9/26<除染土の行方>知らぬ間に進む 再利用実証事業【東京新聞・特報】

2018年9月26日【東京新聞・こちら特報部】

広島高裁が四国電力伊方原発3号機の運転差し止め仮処分を取り消し、同原発は一年ぶりに再稼働への道が開けた。福島原発事故の教訓を忘れきった司法判断だ。福島県などでは原発事故で生じた膨大な除染土が行き場のないまま残され、土壌を「再利用」するという新たな実証事業が進められる地域の苦悩は深い。住民の頭ごしに実証事業を進めようとした国の思惑をはね返した同県二本松市の人たち。その現場を歩いた。 (榊原崇仁、安藤恭子)

<除染土の行方>知らぬ間に進む 再利用実証事業

 福島・二本松 住民ら猛反対で計画阻止

   埋めて舗装 放射線量調査

「四月に近所のおばちゃんと話をした時、再利用のことを初めて知ったんです。『一軒一軒回って説明してくれるんだろうな』と思っていたら、どうも様子がおかしくて。やる前提でもう話が進んでいたんですよ」。韓国人の女性牧師、金基順さん(五二)はそう語る。

金さんが住むのは二本松市原セ才木-はらせさいき-地区。環境省が除染土再利用の実証事業を予定した場所だ。人口五万人の同市で安達太良山のふもとにあり、JR二本松駅から車で二十分ほど。一帯は色づいた稲穂が揺れ、民家はぽつりぽつりとある程度。人の姿や通り過ぎる車もほとんど見当たらず、スギ林の鳥の声がよく聞こえてくる。

同省は水田の脇を走る未舗装の市道約二百メートルを掘削した上で、近くに仮置いた除染土約五百立方メートルを埋めて土で覆い、舗装後に放射線量を調べる実証事業を計画していた。問題は、現場から二百メートルしか離れていない場所に住む金さんがよく知らないうちに進められていた、ということだった。

実は環境省は昨年末、市議会の全国協議会で再利用の実証事業を市側に報告し、原セ才木地区や周辺地区の回覧板で周知を図ったという。ただ金さんは「そんなにしっかり見てなかったんですよね・・・:」と漏らす。

一方、市民団体「みんなでつくる二本松・市政の会(みんなの会)」は早々に反応した。「除染土は中間貯蔵施設に運ぶと思い込んでいた」。そう振り返る佐藤俊一共同代表(七七)は二本松は避難指示が出なかったとはいっても汚染された。だから土を取り除いたのに、それを埋めるなんておかしな話。被災者感情を逆なでしていると思った」。

みんなの会は学習会を開き、同調する市議や他の市民団体は市政報告会や県への中止申し入れをした。再利用反対を訴えるのぼり旗を市内各地に立て、二万枚近いチラシを配った。署名も集めた。

大きく事態が動いたのは四月二十六日。原セ才木に近い永田地区が求めていた環境省の説明会が開かれた。約百人が集う中、「最終処分地にするのか」「農産物に風評被害が出る」と怒号が飛んだ。再利用の話を知ったばかりだった金さんも、みんなの会の誘いで足を運び「韓国から若者を招けなくなる」と訴えた。

佐藤さんは「私たちが情報公開請求で得た文書から、昨年十月に原セ才木地区の了承を得るための会合があったことが分かったが、参加したのは全二十一世帯中、半数足らずだったようです」と振り返る。

五月には環境省に約五千人分の署名を提出。改めて開かれた説明会でも異論が噴出した。そして一カ月後、同省は市側に「実証事業は再検討する」と事実上の再利用ストップを伝えた。

みんなの会事務局次長の鈴木久之事務局次長(六一)は「阻止の決め手は住民の声の連なり。現場周辺を含めて『反対してもいい』という空気が広がったことが大きかった」と語り、「環境省が昨年末に実証事業の計画を示した直後、原発ゼロを掲げる市長に代わったのも影響があったかもしれない」とみている。

腑-ふ-に落ちないのは二本松がなぜ実証事業の場に選ばれたのかということだ。環境省は「再利用が可能な地域を探した結果」と説明しているが、鈴木さんは「二本松は元復興相の根本匠衆院議員の選挙区だ。前の市長は中央とのパイプを訴えていた。何か関係がなかったか」と疑う。

資材で使えるのは100ベクレル?8000ベクレル?

