9/23「MOX燃料再処理断念」に経産相が猛反発 なぜ?【東京新聞・特報】

2018年9月23日【東京新聞・こちら特報部】

使用済み核燃料を再処理してリサイクルしたプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料。政府は、通常の原発でMOX燃料を利用するプルサーマルを「核燃料サイクル」の柱の一つとして進める一方、「使用済みのMOX燃料」を、さらに再処理するかどうかについては方針決定が棚上げされてきた。福島原発事故後、プルサーマルの先行きさえ不透明なのが現実だが、今月上旬、この問題をめぐって「MOX再処理断念」と報じられると、世耕弘成経済産業相は猛反発し、「MOX再処理」に固執した。なぜか。背景を探った。 (大村歩)

 

「断念」報道に経産相猛反発

MOX再処理 固執する政府

 存続ありきの会計基準

「事実に反する報道。当該媒体に対しては直ちに厳重に抗議した」

四日の閣議後記者会見で世耕経産相は、こうまくしたてた。世耕氏がやり玉に挙げたのは、共同通信が二日に加盟社に配信した「MOX燃料の再処理断念」という記事だ。

原発を持つ電力会社十社は従来、通常の核燃料とMOX燃料の再処理費用をそれぞれ区別して、引当金を積み立ててきた。だが、ニO一六年度以降、両者を区別せずに政府の認可法人「使用済燃料再処理機構」に拠出金として支払うようになった。区別されていない以上、その拠出金は事実上、一般の使用済み燃料からウランとプルトニウムを取り出すための施設・六ケ所再処理工場(青森県、未完成)に使われる。だが、同工場ではMOX燃料の再処理はできない。従って「MOX再処理」は資金面での根拠を失い、断念したことになるーという内容だ。本紙も三日付朝刊で報じた。

これに対し、世耕氏は五日、ツイッターで「『事実上現在の再処理工場に使われる』と言うが、今はMOX再処理工場が無いのだから当然。しかし機構は将来のMOX再処理も含め総額費用算定し、長期計画を立てている」と反論。つまり今後、MOX再処理に向けた具体策が動きだせば、そちらに資金が回るため、「MOX再処理の『資金面での根拠を失っ』たことにはならない」というわけだ。確かに会計上、通常核燃料とMOX燃料を同じ「使用済み核燃料」と仕訳しただけと言えなくもない。

これについて、核燃料サイクルをめぐる会計問題に群しい日本大の村井秀樹教授(会計学)は「世耕氏の主張は、政府の論理としてはぶれていない。使用済燃料再処理機構、それを根拠づけた再処理等拠出金法は、とっくに破綻している核燃料サイクルの存続ありきで会計基準を定めたのだから」と指摘する。

どんな会計基準か。村井氏によれば、日本政府は一九七0年代以降、「使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムの価値は再処理費用を上回る」ことを前提にしてきた。電力会社もこの前提に基づき、使用済み骸燃料を「資産」として計上してきた。しかし、八0年代から政府内でも、「再処理費用の方がプルトニウムの価値を大幅に上回る」との指摘が噴出。その結果、再処理費用のための引当金制度が導入された。こうした経緯があったにもかかわらず、プルトニウムが「資産」という扱いは、現在もそのままだという。

「実態は使用済み核燃料を価値ある資産とは言い難いが、会計上、資産と言い続けないと再処理の意議が崩壊する。だから使用済みMOX燃料にも資産価値があるとして、再処理し続けることにしないといけないのだろう」(村井氏)

 

核燃サイクル とっくに破綻

 「矛盾明らか 政策転換すべき」

 技術、コスト面でも不可能

 

ところで、MOX燃料の再処理は実現可能なのか。可能だとしても、やる意味があるのか。

「使用済みMOX燃料は通常の使用済み核燃料よりもずっと危険度の高い厄介な存在。しかも再処理しても、燃料として使える部分は少ない。無理して再処理する意味はないと思う」。そう語るのは、放射性廃棄物処分に詳しい神奈川工科大の藤村陽教授(物理化学)だ。

