19/1-19/2<背信の果て> (1)~(5) 【東京新聞・社会/特報・榊原崇仁記者】

11歳少女、100ミリシーベルト被ばく 福島事故直後 放医研で報告(1月21日 朝刊)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019012102000122.html

「背信の果て」(1) 消えた双葉町の「一〇〇ミリシーベルトの少女」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019012102000136.html
【特報】2019年1月21日

 

等価線量とは?「甲状腺100ミリシーベルトで発がん増」国の資料で目安に

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019012302000293.html
【社会】2019年1月23日 朝刊

11歳の少女が甲状腺等価線量で100ミリシーベルト程度-。東京電力福島第一原発事故の直後、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研、千葉市)が内部で推計していた被ばく線量の結果は、21日付の本紙報道で明らかになった。これまで国が注意を払い続けてきたのが甲状腺の「等価線量」だった。いったい、何なのか。 (榊原崇仁)

被ばくの影響を示す数値には「実効線量」と「等価線量」がある。全身への影響は実効線量、個々の臓器や組織は等価線量で表される。どちらも単位は「シーベルト」だ。

原発事故で放出される放射性物質のうち、放射性ヨウ素は体内に取り込まれると甲状腺に集まり、内部被ばくをもたらす。この時、放射線の種類を踏まえて算出される甲状腺の被ばく線量が「甲状腺等価線量」だ。一方、放射線が当たった臓器や組織の等価線量を計算した上、係数をかけて足した分が実効線量になる。

これまで甲状腺等価線量の「一〇〇ミリシーベルト」は重要な意味を持ってきた。

内閣府の資料では、チェルノブイリ原発事故の研究を例に挙げ「甲状腺がんの発症増加が認められているのは甲状腺等価線量で一〇〇ミリシーベルト以上」と記されるなど、がんのリスクが増えうる目安として使われてきた。事故前に原子力安全委員会(当時)がまとめた指針では、甲状腺の内部被ばくを防ぐ「安定ヨウ素剤」を服用する指標としても、この値が記されてきた。

国が事故後の二〇一一年三月下旬、原発から三十キロ以上離れた子どもたちを対象に行った甲状腺の内部被ばくの測定でも、「甲状腺等価線量で一〇〇ミリシーベルト」が基準値となり、国は「全員が基準を下回った」と発表していた。

そんな中で明らかになったのが、同年五月に放医研が内部で報告した「甲状腺等価線量で一〇〇ミリシーベルト程度」という十一歳の少女の推計結果だった。つまり、がんのリスクが増えうる目安に達する子どもはいなかったと国が発表してから約一カ月後、それに該当するような推計結果が算出され、公表されずに来た、ということだった。

 

震災後「放射線ニコニコしている人に影響ない」 山下・長崎大教授「深刻な可能性」見解記録(1月28日 朝刊)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201901/CK2019012802000122.html

東京電力福島第一原発事故の直後、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一・長崎大教授が子どもの甲状腺被ばくについて「深刻な可能性がある」との見解を示したと、国の研究機関「放射線医学総合研究所」(放医研、千葉市)の文書に記されていたことが分かった。国の現地派遣要員らが集う「オフサイトセンター(OFC)」にいた放医研職員の保田浩志氏が書き残していた。 (榊原崇仁)

山下氏は二〇一一年三月二十一日の午後二時から、福島市内であった講演で「心配いらないと断定する」「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ません」と発言していたことが知られている。保田氏によると、この日の昼、県庁内のOFCで山下氏と面会。その結果は放医研内部の連絡のため、同日夜に記録していた。これらに従えば、「深刻」発言は「ニコニコ」の講演と同じ日にあったことになる。

本紙は保田氏の記録の写しを情報開示請求で入手した。それによると「長崎大の山下俊一教授がOFCに来られ、総括班長(経産省)&立崎班長とともに話をうかがいました。山下先生も小児の甲状腺被ばくは深刻なレベルに達する可能性があるとの見解です」と記されていた。立崎班長はOFCの医療班長だった放医研職員の立崎英夫氏。OFCは事故直後の同月十五日に福島県大熊町から県庁へ移転。山下氏の講演会場から徒歩五分の距離だった。

山下氏は取材に書面で回答。保田氏との面会を認めたうえで「原発事故直後の避難指示区域内の被ばく、特に、放射性ヨウ素の子どもへの影響は最も考慮しなくてはならないとの見解を示したのみ」とした。

「ニコニコ」などと語った講演については「福島市民への説明。新たな爆発も起きておらず、原発から離れた福島市で深刻な状況は想定されなかった」と説明。避難指示区域内と、区域外の福島市の違いにより、見解が異なったとした。講演があった二十一日時点の避難指示区域は、原発から二十キロ圏内だった。

福島県のアドバイザーは放射線と健康に関する正しい知識を住民に提供する役職。甲状腺内分泌学が専門の山下氏は同月十九日に委嘱されていた。保田氏はこの後、国連科学委員会の事務局員となり、原発被災者の被ばく線量をまとめた二〇一三年報告書の作成に携わった。現在は広島大教授。

 

<背信の果て>(2) 「ニコニコ」発言の一方で被ばく「深刻」真意は?

