」と抗議。六月八日には三社を市役所に呼び、報道内容を否定する言質を取り付けた。十四日の市議会で「報道のような事実はないと認識せざるを得ない」と報告し、騒動は一段落した。

ただ、地元で施設に反対してきた「核の『中間貯蔵施設』はいらない!下北の会」の野坂庸子代表(70)はいぶかる。「市長は頭越しに話が出たことに怒っただけ。核燃料を受け入れないとは言っていない。条件次第で認めてしまうのでは」

上から、青森県むつ市に建設中の中間貯蔵施設、むつ市の宮下宗一郎市長、福井県の関西電力大飯原発3、4号機=コラージュ

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関電は、最多の三原発七基が新規制基準に適合。うち二原発四基を再稼働させたが、使用済み核燃料プールは五~八年分と余裕がない。一時保管場所を確保できずにプールが満杯になれば、原発は動かせない。

再処理工場の稼働が見通せず、電力各社はどこも同じ事情を抱える。プール内で核燃料の間隔を狭めて容量を増やしたり、専用容器で空冷したりすることを検討しているが、いずれも小手先で、限界がある。

実は〇五年にRFSを設立する際、東電は他社にも参加を募った。ただ、応じたのは原電のみだった。

関電に当時の経緯を聞いたが、広報担当者は「記録がなく確認できない」と回答。豊松秀己副社長は六月二十七日の株主総会で、RFSへの出資について「方針を固めた事実はない」と述べるにとどめた。施設の候補地を示す期限は残り半年を切っている。

関電のつまずきに呼応するかのように、与野党の国会議員有志が六月十三日、使用済み核燃料の問題を考える議員連盟を設立。会合は非公開だったが、事務局長の武田良太衆院議員(自民)は「関電問題」がテーマの一つと認めた。出席した野党議員は「自民党には、再稼働のために中間貯蔵に道筋を付けたい思惑もあるだろう」と話した。(宮尾幹成)

<エネ計画では>電力会社 貯蔵拡大

原発を動かせば必ず出る使用済み核燃料は現在、国内に一万八千トンある。国は全量再処理する方針だが、再処理工場は稼働のめどが立っていない。エネルギー基本計画では「貯蔵能力の強化が必要」とし、「安全を確保しつつ、管理する選択肢を広げることが喫緊の課題」と指摘した。国は二〇一五年十月、使用済み核燃料対策に関する行動計画を策定。電力各社はこの計画に基づき、中間貯蔵施設や、専用容器に入れて空冷する「乾式貯蔵」など、貯蔵能力を拡大しようとしている。こうした取り組みを加速させるため、基本計画で「国が積極的に関与」すると強調。自治体や電力会社とともに「安全で安定的な貯蔵が行えるよう、官民を挙げて取り組む」と表明している。

<原発のない国へ 基本政策を問う> (5)核燃サイクル成算なし

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071802000139.html
【東京新聞・社会】2018年7月18日 朝刊

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都心から北東へ約百五十キロ。ヘリコプターから見下ろすと、倉庫のような建物が並んでいる。茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の燃料施設は、民家や畑に囲まれていた。

施設のどこかに、三・八トンのプルトニウムがある。核爆弾約五百発がつくれる量。国際機関の査察官が毎月訪れ、放射線防護やテロ対策で巨額の費用がかかっている。

日本は国内外に、核爆弾六千発に相当する計四十七トンのプルトニウムを保管する。その量は、二十五年前の五倍に増えた。

政府は、原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、再利用する「核燃料サイクル」構想を進めている。だが、国民から電気代や税金で集めた十三兆円を、プルトニウムを燃料にする高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)や再処理工場(青森県六ケ所村)などに投じながらも、構想実現のめどは立たない。

唯一の被爆国として核廃絶の理想を掲げながら、核兵器の材料をため込む日本に、海外の視線は厳しい。

「日本はわれわれに懸念を与え続けている。(東アジアでの)核拡散に加担しかねない」。今年二月、米上院が安全保障担当の国務次官としてアンドレア・トンプソン氏を承認するかどうかの公聴会。民主党のエド・マーキー議員が切り出した。トンプソン氏は「この問題を必ず掘り下げる」と約束し、承認された。

米国の念頭には、北朝鮮がある。プルトニウムをためる日本を引き合いに、「われわれも身を守る核が必要」と抵抗されれば、核兵器を放棄させる妨げになると警戒している。

米国の懸念を解消しようと日本政府はエネルギー基本計画に「プルトニウム保有量の削減に取り組む」との文言を加えた。もんじゅに代わり、フランスが開発する高速炉「ASTRID(アストリッド)」に望みをかけ、共同開発費を負担する計画だ。

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ところが、このもくろみは風前のともしびだ。六月一日に東京・霞が関の経済産業省で開かれた、高速炉開発会議の作業部会。仏原子力・代替エネルギー庁の幹部、ニコラ・ドゥビクトール氏が「開発は緊急性を要しない。出力も縮小を検討している」と説明すると、官僚や三菱重工業幹部らの表情がこわばった。