MOX燃料は通常の核燃料より、放射線を出し続ける期間が長い超ウラン元素が多く含まれており、発熱量は約四倍にもなる。MOX燃料が取り出し後五十年たった通常核燃料と同程度に冷えるには、三百年かかる。使用済みMOX燃料の中性子線は通常の使用済み核燃料の十倍で、安全に保管するなら中性子線を遮断する水中で冷やしておくしかないが、五十~百年単位で水冷可能なプールなど実現は考えにくい。

藤村教授は「発熱量も放射線量も厳Lい条件となるため、MOX燃料は、通常核燃料よりも再処理時に出る放射性廃棄物を処分するには圧倒的に不利になる。また、使用済みMOX燃料は最初からプルトニウムが含まれているため、使用中に核分裂性でないプルトニニウムが大量に含まれる(高次化)ようになり、再処理してこの汚れたプルトニウムを再びMOX燃料化して利用するのは現実的ではない」と指摘する。

にもかかわらず、使用済みMOX燃料を再処理してまたMOX燃料として原発で燃やすプルサーマル・サイクルについて、政府は無限リサイクルが可能であるような表現を続け、実際にそれで原発のコスト計算をしてきた。

原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「政府や電力会社は、再処理工場からMOX燃料加工工場、原発へとずっとグルグルと回り続けるかのような図を描いてきたが、実際には一回ぐるっと回ることさえ不可能だ」と指摘する。

政府は、MOX燃料再処理を手がける場合、新たに「第二再処理工場」を建設し、そこで再処理するとしてきた。

世耕氏がこれほど力んで「MOX再処理」を叫ぶ以上、政府はこの新工場を建設する方針を固めたかのように見えるのだが、伴氏は「技術面、コスト面、政策面から見ても、第二再処理工場はとうてい不可能だ」という。

そもそも通常の核燃料を再処理する六ケ所再処理工場でさえ、一九九三年に着工して以降、稼働前からトラブルが続出。建設・運営する日本原燃は昨年、二十四回目の完成延期を発表した。当初七千六百億円だった建設費は約三兆円にまで膨らみ、総事業費は、十三兆円に上る見通しだ。

この上、通常の使用済み核燃料よりはるかに厄介な使用済みMOX燃料を再処理する第二再処理工場を完成できる、とはとても信じられない。実際、使用済みMOX燃料を商業レベルで大規棋に再処理した国はない。

一方で、国内外で長崎に投下された原爆六千発分・四十七トンのプルトニウムを持つ日本は、プルトニウムを削減するよう世界から圧力をかけられており、エネルギー基本計画でも初めて「プルトニウム削減」を言明せざるを得なくなった。

核燃料サイクルのもう一つの柱だった高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)を廃炉とし、大規模にプルトニウムを燃やす場がなくなった日本としては、プルサーマルで既存のプルトニウムをMOX燃料として消費していくしか道がないが、MOX燃料を再処理してプルトニウムを取り出してしまったら、せっかく減らしたプルトニウムをまた増やすことになる.

あらゆる意味で無駄としかいいようがないMOX燃料の再処理。伴氏は言う。「世耕民の怒りは、核燃料サイクル全体の行き詰まりを糊塗-こと-せざるを得ない原発推進側の焦りが背景にあるのではないか。もう矛盾は明らかなのだから、政策を転換すべきだ」

デスクメモ

「MOX再処理断念」報道に対する経産相の反論も、背景を調べてみれば、何ともうさんくさい。もんじゅが腐炉となり六ケ所再処理工場さえまともに動かせない日本の技術力で、MOX再処理工場など言語道断だ。原発事故後の現実世界で、いつまで愚かな夢物語を見ているのか。(典) 2018・9・23

大型クレーンで原子炉内へ装てんされるMOX燃料=2010年、福井県高浜町の高浜原発3号機で

今年5月、新たなエネルギー基本計画案について開かれた有識者会議。新計画ではプルトニウム削減をうたいつつ核燃料サイクルを継続するという矛盾した方針が示された=東京・霞が関の経産省で

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