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019012802000128.html
2019年1月28日【特報】

「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ません」。長崎大教授の山下俊一氏は東京電力福島第一原発事故の直後に、福島市でこう講演した。ところが、同じ日、その会場からわずか徒歩5分の場所で、子どもの被ばくについて「深刻な可能性」と見解を示したことが記録されていた。正反対に感じる「大丈夫」と「深刻」をどう捉えたらいいのか。山下氏は本紙の質問に文書で回答したが、「深刻」発言を聞いた人の記憶と食い違いを感じる。 (榊原崇仁)

 

「線量増加前に避難完了」国の資料 逃げ遅れなし 判断か(2月4日 朝刊)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019020402000137.html

甲状腺被ばく測定で避難者を対象から外した理由を記した資料
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東京電力福島第一原発事故後に国が行った甲状腺被ばく測定を巡り、経済産業省の内部資料に「放射線量が増加し始めた頃には避難が完了したため、避難者は調査せず」と記されていることが分かった。「逃げ遅れなし」とみなし、避難指示区域となった原発から二十キロ圏の人らは調べなかったとみられる。実際の測定では三十キロ圏外の人たちが対象となったが、より近くから避難した人らが対象から外れた理由はこれまで明らかでなかった。 (榊原崇仁)

資料は本紙が情報開示請求で入手した。二〇一一年四月六日の参院災害対策特別委員会の答弁用に作成された。甲状腺測定について「3月12日に20km圏内に対する避難指示がなされたことにより、放射線量が増加し始めた頃には、既に避難は完了していたと認識しているため、避難者に対する調査は行っていない」と記述。答弁では読まれなかった。

この資料には、所管者として同省原子力安全・保安院企画調整課長の片山啓氏と保安院付の野田耕一氏が記載されていた。

片山氏は国の事故対応をつかさどる原子力災害対策本部で総括班長を務めた。現在は原子力規制庁の核物質・放射線総括審議官。本紙の取材に「当時は多忙な時期。資料は別チームの保安院付が作成した。内容は承知していない」と規制庁を通じて回答。野田氏は「手元に資料がない」と取材に応じなかった。一方、測定の担当者らは「一番リスクが高いのは人が住み続けた三十キロ圏外と判断して測定した。基準を超えなかったため、他地域もリスクは低いと考えた」と述べた。

資料は国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)が保有していた。一一年四月の国会答弁に合わせ、関係機関で認識を共有するため、経産省から送られたとみられる。先月の本紙報道で明らかになった「甲状腺等価線量で一〇〇ミリシーベルト程度」の被ばくと推計された少女のように、逃げ遅れた人がいた可能性が高い。

第一原発で最初に爆発が起きたのは、震災発生翌日の一一年三月十二日午後三時三十六分。国は十時間近く前に十キロ圏に避難を指示しており、逃げる人たちの大渋滞が起きていた。午後六時すぎ、避難指示区域は二十キロ圏に拡大された。国の資料によると、同圏内の人口は約八万人だった。

国は二十四~三十日に甲状腺被ばくを測定。対象地域は三十キロ圏外で、測定した十五歳以下の千八十人全員が基準値を下回ったと発表した。福島県の県民健康調査検討委員会の星北斗座長は一五年二月の会見で、多く測定されなかった理由は「分からないとしか答えようがない」と述べた。

 

<背信の果て>(3) 原発事故後「甲状腺測定1080人」の裏側

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019020402000142.html
【特報】2019年2月4日

東京電力福島第一原発事故後、国が甲状腺被ばくの測定をわずかしか行わなかった理由を示す文書が見つかった。「放射線量が増加し始めた頃には避難は完了したため、避難者は調査せず」と記された経済産業省の資料だ。関係者に話を聞くと、「遠方ながら人が住み続けた地域が一番危険」で、「そこで問題がなかったため、全体的に問題なしと考えた」という。調べもせず、逃げ遅れた人がいないと言い切るのは乱暴な論法だ。国は被ばくの実態に向き合う気がなかったのか。 (榊原崇仁)

 

福島原発事故1カ月後「避難者健康問題ない」 国の支援班文書 内部被ばく調べず(2月11日 朝刊)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021102000136.html

東京電力福島第一原発事故直後の二〇一一年四月、経済産業省中心の特命班・原子力被災者生活支援チームが、避難者の被ばくについて「線量は十分少なく健康上問題無い」とする文書を作っていたことが分かった。事故発生から一カ月弱で、避難者の甲状腺内部被ばくを調べずに判断した。公表は見送られた。 (榊原崇仁)

文書は、同月八日の「放射線モニタリング・線量評価に関する連絡調整会議」の配布資料。「今般の原子力災害における避難住民の線量評価について」の題名でA4判一枚。環境省への情報開示請求で入手した。