 「二重基準 変では」

  「知らぬうちに全国に広がる」

なぜ、福島県内の汚染土の再利用が検討されてきたのか。環境省はこれまで、除染で出た土壌などを県内の施設で焼却し、量を減らしてきた。それでも最大二千二百万立方メートル(東京ドーム十八個分)の除染土が残るとみられる。

除染土は建設中の中間貯蔵施設(双葉、大熊町)に運び込まれる予定だが、用地取得が進まず、施設整備は遅れている。しかも三十年後には、県外のどこかで最終処分するという困難な約束もしてきた。

このため同省は、ニO一六年六月、「基本的考え方」を示し「全量をそのまま最終処分することは実現性が乏しい」と指摘。除染土の量を減らすため、管理責任が明確で土場の流出が防げるとの理由から、道路や防潮堤などの公共事業に限定し、資材として再利用する方針を打ち出した。

その第一弾として「実証事業」が始まったのが、一六年七月まで避難指示が続いた南相馬市小高地区だ。一七年四月、区内の仮囲き場の除染土で盛り土をつくり、厚さ五十センチの別の土で表面を覆うなどして、周辺環境への影響を調べる作業に着手した。同省は「空間線量率は事業開始の前と後で大きく変動していない」と覆土の効果を評価し、本年度中に作業工程や留意事項をまとめる予定だ。

ただ、事故前まで同区に住んでいた国分富夫さん(七三)=相馬市=「一部の住民しか知らなかった。いくら線量が低くても、東電の敷地内など、隔離できる区域に保管するべきじゃないか」と憤る。「ここが全国の公共事業に汚染土が広がる第一歩になるかもしれない。東京の人たちにも、目の前の道路に汚染土が埋め込まれる情景を想像してほしい」として、県民で近く除染土問題を考える組織を立ち上げる方針だ。

二本松の実証事業は住民の反発でストップされたが、県内では他に飯舘村の長泥地区で実証事業が計画されている。再利用ではないが、福島県外でも、除染土を覆土して埋め立てる実証事業が茨城県東海村と栃木県那須町で八月と九月、始まったばかりだ。

原発事故から七年半がたつ中、行き場のない除染土の処分への対応が目に見えて浮上してきた形だ。ただ、福島県内の土壌の再利用について「二重基準がまかり通っているのはおかしい」とジャーナリストのまさのあつこ氏は懸念する。

同省の「基本的考え方」の中で、除染土の再利用基準は、放射性セシウム濃度で一キロ当たり八OOOベクレル以下とされた。工事中の作業員や周辺住民の年間被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下となるよう設けられた数値だ。

一方、福島原発事故の前から、廃炉の際に放射性廃棄物が制約なく再利用できる「クリアランス基準」は、同一00ベクレル以下とされてきた。仮に同五OOOベクレルの土を再利用した場合、この基準を満たすための自然減衰には百七十年かかるとの試算もある。環境省は「クリアランスは再生資材として自由な流通を認める基準。再利用は公共事業などに限り、適切な管理の下で使われる。前提が異なる」と説明する。

これら除染土の再利用について、現段階で法律の根拠はない。同省の担当者は「実証事業を踏まえ、安全性の担保など法的整備を検討する」と検討の過程にあるとする。これに対し、まさの氏は「クリアランス基準の最大八十倍もの濃度を扱う想定にもかかわらず、第三者が安全性を確認する手続きや管理年限が定められていないのは問題。覆土が崩れたらどうするのか。実証事業の名の下に既成事実化が図られるのではないか」とみる。

実証事業にいたる住民への説明も不十分と問題視する。「全国の公共事業で汚染土を使うというのなら公聴会を開き、再利用について国民の意見を仰ぐ時期に来ているのではないか。なし崩し的に再利用が始まり、誰も知らないうちに広く薄くばらまかれる状況になりかねない」と警告した。

デスクメモ
処理できない土が再利と言葉を変えて押しつられる。モラルなき計画への地元の怒りは当然だが、国民全体からみれ少数派。反対の声もかき消されがちだ。いつまた計画が復活するか油断できない。原発再稼働に躍起になる政府の後押しを司法もまた恥だと思わない国だから。(直) 2018.9.26

「みんなでつくる二本松・市政の会」の佐藤俊一さん(左)と鈴木久之さん=福島県二本松市で

(上)除染土入りの袋が積み重ねられた仮置き場
(下)環境省が除染土再利用の実証事業を計画した未舗装の市道=二本松市で

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カテゴリー: 最終処分場, 上牧産業廃棄物焼却場問題, 中日東京新聞・特報 パーマリンク