「仏の原発業界は財政的に厳しく、アストリッドを従来のスピードで開発することに乗り気ではなくなった」。仏モンペリエ大のジャック・ペルスボワ名誉教授(エネルギー政策)が解説する。仏政府と業界はテロにも耐えられる新型炉を推進してきたが、福島事故後の安全規制強化で建設費は当初の三倍に。高速炉開発に資金を回せなくなった。

核不拡散問題が専門の米テキサス大のアラン・クーパマン准教授は「高速炉開発は、米英独など既にほとんどの国が断念。技術的に困難で、採算が取れないことがはっきりしてきた」と明かした。日本の原発政策は成算のないまま、逆風の中を進もうとしている。(伊藤弘喜、パリ・竹田佳彦)

<エネ計画では>実現へ推進維持

エネルギー基本計画は、核燃料サイクルについて「推進を基本的方針」とし、実現を目指す政策の維持を明記した。日本は十七日に延長された日米原子力協定に基づいて、原発の使用済み核燃料から再処理で取り出したプルトニウムの再利用が認められている。

日本は大量のプルトニウムを保有している。しかし、本格利用できる高速炉の開発は進んでいない。ウランと混ぜた「MOX(モックス)燃料」を一部の通常の原発で使う「プルサーマル」は、プルトニウムを少量しか使えない。基本計画では「保有量の削減に取り組む」と明記しつつも、具体的には「プルサーマルの一層の推進」とするにとどまった。

 

<原発のない国へ 基本政策を問う> (6)「教育」の名の宣伝活動

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201807/CK2018071902000151.html
【東京新聞・社会】2018年7月19日 朝刊

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「先生、ここ、根拠は何ですか」。二〇一七年十月十二日の夕方、北海道経済産業局の八木雅浩・資源エネルギー環境部長が、北海道大大学院の研究室に入るなり、山形定(さだむ)助教(56)=環境工学=に詰め寄った。

八木氏の手には、山形氏が四日後に行うニセコ町立ニセコ高校でのエネルギー問題の公開授業の資料があった。

同校は、一四年度に始まった経産省のエネルギー教育のモデル校の一つ。その一環の公開授業で、山形氏は原発の問題点を明らかにし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの重要性を話すつもりだった。

授業の資料に「原発のコストは高い」との識者の試算があることに、八木氏がかみついた。「いろいろな見解があり、高いか安いかは一概には言えない」。福島第一原発が水素爆発を起こした写真には「ほかの電源も事故を起こすのに、ことさら原発が危ないという印象を与える」と迫った。

山形氏は「実際に起きた事故の写真を示して何が悪いのか」と反論。「影響が甚大な原発事故と、ほかの電源の事故を同列に扱う方が問題ではないか」とも思った。約束の十分は過ぎ、一時間以上たっていた。

八木氏の部下の広報担当調査官も同日、モデル校事業の委託先の財団に「驚きで講演の内容が反原発となっておりました(中略)そちらからも明日、ニセコ高校に指導を」と求めるメールを送っていた。

山形氏は授業の根本を変えるつもりはなかったが、原発のコストは「高いという指摘もある」と表現を和らげた。事故のほかに風力発電設備が倒れた写真も加え、授業を終えた。

経産局の対応は、波紋を広げた。ニセコ町長の諮問機関の環境審議会委員も務めるフリーライター葛西奈津子さん(50)らは「教育への検閲だ」と危機感を強め、住民説明会を開いた。

なぜ授業内容に介入したのか。八木氏は取材に応じず、代わりに経産局の広報担当調査官が「一方的で誤解を招きそうな内容だったため、山形氏に再考を求めた」と答え、「検閲の意図はなかった」と釈明した。経産省は今年四月、教育への介入という「誤解や懸念を生じさせる行為だった」として、モデル校事業の中止を発表した。

ニセコ高校の授業の二カ月後、山形氏は倶知安(くっちゃん)町の「再生エネセミナー」の講師三人のうち一人を頼まれた。やはり経産省の補助事業だったが、数日後に「あの件はなかったことに-」。講師は、経産局が推薦した森林組合幹部に差し替えられた。

倶知安町の環境対策室長は「山形氏に内諾を得たが、講師が学識者ばかりになるので、経産局に現場の実務を知る講師がいないか照会していた」と説明。しかし、山形氏は「裏で経産局が町に圧力をかけた疑念を拭えない」と語る。

原発への理解を深めようと、政府は教育や広報に再び力を入れはじめた。だが山形氏と葛西氏は口をそろえる。「政府が伝えたいことしか伝えられないのなら、教育ではない。プロパガンダだ」 (吉田通夫)

<エネ計画では>広報に再び注力

東京電力福島第一原発事故が起きるまで、政府は小中学校に原発の安全性を強調した副読本を配るなど、「教育」に力を入れた。

エネルギー基本計画では「依然として原発への不安感や政府・事業者への不信感・反発が存在する」「原子力の社会的信頼の獲得に向けて、最大限の努力と取り組みを継続して行わなければならない」としている。

過去の原発教育や広報戦略への反省に言及しつつ、教育や広報の重要性を再び強調。具体的には「客観的で多様な情報提供の体制を確立」「丁寧な対話や双方向型のコミュニケーションを充実する」と明記した。

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