内容は、空間線量の値を基に算出した外部被ばく線量の説明が中心。同年三月十二日の最初の爆発から二日余り、原発正門近くに居続けても「線量は一・二ミリシーベルト程度」と説明し、この間に避難すれば「線量は相当程度小さい」「健康上問題無いとの評価を提供可能ではないか」と記している。

さらに、原発がある福島県双葉町と大熊町、隣接する浪江町と富岡町は三月十二日中に避難を完了と指摘。一方、甲状腺の内部被ばくに触れたのは三行だけ。国の測定で健康に影響を及ぼす事例はなかったと記す程度だった。

支援チームで担当だった渕上善弘氏(現原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事)は取材に応じ、「甲状腺被ばくは国の測定データで評価できると判断したように思う」と述べた。国の測定は一一年三月下旬に実施。全員が甲状腺の内部被ばくの線量で一〇〇ミリシーベルト相当の基準を下回った。対象地域は三十キロ圏外で調べたのは千八十人だけだった。原発近くの地域から避難した人は除外されていた。

外部被ばくが全身に及ぼす線量については当時、国際放射線防護委員会(ICRP)の平常時の限度「年間一ミリシーベルト」にほぼ収まるという意識だったという。

調整会議は同年五月までに計三回開催。原子力安全委員会から「限られたデータによる推計」などと批判があり、文書は公表されなかった。支援チームは一一年三月末に発足。福島県の県民健康管理調査などに携わり、現在は帰還政策を担う。

 

<背信の果て>(4)結論ありきか 国の避難者支援班文書 詳しく調べず「問題なし」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019021102000163.html
【特報】 2019年2月11日

東京電力福島第一原発事故の幕引きは発生から1カ月足らずで始まっていたのか。本紙が情報開示請求で入手した文書には、国が2011年4月8日の段階で避難者の放射線被害を否定する見解が記されていた。やはり、というべきか。既に報じてきたように、国は同年3月末で甲状腺内部被ばくの測定を早々に打ち切り、被ばくの実態から目をそらした。このころにやるべき作業は、乏しいデータから結論を無理やり導くこと、ではなかったはずだ。 (榊原崇仁)

 

官邸に「疫学調査不要」 福島原発事故で放医研理事(2月18日 朝刊)写真付き記事

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021802000125.html

「疫学調査は不要」という進言が記された文書
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東京電力福島第一原発事故後の二〇一一年四月、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)の明石真言(まこと)理事が福山哲郎官房副長官(当時)に、住民の疫学調査は不要と進言していたことが分かった。原発事故の疫学調査では一般的に、多発が心配される甲状腺がんの患者数や分布を調べ、放射線の影響を分析する。しかし、国は本格的な調査に乗り出さず、福島県が「県民健康調査」を始めた。 (榊原崇仁)

甲状腺がんの原因となる甲状腺内部被ばくの測定も、国は千八十人で終えていた。明石氏はこの測定を問題視しなかった上、甲状腺がんの状況も調べなくてよいと提案したことになる。

本紙は、同年四月二十六日に明石氏らが福山氏と首相官邸で面会し、住民の被ばくについて説明した会合の議事概要を情報開示請求で得た。文部科学省が作成し、放医研が保有していた。

それによると、経済産業省の幹部が「論点として疫学調査の必要性の有無があろうが…」と切り出し、明石氏が「住民の被ばく線量は最も高くても一〇〇ミリシーベルトに至らず」「(疫学調査は)科学的には必要性が薄い」と述べていた。

明石氏は現在、量子科学技術研究開発機構執行役。取材に応じ、「健康影響が確認できる基準は一〇〇ミリシーベルトと理解していたが、外部被ばくは原発の正門付近の空間線量からそこまでにならないと判断した。甲状腺の内部被ばくは国の測定で線量が高い人でも五〇ミリシーベルト、一〇〇ミリシーベルトにならなかったはず」と説明。「必要性が薄い」と判断した理由に、平常時との差が確認できるほど病気が増えると考えにくかったことを挙げた。

放医研は文科省所管で一九五七年に発足した。緊急被ばく医療体制の中心的機関として位置付けられ、福島の事故では官邸や各省庁の助言役として活動。国が疫学調査をする場合は、実施主体になる可能性があった。国がこの調査をしなかったのは、放医研が否定的だったことが影響したとみられる。

 

<背信の果て>(5)原発事故「健康調査不要」背景は 結論ありきまん延

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2019021802000133.html
2019年2月18日【特報】

東京電力福島第一原発事故という世界に類を見ない災害で、国が健康調査をしないのはなぜか。長く抱いていた疑問の答えの一端が分かった。発生から一カ月半で、調査の担い手となりうる放射線医学総合研究所(放医研)の幹部が「不要」と、政権中枢に進言していたのだ。放医研の独断ではないだろう。内部文書には、国の他の主要機関が早々と「放射線被害は出ない」と判断したことが記されていた。被ばくの程度も影響も十分調べようとせず、結論を出したわけか。 (榊原崇仁)

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